第21話 あの人の到来
「はぁ」
私はご飯を食べ終わった後、部屋で大きく溜息を吐いた。
何故こんな大きな溜息を吐いているのか。それには理由があった。
「色々やる事多過ぎて疲れた…」
葵は自分の部屋で1人呟く。
今日は朝から寝坊するし、文化祭実行委員で仕事が多いし、部活もある。それにママ達は帰って来れないし…何か最近良い事無いかも。
葵はお風呂に入る事も忘れて、ベッドの上で眠りにつくのだった。
*
「葵の奴…寝ちゃったのかな」
俺は食器を洗う中、上を見上げる。
ご飯を食べた後、いつもなら体操服等をさっさと洗濯機に入れ洗濯する筈だ。
それなのに2階から戻って来ないと言う事は…起こすか? いや、俺が部屋に行ってもする事はないよな。
疲れてるなら洗濯をしてあげたい所だが、年頃の義妹にそんな事出来ないし…。
「はぁ」
大きく溜息を吐いた瞬間、
「世理く〜ん! 遊びに来たわよ〜!!」
外から大声で俺の名前が呼ばれた。
しかもこの声は…そう思って急いで手を拭き、靴を履いて外に出る。
「暇だから遊びに来ちゃった!」
玄関前には目の下に大きな隈を作りながら、笑顔で仁王立ちしている那由さんの姿があった。
「那由さん…何時だと思ってるんですか」
「21時! まだ昼ね!」
那由さんはグッと親指を立てる。
「…」
ガッ
「那由さん足退けてください、扉が閉まらないじゃないですか」
「い、いやよ!! 退けたら閉めるじゃない!?」
俺は何分か玄関で言い争いをした後、これでは近隣に迷惑が掛かってしまうと判断して家の中へと入れる。
「で? 何でこんな時間に?」
「今ちょうど一区切りついて…まぁそんな事はいいじゃない! おじゃまします!」
「ちょっと声大きいって! 妹が寝てるかもしれないんだから!」
俺は那由さんに静かにする様に頼みながら、後を追う。
那由さんはリビングのソファに座ると、恍惚とした表情で大きく息を吐いた。
「久々の世理くんの家ね…」
「顔ヤバいです、那由さん」
「う、うるさいわね。別にいいでしょ…」
俺は少し呆れながらお茶を淹れる。
那由さんが家に来るのは高校以来、つまり3年は経ってる…だけど、流石にその顔は引く。
そんな事を思ってる俺を置いて、那由さんは部屋を歩き回り始める。
「…やっぱり変わったわね〜」
那由さんの視線の先には、観葉植物やぬいぐるみ等の置物があった。
「そりゃあ新しい家族が増えましたからね、しかも女性が2人も増えましたし」
「女性って…」
「え、何ですか?」
俺はお茶を那由さんに手渡す。
「あ、ありがとう、別に何でもないわ。流石に妹さんに嫉妬はみっともないわよね…女の子でも女性よね…」
「何か言いました?」
「何も言ってないわ!!」
那由さんはお茶を呷り、凄い熱がっている。随分と忙しい人だ。
はぁ、誰かさんもこんなに分かりやすければ苦労はしないのにな。
そんなありもしない事を思いながら小さく息を吐き、自分のお茶を啜る。
「…世理くん、何か悩み事?」
「……本当に何でそんな分かるんですか?」
「私って結構鋭いのよ!」
「それはないですけど」
直ぐに切り返した俺に「何でよ!?」と驚いている那由さん。
世理はそんな那由に、また葵について相談する事にしたのだった。
「ふ〜ん…まぁ、年頃でしょうね」
「やっぱりそういうのってあるんですね」
俺と那由さんは椅子に座りあいながら話していた。
「当たり前じゃない! 新しい環境に新しい家族、しかもその人と2人で暮らすなんて相当ストレスも溜まるでしょう!」
なるほど…俺はそんなに気にしなかったが、女子高生からしたらそうだよな。
「どうすれば良いですかね?」
那由さんに聞く。
「とりあえず妹さんにアドバイス! 何か行き詰まってる時は何もしないでゆっくり休息を取ってみる事も大事なのよ!」
「なるほど…じゃあ俺は何を
「世理くんは気を遣い過ぎ!! 大事なのは分かるけど、あまり気にし過ぎてもその子の為にならないし、何よりウザい!! 私も兄がいるから妹さんの気持ち分かるわ!!」
…また抉られるのか。
話を遮る様に話す那由さんに、俺は少し胸を抑えながら頷く。
「…分かりました。伝えてみます」
そこで突然、那由さんの漫画『空白の渇望』のオープニング曲が流れ、那由さんが携帯を手に取る。
「げ…もしもし…えー…はい…分かりました」
タン
「もしかして編集さんですか?」
「えぇ…今から直さないといけないみたい」
那由さんの周りの空気がゲンナリとしている事が感じ取れる。
「まぁ…仕事ですから頑張って下さい」
「…」
「どうしたんですか?」
送り出そうと那由さんの背中を押すが、那由さんは抵抗するかの様に力を入れている。
「那由さん?」
「…もう少し居たい気も
「今ならタクシー乗り場まで送りま
「さっ! 早く帰るわよ!!」
そうして俺は、那由さんをタクシー乗り場まで見送った。
「じゃ、お仕事頑張って下さい」
「えぇ、そっちも色々頑張りなさい。あ、あと年頃の女の子は洗濯して貰うのは嫌な筈。でも結局困るのは自分なのだから、やってあげるのが"愛"ね! 例え自分が怒られるとしてもよ!」
「分かりました…あ、その前にちょっといいですか?」
世理は外でアイディアが出た時用に持っていた、ペンとメモ帳の紙を那由に渡した。
「何?」
「実は妹、"空白の渇望"好きみたいなんです。だからサインでもと」
「へー! それは嬉しいわ!」
那由さんは嬉々としながらペンを走らせ、葵ちゃんへ、と書き俺に紙を返した。
「じゃあ今度こそ、またね!」
那由さんはいつも通り力強い笑みを浮かべながら、自宅兼仕事場である実家へと帰って行った。
ようやく嵐が過ぎ去り、俺は貰ったアドバイスに希望を見出しながら、帰路へと立つのだった。
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