第16話 ダンジョン二十層 巨大魔獣(1/5)

 俺たちはすんなりダンジョンに入れた。


 出入り口は、この国に存在する探索ギルドが管理をしており、出入りの人数までは管理していなかった。単にスタンピード時に、最初の発令塔の役割でしかないとのことだ。このダンジョン内で起きることは、誰も関与しないし何も制限がない。


 ならば、俺たちが入った以降は、魑魅魍魎たちの殺戮の場として切り替わるだろう。そうなるのは、早ければ今夜ぐらいからだ。追手と魔獣を交えた、過酷な戦場と化しそうだ。


 構造として知っておく必要があるこのダンジョンは、かなり深い層まで存在している。その数、五十以上はくだらないという。その先はまだ誰も訪れたことがなく、また誰も挑戦していないとのことだ。理由は、そこいら中にいる魔獣が、相当上の力をもっている。いわゆるボスクラスが、ウヨウヨといるアンバランスな状態だという。


 俺はそこが本当に、焼印師がいた場所かもしれないと考えていた。それだけの強さを誇る魔獣の湧き出る場所を、難なくいける強さをもっているとしたら、比較的隠れやすいだろう。彼ら自体が、自ら焼印を施してあるなら、尚更だ。


 そして、俺たちが素早くそこに到達できる方法が一つある。それは、エルから授けられる天使結界だ。これは気配すら不可視になって、仮に接触したとしても相手は、わからない。ただ万能というわけには行かない。神族と悪魔にはバレる。


「エル頼む」


「私もだ、頼むぞエル!」


「わかったわ。天使結界!」


 金と銀の光の粒に包まれた俺たちは、目には見えない結界が全身に施された。エルが解除しない限り、この結界は解除されない。俺が知る限り最高の結果だ。


 さっそく魔獣に出くわしても、彼らは気が付かない。試しにぶつかっても、何が当たったのか理解をしていない様子だ。ただし、会話をすればそれは聞こえてしまうので、それは避ける。


 この方法でひたすら歩き続けると、難なく二十層まで到達する。この時点ですでに十時間は経過している。一層当たり最短距離で行くと、大体三十分ほど歩けば、次の階層の入り口につく。


 いくら低層の魔獣が弱くても、数こられたら足止めは食う。それを考えると、圧倒的な速さで進行している。追手の連中も急いで襲撃しようと、どんなに急いでも階層分の時間は動かせない。遭遇までに必ず、浪費する時間だ。 


「ここまできたか……」


「そうね。レンは温存して。私が倒すから」


「うんうんよいぞ! よい! よい連携だ!」


 何かリリーは、とても嬉しそうにうなずく。ほんとに変わったところがある。


 今目の前にあるのは、二十層の階層主部屋の手前だ。このダンジョンは、二十層ごとに階層主がいて、今回は初戦だ。


 天井ほどまである白く大きな見開きの扉は、入るのはたやすい。敷居をまたぎ一定時間が経過すると、この扉が閉まり対峙する仕組みだ。


 体感にしてわずか三分程度で扉はしまった。


「リリー。今回俺たちは、後ろに下がるぞ」


「わかった! エルの攻撃は楽しみだな」


「エル、任せた」


「任されました」


 なんだかエルも、いつもより楽しそうなのは、気のせいだろうか。もしや、リリーに感化されていることなんて、ないよなと思いながら正面をみる。 


「グラゴォゥー!」


 雄叫びを上げて現れたのは、背丈五メートルほどの二足で立つ白熊に近い奴だ。急激に気温が下がりはじめると途端に息が白い。


 すでにエルは羽根で舞、宙を浮く。奴の顔の位置まで浮上すると同時に、赤黒い魔剣を頭上に掲げる。


「執行者の炎! インフェルノ!」


 剣先から、地獄の業火と言える灼熱の火炎が吹き上がると、その火柱が天井から無数に、シロクマへ降り注ぐ。一本の太さが、体格を一回りも上回っていることから、避けようがない。観念したのか腕を交差させて、防御体勢と氷の氷柱状の結晶で目の前を守る。


 たしかに奴にとっては、最善の手段だろう。ところが相手はエルだ。しかも、熾天使ラファエルの名をもつ存在だ。到底その程度の防御では防げるわけもなく、最も簡単に貫かれ、身体を一瞬にして焦がされる。


 出来上がったのは、巨大な黒炭だ。


「終わったわ……」


「エルの手の内は、まだまだありそうだな。さすがだ」


「レンのダークボルトには、まだ叶わないわ」


 思いのほか、互いに讃えあう形になってしまった。そんなつもりじゃなく、単にすごかったことを言いたかった。


「エル! すごいじゃないか! 私もいつかできるようになりたいぞ!」


 リリーは途端にはしゃいでいる。このポジティブ&モチベーションアップ思考は、時々羨ましく感じる。


 奴が倒れた近くに、宝箱のような物が出現してきた。これがいわゆる、お宝というやつだろうか。リリーの目が輝いて、期待感が止まらなそうだ。なので、さっさと開けてみる。


「それじゃ開けるぞ。罠なんて……ないよな?」


「ええ。大丈夫見たいよ」


「エルはすごいな! そんなこともわかるのか!」


 リリーのテンションが高すぎる。俺は鍵を手刀で破壊して、おもむろに開けると中に銀色のリングが一個置かれているだけで、他には何もなかった。


 リングの裏側をみるとエルを召喚した時のような、似た文様がある。まさかあの召喚師の連中がここに納めたなんてわけあるのか。と疑問に思いながら拝借した。


「多分これは召喚リングだ。ただ、エルを召喚したような強力なリングの方ではなく、どこかそれより規模が小さいようにも感じる」


 エルに手渡すと、訝しげに眺めている。


「そうね。レンのいう通りかもしれないわ。多分だけど、使い魔召喚かもしれないかな」


「おー! いいな! それは!」


 リリーのハイテンションぶりが、止まらない。


「だとすると、ここを出てからにするか」


「ええ、そうした方がいいわ」


「えっ! えっ? ここでやらないのか?」


 リリーは意外だと言わんばかりの表情で、こちらをみる。


「ああ。これはな、悪魔の血を大量に使って召喚をするんだ。この場所だと危険だろ?」


「ああーそうか! 理解した」


 リリーは納得したと大袈裟なほど頭をふる。なんだかこの素直さが眩しい。そうしていると奥にあったもう一つの扉が開き、次へ進めるようになった。


 俺たちは、そのまま休まず次へ向かった。

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