第40話 魂の使い魔


 エルを呼び出した時ほどではないぐらいの光の奔流が現れた。変わらず金色の粒子があたりに立ち込める。すると、その中から、人の背丈ほど漆黒の柱が二本、突然現れた。


 焦茶色の古いなめした皮の風合いをもつ扉は音も立てずに、開き始めた。


「俺を呼び出したのは、お前か? どうせ探してこいというんだろ? 蘇生に必要な魂をさ。わかっているんだぜ」


 やけに挑発的な態度を見せる使い魔が現れた。背丈は俺より低く猫背でやけに体は、細い。

なぜか燕尾服をきて身なりだけはしっかりしていた。髪は黒く猫っ毛のようで肩までかかる髪は

細く少なめだ。顔は日本人そのものと言ってもいい。


「それで?」


「かー。それで、だって? 俺にも自由ってのがあるんだよ。成功した暁には、お前の命を……」


 突然自身の額に手をあてて、あたまを反る。両手で頭抱えているほど、困った様子の訴求なんだろうか。


「ダークボルト!」


 俺は間髪入れず放った。また次に別の奴を召喚すればいい……。こいつはいらない。


「うひゃっ!」


 裏返った声を出して必死ながら、何とか致命傷を避けるべく回避はする物の、腕はちぎれ飛ぶ。足も片方は消滅して辛うじて、背中の羽で浮遊している。奇妙なことに奴は出血をしない。


「死ね! ダークボルト!」


 俺は、最後の一撃を与えようとしたところ、寸前で止めた。


「……生き残りたいか?」


「はい! 生き残りたいです!」


 必死にうなずく。完全に白旗をあげた状態だった。


「成果さえ出せば、希望を聞いて”実現可能だと俺が考える物”ならそれを対価として支払おう。どうだ? もちろん終えてから殺すようなこともしない」


「うわー。やばすぎる。本気でヤバイ。俺っち召喚されたから、召喚した対象のことは、わかりたくなくてもわかっちまう。マジだな? マジすぎてヤバイ」


 かなり怯えている様子がうかがえる。まるで演技ではと思うぐらいのオーバーリアクションだ。


「それで、どっち何だ?」


「お受けします。全身全霊でもってことにあたり、早期に解決します。早期とはここの時間でいう一ヶ月内に、なんらかしら成果を出します。都度報告しますんで……」


「わかった信用しよう。裏切ったら何度でも召喚して、俺が満足するまで殺す」


 召喚した側が明確に縁を切らない限り、逃げることも自由もない。


「マジかー! やっぱマジですよねー。俺とんでもない人に召喚されたな……。早速、その人のですよね? 今保管してから探してきます」


 すると、エルに触れたかと思うと空間に穴が開き、その中にゆっくりと飲み込まれていく。その後、慌てて空間にドアを呼び出すと、ノブに手をかけて回し中に入っていく。閉める直前にこちらへ向けてお辞儀するのは忘れずにだ。


 今回は本体ごといくつもりらしい。少し脅かしすぎたかもしれないな。


「奴は、魂探しにおいて第一人者だからな。おそらく汝が召喚したら逃れる術はないだろな」


 アルアゾンテは愉快そうにいう。召喚した場合は、された対象の生殺与奪は召喚した側がもつことになる。ゆえに、最初は強気に出る者もいるという。今回がちょうどその事例なんだろう。


「アルアゾンテは、どうするんだ?」


「同士よ、アルでいい」


「わかった。アル。これから、どうするんだ?」


「我は、気になる人物がいるゆえ、その者と接触をしてみる。気になることがあれば顎骨指輪に語りかけるといい。我が応答できない時は代理で、顎骨の意識が対応してくる。要は残滓みたいなものだ」


 わかったとはいえ、奇妙な指輪だ。


「なるほど、便利だな。ダルザードは息災か?」


「よくぞその名を知っておるな……」


「ああ。悪魔の時に調べたからな」


「そうであるか。奴なら数年前から行方が……我でも知らぬ……」


 どこか遠い目をしながらいった。嘘をつく必要もないし本当に知らない顔をしていた。

出会った順番が違えば、また違う結果を生み出していたかもしれない。


 そう思うと二番目に遭遇した召喚士がアルでよかったと、今更ながら思う。


 旅立つ前に、材料を聞いてみると今までに聞いたことがない名のつく物ばかりだ。そんな物が存在するのかと疑心暗鬼になるような由来の物まである。それでもアルはしっかりと存在するとまで言い切る。


「すべてで八個か……。それなりにあるな」


「そうだな。どれも貴重品ゆえ、早々には手入り辛いだろう。これを持っていくといい」


 俺にまた指輪を投げてよこした。


「これは?」


「ああ。収納リングだ。当人の魔力に応じて格納できる量が変わる。一度どこでも良いからはめるといい。一度はめれば例え、指であろうと腕だろうと切り落とされても、奪われることも失くすこともない。レンの魂に刻まれるかのう」


「そいつは凄いな。いいのか? そんな大層な物をもらって?」


「構わんよ。時間があればまた作れる」


 まったく凄い技術だ。このような者たちが過去多数いたにもかかわらず、遠く及ばなかった敵とはなんだろうか。


「最後に一つだけ、教えてくれ」


「うむ。なんだ?」


「焼印までして打倒できない敵とは”何物”なんだ?」


「ふむ。”何者”ではなく”何物”と聞くか……。その問いは、ある意味正しい」


「どういうことだ?」


 アルは思うことがあるのか、間をおいて語り出した。

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