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 ほんの一瞬前、わたしの顔があった場所を一筋の光条が貫いていた。その意味を理解するとともに背中に嫌な汗が噴き出してくる。

 光条は後ろから遥か前方へと伸びており、稜線に混じるように消えていく。

 それは魔術式を見るまでもなく、雷属性上級魔法『魂を彼方へと運ぶ雷ライトニング・ホライズン』だった。威力に関しては火属性や水属性の魔術に劣るものの、射程距離、そして魔術発動時の初速は他の追随を許さない。

 また、威力が劣るとは言っても、それは他属性の上級魔術と比較した場合という意味であり、人の頭にでも当たれば文字通り、被弾した人間の魂を遥か彼方まで連れて行ってしまうだろう。

 もちろん、わたし達レベルの剣士や魔術師にもなれば、その身に多重の加護であったり、防御魔術であったりを掛けることによって一撃死……ということは通常あり得ない。

 そう、通常であれば。

 しかし、このパーティの中でわたしだけは今、なんの加護も、防御魔術も掛けていなかった。先の戦いで呪いを受けてしまった影響だ。

 もし、わたしが偶然、小銭を拾うためにしゃがんでいなければ、今ごろわたしの命は無かっただろう。

「なんのつもり!? ヘイグ!」

 わたしの隣を歩いていた仲間の神官が後ろを振り向いて男に杖を向ける。

「ふふ……。はは。あはははっ!」

 その男は手を額に当て、笑いを堪えていたようだったが、すぐにさも愉快そうに大きな声を上げた。

「やはり君は神様に愛されているね! 今のを『運』だけで避けるとは! いやはや君の〝勇者〟としての素質はもしかしたら歴代一と言えるかもしれないな!」

「質問に答えなさいよ腐れ魔術師!」

 神官が無詠唱で捕縛式を展開する。魔術師――ヘイグの足下から無数の鎖が出現し、ヘイグを捉えた。

 しかし――

「おっと、すまないね。今は捕まるわけにはいかないんだ」

 ゆらりとヘイグの姿が霞んだかと思うと鎖の中のヘイグは空気へと溶けてしまう。

「ちっ、奴の蜃気楼ミラージユは本当にやっかいだな!」

 わたしのもう一人の仲間の剣士が毒づきながら辺りを見回すも、ヘイグの姿を確認することはできない。

「うーん、わからないんだよねぇ」

 わたしは無造作に剣を振る。斬るというよりも、軽く剣の腹で小突くように。

「うぐっ」

 すると、うめき声は想ったよりも近くから聞こえてきた。

「あ、やっぱり近くにはいたんだ」

 彼の得意魔術『蜃気楼』は強力で、一度隠れてしまえば視線や聴覚、魔力探知でも場所を掴むことは難しい。

 とは行っても、じゃあ弱点がないというわけではなくて、魔術ではなく秘術よりの技術体系のものを使えばある程度の場所はわかったりする。

「これだから君はやりにくいんだよな。そういうところも好きなんだけどね!」

「告白どうもありがとう。でも残念だけどわたしには生涯を誓った人がいるの。諦めて」

 もちろん、彼の『好き』が〝そういう意味〟ではないことはわかっている。

 ただ、今まで仲間だと思っていた人が、敵になってしまったという事実を受け入れるのが辛くて、こんな軽口をしてしまっている。

「ふむ、それならば仕方がない。では今回は君を殺すのを諦めるとしよう。これ以上君との逢瀬を続けようとしたら神官や剣士に嫉妬で殺されてしまいそうだ! また近いうちに会えることを祈っているよ! 勇者!」

「はいはい、とっとと行った行った」

 わたしはため息を吐きながら、しっしっと手を振った。


 ……行った、よね? うん、もう気配はないし、蜃気楼で隠れている様子もない。

 あー、もう!

 なんでわたしの周りには面倒な人間しか集まらないのよ!

 これが勇者としての運命さだめというのならば、ほんと魔王の野郎、覚悟しとけよ。八つ当たりだとわかっていても全部お前にぶつけるからな?

 そんな、勇者としてどうなんだろうという決意をしながら、わたしは空を見上げるのだった。

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