4/12
花畑――と言えば淡い黄色やなめらかな白の花びらが一面に広がり、その合間から茎の緑がまばらに顔を見せるような光景を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。
陽光が辺り一面を照らし、花畑の中心にいるのは白いワンピースに麦わら帽子を被った美少女。
と、まあ美少女がいるかどうかはともかくとして、陽光の部分はそこまで間違っていないだろう。花畑に対して敢えて土砂降りの雨をぶつける意味がわからないし。「じゃあ、なんでわたしはこんなところにいるんだろうって感じなんだけど……」
わたしのつぶやき声に答える人はいない。
花畑である。淡い黄色やなめらかな白で彩られた花びらも、土砂降りの中ではその輝きを失い、水の重みによってその頭を垂れているようにも見える。
雨の日の花畑なんて初めて来たけれど、まあ面白いものではないし、仮に誰かがこの風景のオススメ度を聞いてきたとしてもランクで言うならFランク。星の数で例えるなら迷うことなく☆1を付ける。
それほどまでにつまらないし、ああ、今のわたしに合っているなと感じて自嘲的な笑みが浮かんだ。
そう言う意味では、無駄に感傷的に浸りたかったり、ひとりになりたいというのであれば案外いい場所なのかもしれない。
いや、でも流石にまだこの季節だと雨に降られたら寒いな。まだ4月だよ? これが真夏とかであればじめっとした雨はうっとうしくもあるだろうが、止んでしまえばすぐに乾く。しかしこの時期に濡れっぱなしでいたら風邪を引くのは確実だろう。
もう少し雨に打たれたら帰ろうかな。
そんな打算的なことを考えていたら急に雨が止んだ。いや、止んでない?
雨は依然として降っているけれどもわたしの頭には降ってこない。
上を見上げてみると……え、なにこれ。
キノコの傘の裏側、だと思う。多分。
いつのまにかわたしの近くに巨大なきのこが生えていて、そのキノコの傘が雨水を遮っているらしい。
傘は人が20人やそこらは余裕で雨宿りできるくらいに広い。
確かに雨水に濡れずに済むのは助かったが、こんなのに出くわすぐらいなら水に濡れていた方がマシだったのではないかとすら思える。
ふと、昔読んだ巨大エノキが世界を滅ぼすという短編小説が頭をよぎり、恐怖心に駆られる。
「いや。いやいや。ないでしょ、そんな展開。嫌だよ? 世界を滅ぼすキノコの最初の犠牲者とか、実はキノコは最初に取り込んだ人間が持っていた世界への復讐心を元に動いていたとかそんな展開」
まあ、多少自暴自棄になってはいるものの、そもそも自暴自棄に『多少』という言葉を付けている時点でわたしはかなり冷静だと思うし、たとえキノコに取り込まれよと世界を破滅に導くことはないと思うけど。
そもそもキノコに取り込まれること自体が嫌だ。
「あ、じゃあわたしはそろそろ帰りますね」
誰に言っているのかよくわからないが、わたしはそんな言葉を残しつつそそくさとキノコの傘を出ようとする。
『――? ――!』
うおゎ!? なんかキノコが呻いた! え、キノコって発声器官とかあったっけ!?
しかし、キノコの傘や茎の動きと、キノコの声(?)を聞いているとなんとなく『雨が止むまでここにいろ』と言っているように思えなくもない。
「あー、そうですかー。そ、それじゃあもう少しお邪魔させてもらいますねー」
『~~♪』
うん、なんか上機嫌になった気がする。キノコの機嫌とか意味がわからないけど。
花畑――と言えば淡い黄色やなめらかな白の花びらが一面に広がり、その合間から茎の緑がまばらに顔を見せるような光景を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。
しかし、雨の日の花畑は違う。
感傷に浸りたいとか、ひとりになりたいとか、そんなのどこでだってできるから。雨の日の花畑には来ない方がいい。
「あー、やっぱりキノコ的にもこのご時世、大変ですよねー」
『――! ――!』
もう帰りたいいいい! 早く雨止んでぇぇぇえ!
わけのわからないキノコと意味のわからない意思疎通をしたいという人は別だが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます