第15話 帝国図書館

「レン!」


「……」


 以前遭遇した女が、再び目の前に現れる。そう、俺が転生して最初に訪れた町で出会った女だ。

 あの時は、衛兵が身をもってして盾となり殺し損ねた奴だった。偶然にしては出来すぎているような気がしなくもない。今回もやたら絡んできそうな勢いだった。


 すでに馬車は売り払い、宿の確保に向かう途中だった。進行方向を妨害するかのように、前に現れてくる。


「レン、聞きたいことはいろいろあるけど、これだけは言わせて」


「……」


「絶対に裏切らない。あなたのことだけは絶対にね」


「……」


 俺はこのまま話さず通り抜けるつもりだった。ところが、脳裏からこいつ関連の記憶が呼び起こされる。


「また、そうやって無言で済まそうとするでしょ? 同じ日本語使わないと忘れちゃうよ?」


「ひなみ……」


 思わず、記憶から湧き出る名前をつぶやいてしまった。とくに意識してでなく、反射的にだ。


「へへ。やっと名前で呼んでくれたね」


「……」


 俺は今、ここでトラブルを起こすわけにはいかない。まだ書物すら確認していないなら尚更だ。このままこいつは放って起き、エルとリリーを連れて宿の確保に向かう。すると、勝手についてきだした。


 無事宿を確保すると、自身も同じ宿だという。どうやら勝手に喋るのを聞く限り、何かの仕事で訪れている様子だ。俺たちは仕方なく図書館にいくことを告げると、ようやく観念したのか仕事にもどっていった。


「レンは優しいな!」


「? どうしてだ?」


「嘘をつかず、ちゃんと正直に話したじゃないか!」


「それって……優しいのか?」


「私はそうだと思うぞ!」


 リリーは何かごきげんだ。その辺りのツボはよくわからない。少し気になることがあり、エルに確認して見た。


「エル、やはり反応はあるな」


「ええ。天使結界なら問題無いでしょ?」


「たしかにな」


 エルの結界は事前に聞いていた通り、優秀だった。何度か空気の層を通りすぎる感覚があり、そのたびにこの天使結界が作用したように思える。そんなことを考えていると、隣でリリーが落ち着かない。


 リリーはどこか、ハラハラするような様子を見せていた。


「レンいいのか? あの娘どう見てもレンに……」


「構わない。目的が異なるし、俺は人ではない。俺たちとは対等にはムリだ」


「そうか。そうだな!  私とレンなら対等だな。うん。そうだそうだ」


 リリーが言いたいことはわかる。俺もひなみのそれは、薄々感じてはいてもどうにもならない。あの娘は蓮次郎のレンを慕っているのであって、悪魔であるレンではないからだ。

 このまま図書館に今日は、入り浸るつもりだ。なんとしても新たな情報と痕跡を探し出したい。そう思いながら進むと、宿で教えてもらい辿り着いた場所は巨大な建物だった。知恵とは貴重な財産であるとの認識をもっているらしく、どの建物よりも大きく荘厳な雰囲気がある。


「レン! これはすごいな! こんなに大きい建物を見たのは城以来だぞ」


 口を大きく開けて、リリーはどこかはしゃぎながら、建物を見上げる。俺も現代文明を知っていても、この大きさには驚かされる。

 恐らくは、迎賓館並の大きさを誇るのではないかと思うほどだ。これだけ立派であることからやはり、知識の集約には相当力を入れているように見える。これならば、期待は出来そうだ。


 すでに階段から、静謐な雰囲気を生み出している。十数段を上り、受付に向かった。


    迎えてくれたのは司書だろうか、注意事項を聞いて入場料を払うとようやく入れた。外側からも感じていた物は、中に入ると余計に感嘆する。それは、あまりにも広すぎた。俺たちは手分けして、まずは一階東側から探す。東から北へいき西側を探したあと、最後に南側の棚を探すつもりだ。


    ――数刻後


    結論から言えば、新たな情報はあった。


    ただそれが示す物は、疑問が残る。いわゆるダンジョンの最奥に、隠された部屋があるらしい。歴史から消されるほどの奴らの、このような秘匿すべき情報が、大衆向けの本に残るのかと疑問が残る。


    仮にどこかの奴から監視をされていたなら、このような些細なことでも調べあげられたに違いない。となるとがせネタなのか、それとも多数ある情報の内の一つなのか、見ないことには、わからない。


    今回得た情報は、他にもある。ただし、この帝国の町でしかも近くのこととなると、ダンジョン関連しかなかった。


「今回は、いくか……」


 仕方なしという感じで、声が漏れ出る。こちらからチャンスを振り撒くような物だ。よほど重要か、ただのマヌケかどちらかだ。


「襲撃には、格好の場所ね」


「ああ、奴らにしたら好都合だな。ただ今回は、危険を犯してでも行く価値はあるだろうな」


 エルも同じく襲撃を予測していて、魔獣の対処と襲撃者の対処の二重で対策が必要だ。


「レン!  私も行くのは賛成だぞ!」


 リリーの賛成は、恐らくお宝に目が眩んでのことだろう。どこか目が輝いているのは、気のせいではなさそうだ。


 俺たちがやれる準備はとくにないため、すぐに出立する。ダンジョンの状況は先の図書館で調査ずみだ。

帝国の隣接するダンジョンのゲートへ向かいあゆみを進めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る