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「それで? どうしてこうなったのか、もちろん教えてくれるのよね? 懇切、丁寧、に!」

 わたしは腰に手を当てて、目の前で正座をしているこの男にやさし~く確認をした。

 ああ、とても優しい対応である。だってわたし今すっごく笑顔だし♪ 普通であれば思い切り蹴り飛ばしても良さそうなところを正座で済ませてあげているし?

「いや、あの、ゆうかさん? ちょっと怖いんですけど……」

「あ?」

 別に威嚇してるわけじゃないよ? ただ、よく聞こえなかったからもう一度言って欲しいって意味の「あ?」だから。「え? なに?」の短縮形だから。

「すみませんすみません! 言います、話します!」

 そうして、わたしとこの駄犬の和やかな情報交換が始まるのだった。


 そもそも事の発端は数十分ほど前に遡る。

「そういえば、君たちは付き合っていたのだな。いやはや、そんな気配なんておくびにも出していなかったから驚いたよ。そんな面白――もとい甘酸っぱい出来事があったのであればもっと早くに教えてくれたらよかったのに」

 いや、わたしが一番驚いてるんですけど。

 そう言いそうになったものの慌てて口をつぐんだわたしはなんて臨機応変なのだろうと自分を褒めてあげたい。

 わたしの所属している部活は弱小部である。部員は3人しかおらず、三年の女性部長と二年のわたし、そして同じく二年の桜田だけである。

 どうやら部長曰く、わたしと桜田とかいうアホが付き合っているらしい。へー、知らなかったなー。

 とりあえず、こいつと付き合っていると思われてムカついたので机の下で蹴りを一発。

「ぐふっ」

「ん? どうしたんだね? 桜田君」

「い、いえ、足になにかが噛みついたみたいで」

 もうちょっと上手いいいわけ考えなさいよ。うちの部室は足下に生け簀があるわけじゃないのよ。

「あはは、なにに噛みつかれたのだろうね」

「ところで部長。その話って誰に聞いたんです?」

 どうせわたしと桜田が一緒に帰っているところだったり、一緒にショッピングモールにいるところを見てそんな適当なことを思ったのだろう。てきとうな噂を流している輩は成敗せねばなるまい。

「誰って……」

 横を向く。そこには桜田アホがいる。

 成敗せねば、なるまいよなぁ……!

「なるほど、そうでしたから。ふむふむ、うんうん。ちょっと面貸そうか桜田ァ!」

「怖い! 怖い! ドス効かせすぎだから! ひぎゃあ! 部長! 助けてください部長!」

「いやぁ、甘酸っぱいねぇ」

「部長ーッ!」

 どこが甘酸っぱいのかはまったく理解できないが、わたしは桜田を別の部屋へと引きずっていったのだった。



 そして今に至る。

 桜田の話によると、お見合いをさせられそうになり、既に彼女(わたし)がいると嘘をつき、そこに偶然居合わせてしまった先輩にバレたということらしい。

 そういえばこいつの家も先輩の家もいわゆる上流階級というやつだった。そもそも偶然その場に部長が居合わせるというのがよくわからないが、部長は割と神出鬼没な人なのでそこに驚いていたら切りがない。

「つまり? しばらくあんたと恋人のまねごとをしなくちゃならないと? しかもあんたの親御さんの前だけじゃなく部長の前でも?」

「そうなるな!」

 威張るなアホ!

 部長には誤解であることを伝えるという手もあるが、部長は部長でかなりおっちょこちょいなところがあるので、秘密の共有というのにはあまり向いていない。

「それで? 付き合ってる振りって実際なにすればいいわけ?」

 事情を聞く限り協力するしかないだろう。桜田もどうやら困っているようだし、貸し1といったところだ。

「俺の両親が監視をする中、遊園地でデートをして欲しいんだ」

「あんたの両親は暇人か!」

「あと部長も母さんたちと一緒に来そうな気がする」

 ああもう! 面倒くさいなぁ!

 まあこのアホと出かけること自体はそこそこ楽しいからいいんだけど!

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