第35話 不思議な行動
「何ですかその顔は…気持ち悪い」
「悪い悪い。今日は早いんだな? 文化祭の準備とか部活は無かったのか?」
16時半、俺はリビングで葵を迎え入れた。
昔の事を思い出してただけなのに、随分時間が経っていたようだ。
「部活は休み、文化祭の準備は部屋でやろうと思ってます」
「なるほど」
そういえば前も夜中まで起きてた事があったな……もしかしてその時も文化祭の準備をしてたのかも。夜食の準備でもしとくか?
俺がそう考えていると葵が俺の横を通り過ぎーー
「…って何してんの?」
「何って…今日は私が夕食を作ろうと思いまして」
そう言って、持ってた買い物袋をキッチンの上へと置き、葵は包丁を掲げる。
危ない……まぁ、この前一緒に料理をした時はまともな料理だった。心配しなくても大丈夫か。
「手伝わなくても良いか?」
「大丈夫です」
そう言うと葵は、ガサガサと袋から食料を出して夕食の準備を進めるのだった。
何故急に作ってくれるのかは分からないが。
*
「ふぅー…」
よし。一先ずは自然とキッチンへと立てた。このまま環に言われた通りにするんだ。
私は淡々と食料を切っていく。
何故私が急に料理をし始めたのか、それには理由がある。
『まず、妹の手料理。私はこれに限ると思う』
『…はぁ?』
『だから妹の手料理! 愛する妹からの愛のこもった愛妹料理!!』
『……』
『そうすればお兄さんもメロメロ
『あ"?』
『も、もとい、許そうかなってなると思うの!! 料理の手間も省けるしね!! それでその後は〜〜』
はぁ…心配しかないよ。
私は一抹の不安を抱きながら、料理を進めていくのだった。
*
「ん? 終わったのか?」
俺がスマホを弄っていると、キッチンの方から手を拭きながら葵がやって来る。
「あとは煮込むだけです」
「そうか、おつかれ」
「うっ…別に大した事ありません」
労うと、葵は顔を顰めて否定する。
こうやって話している時に無表情でなく、表情豊かに感情を表現してくれる様になったのは俺達の関係が大きく進歩したおかげだろう。
俺は自然と上がりそうになる口角を抑え、葵を見ていると突然ーー
「あの、さ…つ、疲れてない?」
途切れ途切れになりながらも、葵が敬語を外して話しかけて来た。
「疲れか? んー…」
肩を回して、体に凝りがあるか探す。
特に気になった所はないがーー
「…」
葵の何処かねちっこい視線が突き刺さる。
「あー、少し体がだるいかもなぁ」
「な、なるほど…!」
俺がそう言うと、葵は口元を綻ばせる。
敬語がなくなったかと思えば、今度はこんな嬉しそうな顔を見せてくれるとは。珍しい事もあったもんだ。
「じ、じゃあ! こっち!!」
しかし突然…
「へ?」
葵は俺が座っているソファの隣に座ると、恥ずかしげもなしに自分の膝を指差した。
「ごめん。あの、どう言う事?」
「膝枕してあげるって言ってるんですよ!!」
いや、それは何となく分かってたけども…制服のままで? 流石にちょっと抵抗があるんだけど。
あの学校の制服は、規則では膝下にはなっているが皆んなほぼそれを守っていない。守るとしたら定期的に行われる服装検査の時のみ。
今は膝上、つまりスカートが膝上まで来てるって事だ。
ご、ごくりっ
自然と鳴る喉に俺はーー
ドゴッ
「え!? どうしたの!?」
「ご、ごめん。何でもない。何かほっぺが痒くて」
俺は心頭滅却する為に、自分の頬を殴って冷静さを取り戻す。
いくら現役JK、いくら美少女だと言っても、葵は俺の家族だ。そんな事を考えて、して貰うなんて言語道断だ。
「そ、そう? なら良いけど…やるなら早くしてよね!!」
「…いいのか?」
「は、早く!!」
そう。葵はこっちの心配をしてやってくれてるんだ。その厚意を無駄にしてはならない。
「じゃあ、失礼して…」
ゆっくりと葵の膝に向かって頭を近づける。
トスッ
「んっ…!」
俺が横向きに頭を置いた瞬間、葵の口から何処か艶めかしい小さな声が漏れる。
「……あの、大丈夫でしょうか?」
「あ、あまり動かないで下さい! くすぐったいじゃないですか!!」
「ぶへっ!?」
俺が葵に視線を向けようとすると、葵からの拳が頬へと突き刺さった。
拳と太ももにサンドイッチされる…硬く小さな拳と、柔らかくハリがあって少し熱い太もも。
最悪なのか最高なのか分からない…。
「い、今のは貴方が悪いんですから!!」
「は、はい。気をつけます」
「はぁ…動かさないようにしないとね」
ポンッ
え?
今すぐそこから逃げ出したかった俺だが、葵が俺の頭に手を置く事で逃げ出させないようにして来た。
「これで…うごけないね?」
「…はい」
え、何? 怖すぎるんですけど? 俺は今から何をさせられるんだ?
そんな事を思っていた俺だが、視線だけ少し上に移動させると、少し頬を染めながら笑う葵の顔が見えた。
いや…何もないか。
それを見た俺は少し安心して、ゆっくりとだが目を閉じたのだった。
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