第25話 高波くん(葵視点)
高波 流星。
それは私とは何の関係もない同級生の名前だった。
強いて言うならクラスメイト。
私とは違って明るく、愛想が良く、皆んなから愛される、そんなどこにでもいる様な男子。
私みたいな人とは何も接する事なんて無いんだろうな、そう思っていた。
数日前にはーー。
『あのさ…実は俺、神原さんの事が好きなんだ』
校舎裏、それは突然言われた。
場所が場所なりにこういう事だろうとは思ってたけど、いざ言われると気持ちが下がる。
私と高波くんは今までそんな話した事はないし、しても一言二言なにか話したりするぐらい。
親しいかと言われれば、普通。友達かと言われれば、まぁ知り合いってところだろう。
これから2人で文化祭実行委員として頑張っていかないといけないのにーー。
私は心の中で静かに嘆息する。
『私、高波くんとは仲良いって訳でもないって思ってるから。ごめんなさい』
そうハッキリと私は断った。
だけどーー
『そう、だよな。まだそんなに話したことも無いしこれからだよな!』
『え、いや
『まだ諦めないから』
そう言って高波くんは走ってどこかに言った。
その時の私の気持ちはこうだ。
えー…。
"諦めない"というのは悪くない言葉ではある。だけどそれは、時に悪い言葉にも成り変わるのだ。
好きでも何でもない男子、加えて外見で好きかどうかを判断する男子なんて私の好みに入らない、もっての外だ。
これから何回もアタックされるのかな…とか想像しただけで憂鬱だ。
しかし何故かこの数日話されることはなかった。
その代わりにーー
『…』
『葵、それでさーー』
チラッ
視線が鬱陶しかった。
何も話そうとせずに、ずっとチラチラと見て来るのは話すとかよりは面倒臭くないが、背筋辺りがゾッとする。
これで私が手を出したりしたら流石にマズイ所があるし、直接的に手を出して来れば反撃出来るのに、そう思ったりもした。
気まずいのか、最初は普通に話せていたのにーー。
「あ、わ、悪い」
「いや…別に大丈夫」
チラチラと此方を見て謝る高波くんに、私はそっけなく返事をして目線を外す。
話したく無い。早く出て行って。
そう思った。
「高波! アンタねぇ! 何をしてるのよ! 御輿よりもこっちの方が大変なんだからこっちも手伝いなさいよ!!」
「た、環!!」
しかし環が私を思ってか、高波くんへと怒鳴る様に声を荒げた。
「良いから…」
「葵…」
私が詰め寄る環の肩を掴んで言うと、環は悲壮感に溢れた表情を見せる。
何で環がそんな顔をするの? 私は何とも無いから。
「あ、あの神原さん…良かったらだけど俺も手伝って良いかな? 神輿の方は実はもう結構終わってるんだ…だから…」
高波くんが私の方を見てしどろもどろで話してくる。
ハッキリ言えば嫌だ…でも、あの人にも環にも頼んだし、私はもっと人の事を頼った方が良いのかも。
「うん…お願いしても良い?」
「も、もちろん!!」
私がお願いをすると、高波くんは嬉しそうに口角を上げて此方に駆け寄った。
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