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東京の街並みというものには未だに慣れることができないでいた。
わたしが地方から東京に移ってきたのは中学二年生のときだった。転校の理由はなんともまあありきたりで、父の転勤に家族で付いてきたのだ。
東京といえば言うまでもなく日本の首都である。人口1千万人の大都市であり、観光名所はとても数えられるものではない。国会や各種省庁といった政治的、行政的な中心でもあり、若者からお年寄りまで様々な人が暮らしている場所だ。
そんな一種の『憧れ』を体現したような街に住むことができるというのは中学生だったわたしにはとても喜ばしいことだったし、同級生からもとても羨ましがられたものだった。
しかし、東京に住み始めてから三年が経つ今になっても東京の街並み――特に夜の空を見上げたときに違和感を拭うことができない。
わたしにとって夜といえば少し見上げたところにある星々に思いを馳せることができる静かで、温かいのに少し寂しい時間だった。
別に以前の場所で満天の星が見えていたとかではなかったけれど、東京と比べると段違いに見えていたし、東京の空はびっくりするぐらい暗い。
こんなに星が見えないというのに、本当にわたしは以前と同じ空を見ているのだろうかと少し怖くなったほどなのだ。
「んー! 疲れたー……」
歩きながら伸びをする。野暮用で帰るのが遅くなってしまった。冬に比べれば随分と日が長くなってきたものの、流石にこの時間だと辺りは暗い。
とはいえ、防犯的に心配になることはない。もちろん、油断はしない方がいいとは思うけど、これだけ街灯や他の明かりもあるとなかなか襲われにくいだろう。
空を見上げる。視界の下半分はビルやマンションによって埋められていた。
空が狭い……。
もっと上を見る。
空が黒い……。
黒一面の空に対して『まるで吸い込まれそうな』といった形容をすることがあると思うけど、この空には吸い込まれそうな要素というのは見当たらない。
べったりと無鉄砲にべた塗りしたような感じ。
東京は楽しいのだ。
友達もたくさんできたし、遊ぶ場所もたくさんある。
それでも、たまに。
疲れたときとか、夜遅く道を歩いているときとかに。
わたしは寂しい夜を送りたいと思うことがある。
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