第38話 高波くんと俺(兄)
「これ、弁当な」
「え…あ、はい。いや!! それよりも何で!!」
「あー…これか? これはちょっとなぁ…」
俺の制服を見て目を丸くする葵。
これは俺が葵へと弁当を渡す、数十分前へと戻る。
*****
「…いやー、どうしたもんか」
俺はダルダルな格好で校門前に突っ立っていた。いつも着ているグレーのスウェット、手には葵の弁当を持っていた。
この前文化祭の準備を手伝うと来た時には、格好をビッシリと決めていた。だけど今日は制作をする予定もない。
「……通報されないか?」
ボサボサの髪をした男が学校をずっと見つめている。
ハッキリ言おう。通報案件だ。
だが、時刻はもうお昼。葵がお腹を空かしている。
「……通報された方が都合良いか」
「な訳あるか」
「あ、椿先生」
呆れた顔で椿先生が大きく溜息を吐くと、前と同じく俺の頭を撫でる。
これから会う度に、これをやられるのかと思うと顔から火が出そうだ。
「この前挨拶に来た時ぶりだな」
「あの時は色々アドバイスありがとうございました」
「アドバイス? そんな事言ったか?」
あまり葵達の手伝いをするべきではない、今の文化祭は今の生徒で。
教えてくれたのは先生の筈だけど…まぁ良いか。先生がそう言うつもりなら俺も何も言わない。
「俺の勘違いだったかもしれないですね」
「あぁ、そうだろうな。で? こんな所で何をしてるんだ、お前は?」
訝しげに視線を俺に向け、手に持っている物を見て視線を止めた。
「なるほどな…そう言う事なら一回こっちに来い」
「え、何処に行くんですか? そっちは駐車場…」
「で? 何でこうなるんですか?」
「いや〜、ピッタリだったな!」
俺は高校生へと大変身していた。髪はボサボサのまま。服装だけ制服へと変わっていた。
「学校に行って怪しまれない為には変装だろ?」
「いや、変装って……と言うか何で先生の車の中に男子校生の制服が入ってるんですか…」
「いや、その少し生徒会からな…」
先生は女子生徒から人気がある。
少し無骨な話し方、滲み出る優しさ、気遣い、普通の男子高校生とは話にならないモテ力。
そう言えば俺達の代の時にも頼まれてたっけ…。
「まぁ、良いだろ。妹が待ってるんだろ? 早く行ってやれ」
「せめてついて来てくれても
「嫌だ」
「なんで
「1人で行った方が面白そうだから」
…何故この先生は女子から人気があるのか、不思議でたまらない。
*****
あの先生は1度痛い目にあった方が良い。
俺がどんな思いをして此処に来たと思っているのか理解してない。
奇異の視線を向けられながら此処まで来るのは本当に苦痛でしかなかった。
「ーーって事があってなぁ」
「へぇ……椿先生って確か美術の…」
まぁ、この学校の先生だから知ってるだろう。あの人の異常性は今知っただろうが。
「おい、お前」
「ん?」
そんな時、高波くんが眉間に皺を寄せて俺に話しかけて来た。
「お前は神原さんの何なんだ? さっきから馴れ馴れしくしやがって」
あ。何か前も聞いた事あるな。
俺はチラッと隣にいる葵に目を向ける。すると葵は俺から目を逸らす。
まぁ…髪型もキメてないし…こんなボサボサ頭の奴が知り合いなんて思われたくないよな。
それを家を出る前に気付けば良かったんだけど…先に謝っておこう…本当に申し訳ない。
「何って、兄だけど?」
「は?」
その一言は不思議と教室内に響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます