第37話 妨げられた女神の悪意(2/2)

「なぜだ! なぜなんだ!」


 今の俺には、女神に対する殺意しか思いつかない。

女神に奪われたのは、今回で二回目だ。


 俺の感情は、濁流に飲みこまれたかのように荒ぶれる。

思考は一方通行になって、脳に殺意が焼きつくほどの感覚がうねる。

また体の内側からは、湧き上がる衝動が抑えきれず解き放たれていく。


 一言では言い表せないほどの、精神状態が続く。

その中で、あの女神はしぶとく再生を繰り返す。

俺が幾度となく、ダークボルトを放ち四肢が砕け散ろうともだ……。


 奴を倒すには何か方法があるはずだと、探ろうとしてもそんな急には見つからない。

ただ、怒りに傾倒している今だからこそ、発揮できる力もある。


 異常なほどの力を解き放つ悪魔化と、ダークボルトが悪魔の時以上に放てることだ。

今できることはすべてやり、力押しで立て続けに放ち攻め抜く。


 その俺の要望に心も体も魔力もすべてが応えてくれている。

まだだ、こんな物じゃない。どこか、焦燥感にかられながらも止めることなく撃ち続ける。


    突然何の前触れもなしに訪れた。変化が現れはじめたのは、どれぐらいだろう。


    あのしぶとかった女神はついに、変わりはじめた。近い者を指すなら、二足歩行の”動物”だ。

顔や目つきからは、もはや知性をまったく感じない。


 蘇生しすぎたためなのか、脳や意識はすでに別物ですら思えてくる。

もう一つの光の女神により、肉体のみが復帰しただけに近いのだろう。


 こうなると怒りや憎しみを通り越して、無様としか言いようがなくて憐れだ。

憎き対象が、意識も意思も失った、ただの動物になりさがったのであるならばだ。


 女神は、力を取りこめたのは最初のうちだけで、自身で制御していると思いきや今は違う。

俺の力も、他人事では済まされないリスクを抱えている可能性がある。


 この光の球体は、当初名前こそ”女神”とは言うものの実は、原始的な物かもしれない。


 この姿や行動を見る限り、その答えにいきつく。

原始的であればあるほど、生に対して執着を持つものだ。


 今の様子からすると、本能的に危機感を覚えているかもしれない。

癒合したのかそれとも、単に一時的に取り込んでいるだけなのか、再び体が光り部位の再生が始まる。


 再生は……。失敗のようだ。


 どうやら今回は、完全には復元できていない状態だ。左腕の肘から先が再生できていない。

待ちかねたエネルギー切れであることに期待をしながら、俺は再び全力で放つ。

   

「グゥボアッォォ……」


 痛みに耐えかねたのか、意味不明な声を漏らしている。


「そろそろ終わりにしよう。さらばだ……。ダークインフェルノ!」


 俺は、エルがよく使用していたインフェルノを、俺のダークボルトの力を使い新たに再現した物だ。

ようやく今になって、使えるようになった。


 漆黒の黒い炎は、まるですべてを飲み込むように、辺り一体を焼き尽くす。

当然女神は、その中心となって焼かれていく。


「グルギャォゥゥ」


 断末魔の叫びなのか、ダークインフェルノが過ぎ去った後には、何も残らない。

光の女神も丸ごと焼き払ったんだろう。


 終わった。ようやく終わったんだ……。エル……。


 俺は女神がいた場所を再度見ると、すべて消え失せて消滅したことを確認した。

それからエルとリリーの元へ向かう。


「レン!」


「リリー……」


 リリーは駆け寄ってきた。エルが汚されないよう、移動をしてくれたことに感謝しかない。


「私も辛い。レンはもっと辛い……」


 泣きながら俺の胸にリリーは顔を埋めた。短いながらリリーもエルと深く交流をしていた。

まさかこんな最後になるとは俺も思っても見なかったし、俺の心にここまでエルの存在が

占めていたのは、改めて知らされた。


 でも、気づいた時はいつも手遅れだ。俺は何も学んでいないな……。ふと自虐的な気持ちになる。


 心はささくれ、痛みを伴う。エルはまるで眠ったように見える。

切なさは、胸を締め付けて苦しい……。


 その時だ、今になって気がついたのことは、まだここは神殿だ。


「リリー。ガブリエルも女神も死んだ。なのにまだ俺たちは神殿にいる……」


「そうだな。確かに神殿だ。ここは……」


 もし幻影の類なら、ここで晴れてくるはずだ。転移ならまた違う様相を見せる。

一体今、何が起きているのか。


 すると頭上から、ゆっくりと舞い降りてくる者がいた。

あの姿形は忘れもしない人物だ。しかも今もっとも力を貸して欲しい人物でもある。


「アルアゾンテ!」


 思わず俺は声をあげて、存在を確認してしまった。

彼は、遠目からでもわかるよう、こちらに手を振って意思表示をする。


 今はなぜここにと言うより、聞きたいことがありすぎる。

きっと彼なら、エルの蘇生について何かヒントを持っているはずだ。

他に大事なことは、召喚師と焼印師のことも。あの部屋のこともだ。


 俺とリリーは降下してくるのを待ちかねていた……。


 エル、必ずお前を蘇られて見せる。


 俺はエルを見つめて、固く心に誓った。

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