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わたしは真っ暗な空間を歩いていた。先ほどなんとか消滅させたこの世界の
根源体を失った世界はどうなるのだったか、確か一度世界は消滅するものの、
「おつかれー」
誰もいなかったはずの場所にひとりの少女が現れる。外見的な年齢で言えば小学校高学年ぐらいだろうか。半袖の白いシンプルなワンピースを着ていて、肩甲骨ほどまである黒髪はまっすぐとしたストレートでこの真っ暗な空間では周りに紛れて見えなくなってしまうほどに、純粋な黒色をしている。
少女の言葉はとても気楽なもので、言葉や声自体は年相応のものだったが、その表情はとても十歳やそこらの子供が作れるものではなかった。
彼女はわたしの――わたしが倒した根源体上に存在した世界とはまた別の――世界を作った存在で、いわゆる『神様』というやつだった。
「なんでアンタがここにいるのよ。こっちの世界の神様は?」
「『神』っていういうのは『根源体』上に構築された世界の一部――つまり根源体の下位存在だからね。こっちの世界の神は今ごろ根源体ごと『混沌』に還ってるよ」 そっか……。こっちの世界の神様には何度かお世話になったし、一言くらい挨拶しておきたかったんだけど。
「ねぇ!? なんかアタシに対してより随分殊勝じゃない!? アタシも同じくらい敬って欲しい!」
わたしの思考を読んだのか、神様がぶーぶーと口を尖らせて文句を言う。
やっぱり小学生なんじゃないかなこの神様。
「あの文字は?」
ふと、闇の奥の方から白い文字が流れてくるのが見える。なんて書いてあるのかはわからなかったが、文字の数は次第に増えて、まるで流れ星のようにわたしたちが歩いてきた方へと向かって流れて行く。
「ああ、
「ってことはこの文字は世界の情報?」
「そ。多重世界のすべての情報を記した
ということはこの闇の先に世界の記録である『書』であったり『混沌』などが存在しているのか。
「多分ね。アタシも見に行ったわけじゃないから知らないけど」
「神様なのに?」
「神だからだよ。さっきも言ったけど『神』は『根源体』の下位存在だから、根源体の更に上位存在である『書』や『混沌』を認識することはできない。でもユウカちゃんなら認識できるよ? すべてを貫く特殊な存在――『勇者』だからね。見に行く? なんなら喧嘩売ってきてもいいよ?」
見た目小学生の神様が冗談のようにあどけなく笑う。でも、わたしが実際にそうすると言ったら決して止めなさそうな雰囲気が感じられて、何か思うところでもあるのだろうかと思った。
「それより早く元の世界に帰りたいよ。流石に疲れた」
「ふふ、もう一度言うね。おつかれさま」
わたしが内心感じた疑問に、しかし神様は触れずに笑顔を見せてくる。
「なんだかスタッフロールみたいだね」
真っ暗な空間を白い文字が流れる様が映画の終わりに流れるスタッフロールのように見えたのは、わたしの異世界での冒険が終わりに近づいているからだろうか。
しかし、これはわたしにとっては終わりを表す光景だけれど、この世界にとっては新たな始まりだ。そして、そこにわたしがいないのは少し寂しい気もする。
この異世界で一緒に旅をした仲間、街であった人々、関わった人は数多い。その人達の新たな人生にわたしはいない。
「せめて、仲間とはまた会いたいなぁ」
それが叶わぬ望みとは思いつつも、つい言葉に出てしまった。
「え? 会えるよ?」
「え?」
さも当たり前のように言ってきたせいで一瞬意味がよくわからなかった。
いや、一瞬経ってもよくわからない。だってわたしって成すべきことは終わったし、元の世界に戻らないといけないんだよね?
「確かに『勇者』の力だけじゃ異世界間移動は無理だけど、ユウカちゃんにはそういうのが得意な友達がいるんだよ?」
友達……。神様が自慢気に両手を腰に当てて、得意そうな笑顔でわたしを見上げていた。
「いい、の?」
「もう少ししたら日本はお花見の季節だよ」
神様のその言葉に、気付けば一筋涙が頬を伝っていた。
そっか。そっか……。まだお別れじゃないんだ……。
「ほら、戻ろう。アタシ達世界に」
「うんっ」
神様が小さな手の平をわたしの手に重ねて走りだす。 それに釣られて、わたしももう片方の手で涙を拭いながら足を軽快に動かした。
走っている間に何度か方向を変える。もうスタッフロールは見えない。わたしは今、映画間の外に出ようとしている。
気付けば、闇の中に一筋の光が見えていた。その光はどんどん大きくなっていく。そして、わたしと神様はその光に勢いよく飛び込んだ。
ただいま、わたしの世界。
さようなら、愛しい異世界。
でも、またすぐ会いに行くからね。
女子高生ゆうか(仮)の嘘日記 四葉くらめ @kurame_yotsuba
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