第14話 電話と気づき
「はぁ…」
まただ…俺はどうやらとんでもない事をやらかしたみたいだ。
世理は玄関で顔に手を当てて、仰ぎ見る。
気を遣い過ぎ…か。
…確かに。振り返ってみるとそうだ。
怒られてすぐに物に頼り、許して貰おうとした。
今日の朝ご飯の時は、気を遣い過ぎてたのかもしれない。
朝ご飯の時を思い出せば、ご飯かパン、どちらか聞いた時から様子が変わった様にも思えた。そしてさっきも…
『あ、あのさ! 何か欲しい物あるか? 何か買ってあげようか?』
ハハッ…これはよく分かるな。
まるで他人と接してるみたいだ。
…俺、もしかして親父に言われて少し焦ってたのかもしれないな。
「…家族って、大変だ」
世理は呟くと、呆れる様に口角を上げた。
*
少し八つ当たり気味だったかも…。
「はぁー…」
葵は自分の部屋のベッドにうつ伏せで倒れながら、先程の事を思い出していた。そして寝返りをうって大きなため息を吐く。
抑えが利かなかった…。
今日は朝から色んな事がありすぎて、思わず言葉に出してしまった。
朝からあの人にアニメを見てる所を見られて憂鬱だったし、学校では文化祭実行委員になって、その後…はぁ。もう嫌だ…疲れた。
葵は眉を八の字に歪ませながら、目を閉じる。
ピリリリリ ピリリリリ
「…何…もう」
葵はダルそうにしながら、枕元にあったスマホを手に取る。
「え!」
そして画面を見ると、ある人の名前が。
「もしもしママ! どうしたの?」
私は急いで電話に出ると、ベッドから飛び起きる。
『久しぶり、元気にしてた?』
久しぶりの茜の声に、葵の眉尻は自然と下がる。
「うん。元気だよ。そっちは楽しんでる?」
『それは勿論! 聡さんと…あ、もうパパなのよね。 色んな事をやれて楽しいわ!』
ママは弾む声の中に少しの照れが入っている。
ママの声を聞いただけで、さっきまで疲労していた私の心に、安心する様な温かさが帯びる。
「へー、そうなんだ? 例えば何したの?」
『そうね〜…あ! 人生初のバンジージャンプをパパとやったわよ!』
「え〜! ママ大丈夫だったの!?」
『ふふっ! ママこう見えて絶叫系とか好きなのよ〜!』
ママの声から、私の頭の中にママの表情が思い浮かぶ。幸せそうだ。
しかもママって絶叫系好きだったんだ…知らなかったな…。
「…良かったね、ママ」
葵がそう言うと、茜はその何かを含む様な葵の言い草に少し間を置いて答える。
『うん…良かった…!』
…やばい、なんか変な気持ちになってきちゃった…!
茜の答えを聞いた葵は、天井を見上げ、目に力を入れる。
『葵もそっちで上手くやってる? 勉強とか部活頑張ってる?』
茜は話を変えようとしたのか、学校の話を葵に聞く。
「うん。頑張ってるよ」
『……そう。何かあったらすぐ連絡してね』
ママはそれ以上、私に何も言わず優しい声音で答える。恐らく何かを感じ取ったのだろう。
ママってやっぱ鋭いなぁ…。
私がそんな事を考えていると、
『あ、そう言えば葵、世理くんと仲良くやってるらしいじゃない!』
「え…」
私があの人と仲良くやってる? ついさっき、喧嘩…と言うか一方的に私が嫌味を言った感じなんだけど?
「どういう事?」
『パパが言ってたわよ? 仲良くやってるって言ってたって…』
………ふーん。なるほど、ね。
『折角だから私、葵と世理くんも一緒に家族でビデオ通話とかしたいわ〜』
「…」
『まだ顔合わせすらしてないし…』
「…別に良いけど…何時にする?」
『あら…何かダメだった?」
「何も無いから。何時にするの?」
葵が少し声を強めて言う。
『…そう…なら、そっちの時間で20時とかで良いんじゃないかしら?』
「分かった」
『じゃあまた明日の夜にね』
葵は画面をタップし、またフラフラとベットへと横たわった。
*
「…もしかして、世理くんと上手く生活出来てないのかしら?」
聡は世理の言動に気づく事は出来なかった。しかし茜は、葵の異変を見事に察知していた。
「少し探った方が良さそうね…」
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