第51話 新しい先生

「若いね…」

「何でこんな時期に…?」


 生徒達からの疑う視線が俺の顔に刺さる。


 何故こうなったのか…俺は平和に暮らしていたのに。こうなったのもーー


「はいはい、まぁ、今日は神原先生も来てくれたから最初は質問コーナーにしようか」


 満面の笑みで楽しそうに手を叩いている、美術の先生だろう。


 *


「じゃ、今日は頑張ってこいよ〜!」

「声が大きいですよ……」


 病み上がりの葵に手を振って見送った俺は、朝食の片付けやら朝の掃除やらを終わらせ、リビングでモーニングコーヒーを飲んでいたのだがーー


「ふう。今日は良い天気だな…そうだ! 今日は外の風景を描いてみるか!」


 そう思い、突然だが、スケッチブックを持って家を飛び出した。


 しかし、それが運命の分かれ道だったのだ。


 夏も終わりに差し掛かる前に、一度学校近くにある自然豊かな公園で絵でも描いとこう。そう思ったら、そこには煙草を吸いながら散歩をしている椿先生を発見。


 挨拶をした所ーー


「世理」

「はい?」

「お前を待っていた!!」


 と言われ、何の了承を得ず、半ば拉致の様に、俺を学校まで連れて来たのだ。




「それで? 何故俺を授業に参加させるんですか?」


 美術室へと行く途中、俺は椿先生へと問い掛けた。すると、先生は目を逸らしながら頭を掻いて答えた。


「いや〜、実は今授業よりもやりたい事があってだな…」

「は? 先生、それでも先生ですか?」


 椿先生は破天荒な人ではあるが、仕事中は基本真面目な先生だ。


「…頼む世理。期間は2週間、学校からは許可は貰った…だから、な?」


 椿は、世理の肩に手を置き、力を込める。

 自由な校風であるこの学校だからこそだろうが…


「だからって普通に考えたらダメでしょ。何の関係もない、ただの学生にまるっきり授業を任せるのは」


 常識的にそう言うのは良くない。それだったら他の生徒にも同じ事が言えて、もしかしたら自分の代わりに授業に出て貰った、なんて事を言う者が現れかねない。悪影響を与える原因になり得ないのだ。


「…経験は創作に置いて大事な事だぞ」

「うーん……でも……」

「それにだ。少しだが金も出る」


 …まぁ……家に居ても引きこもってるだけだし。親父の金でいつまでも居候しているというのも気が引けていた所だ。


「……分かりました。やりますよ」

「おぉ! そうか!!」


 嬉しそうに椿先生が俺の背中を叩く。

 先生にはお世話になったから、こんな事するのも悪くはないのかもしれない。


 ***


「神原先生は何処に住んでるんですか?」

「彼女とかは? いや…いないか…ふふっ!」

「おいバカッ…! 聞こえるって…!」


 と思ったが、絶賛大後悔中である。


(うわー…生意気ー…)


 自分の容姿が優れていないのは知ってる。だが、他人から真正面で言われるとなると、くるモノがある。


 今ここにいるのは高校1年生。俺は大学2年生。歳は4歳も離れてる。冷静になるんだ。


「先生は彼女が居ない訳じゃないよー。作らないだけだよー」

「「「はははははっ!!」」」


 …何故笑うかね。


 そんな生徒達を見て、椿先生も笑いを堪え切れず噴き出している。


「ちょっと…」

「はぁ、悪い悪い。じゃ、仲良くなった所で、後は任せたぞ」

「まっ!!」


 なんて速さ…俺の静止の言葉を言おうとした時には、残像しか残ってなかったぞ。


 そんな2次元さながらなセリフを心の中で吐き、教室をもう一度よく見る。


 生徒達は俺の方をニヤニヤと見ている。


(まぁ……いいか。テキトーに絵でも描いて貰おう)


 そう言って、俺は胸ポケット入れていたワックスを手に取り、髪をかき上げた。


 ***


「ねぇ、聞いた? 今日、めっちゃイケメンな先生が入ったって!」

「えー、どうせ大した事ないんでしょ?」

「それがどっこい! 男子でも見惚れるカッコ良さに、授業も分かりやすくて凄く良かったらしいよ!」


 放課後の昇降口。数人の女子がキャーキャーっと、盛り上がっている。


「めっちゃイケメンかー…葵は気にならないの?」

「人は外見だけじゃないしね。それよりももう少しで大会なんだから部活頑張らないと」


 体調を崩していた所為も相まって、葵はそんな話には目もくれずグラウンドへと向かうのだった。

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