第11話 朝ご飯
「…良い朝だ」
俺は翌日の早朝、頬に鈍い痛みを感じながら太陽の光を浴びて目を覚ます。
何故頬に痛みを感じるのか、これは昨日、葵が頬をパスタでパンパンに膨らましていた姿を俺が笑ってしまった為だ。
外見では何1ついつもの顔と変わらない平凡な顔だが、少し痛い。
少し話したぐらいで調子に乗ったな。最初に会った時の事を考えれば、笑ってはいけない事だったのだ。
全く、何をしてるんだか。
世理は腹を掻きながら、1階のリビングへと向かう。
『命が欲しければ…俺の下に来い!』
『……悪いけどアンタらみたいな悪党に組みするぐらいなら、死んだ方がマシだ』
リビングに出ると居たのは、大きなテレビに齧り付いてアニメを見ている葵だった。
バタン
「……」
『そうか…それがお前の選択ならそれでいい』
……扉を閉めても気づかないな。どれだけ集中してんだ。
此処で話しかけてもキレられるのがオチだと予測して、世理は少し呆れながらキッチンへと立つ。
昨日の朝は何も用意する事が出来なかった。だから今日は俺が朝ごはんの準備をしてあげようって訳だ。
「ふぅ。今日もいい内容でした」
数分後、1人笑顔で頷きながら此方に向かってくる葵。
「おはよう」
料理をしながら挨拶を交わすと、葵の表情が固まり、動きを止める。
「…いつからそこに?」
「10分ぐらい前かな?」
「…」
葵は俯き、プルプルと震えている。
…俺なんかしたか? そう思ったが触れてはダメだと俺の本能が言う。
「あともう少しで朝ご飯出来るから座って待っててくれ」
葵はゆっくりとした動作で、椅子に座り込む。
ガンッ
勢い良く突っ伏す葵。
…眠かった…いや、なんか違う気がするな。まぁ、とりあえずは触れないでおこう。
そう思った世理は、淡々と料理を進めていった。
「はい、お待たせっと」
俺は突っ伏してる葵の前に、出来立ての目玉焼きを出す。
「…ありがとうございます…って、これだけですか?」
葵が抗議の目で此方をを睨む。
それもそうだろう。目の前には目玉焼きしかないのだから。だが俺は考えていたのだ。
「ご飯と食パンどっちが良いとかある? 俺どっちが好きなのか分からないからさ」
なんて気がきく兄なのだろうか。こんな兄、日本中探しても中々居ないだろう。そんな事を思いながら、俺は葵に目を向ける。
しかし、そこには何故か少し眉を八の字に変えている葵が居た。
「…ありがとうございます。ではパンでお願いします」
「えーと…はい」
少しその表情に疑問を持ちながら、葵にパンを渡すと、無表情で黙々と食べ始める。
「えっと、美味しいか?」
「別に…焼いたトーストですし、普通ですけど」
「あー…そうか」
何か昨日より少し冷たくなった様な…可笑しい。昨日の夜はあんなに喋ったのに…アレは夢だったのか?
動揺を見せる世理と無表情で朝ご飯を食べ続ける葵は、その後会話をする事なく朝食を終わらせる。
「いってらっしゃい」
「…いってきます」
葵は此方を振り返ずに家を出る。昨日の様子と違い過ぎる。やはり俺は何かをやらかしたのかもしれない…。
世理は何をやってしまったのか頭を悩ませるが、一向に答えは出なかった。
「おはよー!」
「…おはよ」
環がいつも通り元気に挨拶をしてくる。
「あれ? 今日は元気ないね? 『空白の渇望』見てこなかったの?」
私の様子を見てか、私の好きなアニメの話をしてくる環。
「見てきたけど…ちょっとね」
「ははーん! またお兄さんと何かあったと見たね!」
「いや、特にはなかったんだけど…」
「けど?」
「あのさ…わざわざご飯と食パンを焼いてどちらかを選ばせられたんだけどさ、どう思う?」
「どうって、良いお兄さんじゃん! 私にも兄が居るから分かるけど、そんな兄は普通居ないよ!!」
「そう、だよね」
「ほら! いつまでも此処に居たら遅れちゃうよ!」
環は元気に答えて、私の手を引き学校へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます