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「全然ッ、街が見えないんだけど!?」

 学校からの帰り道、いきなり光に包まれ、次に目を覚ましたときには見知らぬ森の中で『勇者を導く希望の妖精』なんてものを自称する怪しい生物に介抱されていた。『おかしいですね? 街から10分ぐらいのところに召喚したはずだったんですけどぉ』

 甲高い声はまるでジャニーズ好きのクラスメイトが出す黄色い声のようで、聞いていると少し頭が痛くなってくる。あの子たち少し……というか結構苦手なんだよね。まあ、別に関わり合いがあるわけでもないからいいんだけど。

「10分? もう1時間以上歩いてると思うんだけど?」 一応、街道っぽいところには出られたので森の中を迷子という最悪の事態には陥っていないわけだが、そもそもわたしのいた場所とはどう考えても違う世界(わたしの世界にこんな珍妙な妖精(生物)はいない)に紛れ込んでしまっているわたしは、迷子……というより迷い子とか迷える子といった感じだろう。いや、迷える子だと人生に迷ってるっぽい?

 まあ、それは置いておくとして。

 うーん、やっぱり街道に出たときに木にでも登って方向を確認しておくべきだっただろうか。突然森の中に紛れ込んでしまい混乱していたわたしはこの使えない妖精の『街はこっちです! 勇者様!』という自信満々の言葉を真に受けてしまい、自分の目で確かめもせずに街道の片方へと足を向けてしまったのである。

「はぁ、これはあれね。街に着いたら早速パーティ変更ね」

『大丈夫です! 私は戦闘要員ではないので、パーティからは外せません!』

「全然大丈夫じゃ無いわよ! そういうところを変にゲームっぽくしなくていいのよ!」

 なんかメタっぽい発言をするし、正直意味がわからない。その上、この状況について聞いてみれば『それは街に着いてからお話しします、勇者様』の一点張りだ。ゲームの世界に入ったなんて考えは馬鹿馬鹿しいと思いながらも、もうちょっとマシなNPCにしてちょうだいよとため息も吐きたくなるものだ。

『あ、勇者様!』

「なによ」

『時間が掛かってしまいましたが、現在位置を確認することができました!』

 ふーん、今まで現在位置がわからなかったのに、あんなに自信満々に道案内してたんだ。

「妖精って鍋とかにしたら美味しいのかしら」

『あ、あの……勇者様? せめて会話は繋げてもらえると私としても会話をしやすいのですが……』

「あー、はいはい、悪かったわね。で? 街はあとどれぐらい行ったところにあるの?」

 太陽の高さを見るにあと数時間もすれば夕暮れがやってきてしまうだろう。流石にわたしのようなか弱い女子高生と役立たずの妖精だけでは、街道で一夜を過ごすのは危険だろう。この世界の治安がどの程度のものかはわからないが、野盗などがいないと結論づける材料はまだ見つかっていない。

『1時間と10分程度歩いたところに比較的大きな街があるようです』

 わぁ、近ーい。1時間と10分っていうことはこれまで歩いた距離プラスαぐらいじゃーん。

「で? どっちに歩けばいいのかしら?」

『ひ、東の方向です』

「東、ねぇ」

 ちなみにわたしは今まで太陽が沈む方向に向かって歩いていた。まあ、ここは異世界だし? 太陽がどの方角に沈むかなんてわからないけれども?

「で? どっち?」

 もう一度、曖昧な言い方をしたらどうなるか、わかっているわよね?

 そんな念を笑顔に込めて、にこやかに妖精に訊ねる。

『こ、怖いです! その笑顔、怖すぎますよ勇者様!? もはや最初から魔王の貫禄が出てますよ! 勇者なのに! ――ぴゃっ!? すみません反対方向でした! 申し訳ございませんでしたー!?』

 わたしが生意気で役立たずな妖精を手でむんずと捕まえようとするも、妖精はその小さな羽根を器用に羽ばたかせてするりと手の間を抜け、逃げてしまう。

「あ、待ちなさい! こらぁ!」

 あー、もう! 絶対パーティチェンジしてやるんだから!

 断固とした決意をしたわたしは、妖精を追いかけて始まりの街へと走りだすのだった。


 ……いや、もちろん途中で走るの止めたけどね? 1時間もわたし走れないし。

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