4/30

 とりあえず4月が終わりを告げようとしている。というかこの嘘日記を書いている今現在、既に日を越してしまっているので、4月はもう終わりを告げてしまった。まあ、だからなんだということではあるのだが。

 せめてこの嘘日記を始めたのが4/1であれば一ヶ月達成という感慨も湧くのだろうが、残念ながら一ヶ月を祝うにはあと三日ほど足りない。

 そして今日も書き始めたのがこんな時間(既に夜中の一時を過ぎている)なせいで嘘日記の内容を考えている間に寝落ちしてしまいそうである。

「だから、寝落ちしない方法を教えてほしいんだけど」

「……君、それを言うためだけにこんな夜中に僕の家にきたのか?」

 彼――わたしの水瀬浩一は玄関で不機嫌そうな顔でわたしを出迎えた。

「別にいいでしょ? 『彼女』が『彼氏』の家にお邪魔するぐらい普通よ」

「常識を考えろ。何時だと思ってるんだ」

 細かいことをうるさい男だ。どうせ、まだまだ寝る時間じゃないだろうに。

 この浩一という男は読書を最優先にする男で、仮とはいえ彼氏彼女の関係となったわたしに対して図書室デートを提案してくるようなやつである。

 いや、こういう言い方をすると図書室デートが悪いように聞こえるかも知れないが、別にそこまでは思っていない。双方が本好きというのであればなにも問題はないだろう。

 しかし、残念ながらわたしは別に読書が好きというわけではなく、そのことはこの男も知っているはずだということである。

 相手の好みとかどうでもよく、自分の好みを優先させる――それがこの男なのである。

 まあ……、結局浩一はわたしでも楽しめるような本を見繕ってくれていて、そこそこに楽しめはしたのだけど……。

 ともかく! 浩一に比べれば真夜中に彼氏(仮)の家にお邪魔するぐらい普通普通!

「大丈夫よ。浩一にわたしを襲うような甲斐性も度胸もあるとは思ってないから」

「君はバカなのか……?」

 彼は目を見開いて、わたしを見る。いや、そうでしょうよ。あんた本当に男かどうか心配するレベルで『そういう雰囲気』にはならないでしょうよ。

「僕の部屋でどうこうの話じゃなくて、ここに来るまでにそういうのに絡まれる可能性はいくらでもあるだろうが」

 わたしと浩一の家(ふたりとも現在はアパートで一人暮らしをしている)は大して離れてはいないとはいえ、隣同士であったり、同じアパートという訳ではない。この辺りは治安もいいからわたしはあまり気にしなかったのだが、どうやらこの男は気にしたらしい。

「僕の部屋に来るのは構わない。だが、来るならもう少し早い時間にしろ。そうじゃなければ僕を呼べ」

「あー、うん。わかった。ごめん」

 心配しすぎだとも思うが、わたしを心配してのことなので素直に謝っておく。

 それに、この本を第一にするような男がこうして心配してくれるのは少し嬉しかったりもする。

「じゃあ、僕は読書に戻る。眠いならベッドを使っていいから寝てしまえ。僕としてはその方が静かで都合がいい」

「いや、寝落ちしない方法を教えてほしいんだってば。わたしも嘘日記を書いてる途中で寝そうになってこっちに来たの」

 っていうか静かで都合がいいって失礼じゃない!? わたしの存在はうるさいっていうのか? 都合が悪いっていうのか!

「それじゃあ僕の隣で書けばいい」

 え、隣って膝をつき合わせてってこと?

 いや、それは……確かにドキドキして目が覚めちゃいそうだけど、それじゃあ別の意味で集中できなくて書いてなんかいられないような……。

 それに、例え書けたとしても内容がぶっ飛んだものになりそうというか、あられもないようなものになりそうというか。いや、わたしはどんな文章を書く気だよ!

「僕が随時添削してやる。それなら君も緊張で寝ないだろう」

「て、添削?」

「ああ、読書の方も君のせいで中断してしまったし、君が書いたそばから赤字を入れてやる」

 なにそれ怖ッ。完全に逆恨みじゃない! いや、逆恨みじゃ、ない?

 確かにそんなことになったら緊張して眠気も吹き飛びそうだし、いつもより言葉選びも慎重になりそうだけども!

「だ、大丈夫だよ? ほら、わたしの嘘日記ってあくまで毎日アウトプットしようっていうのが目的であって、クオリティとか重視してないから……」

「その点は理解してる。だから赤字を入れるのは単純に君を寝させないためだ。修正しろとは言わないよ」

 男子から『寝させない』って言われてるのにドキッと感皆無! なんならゾワッとしたし!

「さあ、それじゃあ早くリビングに行くとしよう。そういえば君が嘘日記を書いているという話は聞いていたけど、読んだことはなかったな。楽しみだ」

「ひえぇぇぇ! お助けぇぇえ!」

 こうして、わたしは彼氏ということになっていて、なんだかんだで少し気になってもいる男性の家で一晩を過ごすのだった。

 まあ、当然のごとくなにもなかったんだけど。っていうか危うく泣かされそうになったんだけど!

 許すまじ、わたしの彼氏(仮)。

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