第43話 塔へ(2/5)

「地震か?」


 俺がかつて日本人として生きてきた時に、散々地震を味わって来たけどここまでの物ははじめてだった。立っていられないぐらいの揺れと低音の地響きがうねりをもたらしている。


「レン! あれを!」


 リリーの指さす方角を見ると、通路の半分を埋める大きさの物が迫りくる。ライオンの顔と立髪だけが刻まれた巨大な石造の顔だ。


 視界に入り次第、俺とリリーはすぐさま互いに放つ。ところが擦りもせず避けられてしまう。正面から見る限り、石膏のような材質に見えつつも、側面から見るとコイン程度の厚さと思えるほど薄い。その動きが迅速すぎて、想定外の動きで当たらなかった。


「なんだコイツは!」


 俺は降り注ぐ落雷のごとく立て続けに放ち、リリーもまた、雷雨のごとく放つ。ようやくあたり、ガラスのように砕け散る。あたりさえすれば脆いのか、まだわからない。


「レン! あの青紫色のもの!」


「ああ、あれか」


 リリーが素早く見つけて指し示した物は、探していた魔石だ。まさか石造から落ちるとは思いもよらない。石が生きているのか? 疑問が過ぎる物の何があっても不思議ではないので、意識ある対象なら存在はするんだろうと自分を納得させた。


 拾い上げた魔石は、握り拳ほどの大きさでどこか湿り気がある。他に気にすることもなく、収納リングに納めた。


 瀕死だった人らは、どうにもならないのでこの場を立ち去る。


 またしばらく歩くと突き当たる。右か左か。どちらもそう変わりはないように思えた。リリーに聞いても俺と同じ答えだ。それならと利き手と逆の左側に進むことにした。


「なんだ? 何か通過したな?」


「私も感じたぞ。どこか帝国のと似ているな」


 確かに感覚的にはよく似ている。帝国の結界をエルの天使結界で、柔らかくした時の状態に、そっくりな気もする。その直後だ爆発音とともに遠く先から何かやってきた。しかも誰かが追われた状態でこちらに突っ込んでくる。


「ダークインフェルノ!」


「フェアリーランス!」


 俺は、エルのインフェルノをダークボルトで再現した物を放った。こちらの方が広範囲に殲滅できる。当然、追われていた人らなどお構いなしに焼き尽くす。相当数がいたのか辺り一体は、悲鳴で埋まる。


 俺たちの攻撃から逃れるすべなど鼻からなく、攻撃を受けるだけ、受けてしまう。おかげで、どれが誰だか区別などつかない状態で、辺りには死体がころがる。その中で、一際輝く魔石を見つけた。赤ん坊の頭部ぐらいの大きさもある。相手がこの攻撃に弱かったのか、どんな奴か今となっては知る由もない。


 ありがたく、収納リングにしまうと再び歩みを進めた。


 平地は続き、坂でもなくひたすら道なりに歩き続けて三時間程度は体感で経過したように思う。

その間に遭遇戦は二回しかなく、どれもが最初にであったライオンのコイン形石造だった。魔石は最初の時のと同じくらいで、特別な物は感じない。


 鉄仮面のいう通りかもしれない。


 囲まれた石壁はなんの変哲もなく、破損すれば自動的に修復され、以前と変わりない姿で元に戻る。道もすぐに修復されてしまうため、どこを歩いていたのかなどわかるわけもなく、何度も同じ道を行ったり来たりしている感覚に陥ってしまう。


 普通の人間であるなら、先に精神がやられてしまうのではないだろうか。ここに沸く得体のしれない魔獣たちは、まだ遭遇した種類は片手で足りるほどだ。恐らくはまだ序の口で、他に異様な奴がどこかに潜んでいるように思える。


 今までの遭遇した奴らだと、帝国のダンジョンと比べれば十層程度だ。


 黙々と突き進んで行くうちに陽が落ちてくる。どうやらこの未知な場所は、夜が正常に訪れるようだ。

影が最大限まで伸び切ったころ、空気が入れ替えらえたように変わった。


 荒野から突然、鍾乳洞に入ったぐらいに違う。


 同時に辺り一帯の様子が変わる。冬でもないのに、吐く息が白い煙の如く吹けるようになるほどだ。

静けさが辺りを支配する様子は、まるで雪が積もった時のようだ。


「何かが起きるのか……」


「夜になっただけでは無い感じだな!」


 すべてをぶち壊すかのように、地響きと振動がともにやってきた。感覚からすると二足歩行に思える。

遠目からでもわかるぐらいの巨体が通路奥から堂々とやってくる。


「ダークボルト!」


「フェアリーランス!」


 俺たちは見つけ次第すぐに放つ。ところが、今までとは異なった。どう違うのかは見て明らかだった。魔法を無効化してくるタイプだ。


「クソッ! もしや……ついに現れたといえばいいのか――」


「レン! 何だ?」


「奴は……”アンチマジック”だ」


「伝説でしか私は聞いたことがない奴か」


「アンチマジックとはいえ、衝撃波は防げききれないはずだ」


「私は氷を召喚してぶつけてみる」


「わかった。俺は接近戦で挑む。俺に当てるなよ?」


「任せろ!」


 俺はまるで巨大な石柱に向かうかのような感覚を覚えた。この体のままでは、太刀打ちができない。それならば、やることは一つだ。


「ヴォル! テックス!」


 俺は黒い波動を体にまとい、人から悪魔へ一時的に変化した肉体で駆ける。


 俺の突撃にニヤリと笑みを浮かべ、丸太を数本束ねたような剛腕が俺を強襲する。迫るだけで突風と呼べる風圧と気迫が迫る。奴に比べたら俺は小枝のようだ。


 奴の拳と俺の拳が触れる瞬間互いに放った。


「グギャオォォ!」


「ダークインパクト!」


 触れた瞬間、衝撃波が壁や地面を破壊していく。

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