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 今日は以前一緒に異世界を旅した神官の女の子がこっちに遊びにきていたので一緒にお花見をした。あちらの世界には桜というものはなく、それに類するようなピンク色の花びらを持つ花もないため、驚いてくれるかなと思い案内したのだ。

「これ、本当に自然のものなのですか!? 幻影魔術で色を投射しているのではなくて!?」

 わたしが行った異世界は魔術が大変発達していて、軍事利用だけではなく、家事やエンターテイメントといったあらゆるところに魔術が使われていた。

 魔術を使った電子レンジのようなモノを初めて見たときには流石にあんぐりと口を開けてしまったものだ。

 そんな世界でエンターテイメントに使われていた魔術のひとつが投射魔術というものでこっちの世界で言うプロジェクションマッピングのようなことができる魔術があったのである。それらの魔術を使って花びらの色を変えるとパフォーマンスはあるらしいが、生のピンク色の花びらというものを見るのはやはり初めてらしい。

 彼女は近くの木へと駆けていって手を上げてくるくると回っていた。

 か、可愛い……。

 彼女はわたしより3つほど年上なのだが、今の彼女はもっと幼く見える。

 ……まあ、あのメリハリボディのことを考えるとまったく『幼い』なんて表現は似つかわしくないんだけど。「ほら、いつまでもくるくる回ってないで、レジャーシート敷くよ」

「べ、別に……くるくるなんて回っていません」

「じゃあ『ぐるんぐるん』?」

「もっと酷くなってるじゃないですか!」

 子供っぽいことをしてしまった自覚はあるのか、彼女が顔を赤らめて少しバツが悪そうに顔をうつむかせる。

 うん、なんだか年上なんだけどどうも年下に見えることが多いんだよね。というかピュアっていうべきなのかな。さすが聖職者。

「そういえば『お花見』というのはこれ以上なにかをするものなのですか? 花を見たらそれでおしまい?」

「まさか。それじゃあ朝から作ったお弁当が泣いちゃうよ」

 レジャーシートを敷いたら風呂敷に包んだお弁当箱を開ける。中は別に凝ったものではなくて、おにぎりと冷凍のおかずがいくつかだ。それでも最近の冷凍食品はとてもおいしいし、種類も豊富なので豪華なお弁当に見える。

「なるほど、お花の下でご飯を食べるんですね! これがあれですか、『ミヤギ』というやつですね」

「『みやび』ね。『ミヤギ』だと県――えっと、領地の名前に聞こえるから」

「なるほど。『雅』ですね。ところでユウカ? お花見にはお酒がつきものと昨夜ユウカのお父様に聞いたのですが……お酒はないのですか?」

 もちろん、わたしはお酒が飲めない。未成年だからだ。彼女は一応20歳らしいので、日本の法律においても飲酒は可能だし、彼女の国では16歳から飲酒がOKだったので、彼女はとっくのとうに飲酒デビューを果たしているらしい。いや、聖職者がお酒飲んでもいいのかという気もするけど。

 それを聞くと、『お酒を飲むこと自体が悪いのではありません。お酒に飲まれることが悪いのです』と清らかな顔で言っていた。流石聖職者である。

 ……まあ、そのあと彼女がめちゃくちゃ酒豪でしかも脱ぎ癖かつ絡み癖のある超悪酔い女であること知ってからは聖職者も完璧じゃないんだなぁと思ったけど。

「あんたは脱ぐから駄目」

「ちょっとだけならそこまで酔いませんよ?」

 そう言って〝ちょっと〟で止まったことないでしょうが。

「とにかく、今日は用意してないの。酒で楽しむよりもわたしと桜を見て楽しもうよ」

「そうですね。『ユウカと桜』を見て楽しむことにします」

 なんか微妙に文節の区切り方に疑問を感じたが、まあ彼女が楽しそうだしいっか。

 異世界ではいろいろなことがあった。楽しいこともあったし、辛いこともあった。

 裏切りに遭うこともあったし、人の死に対面することもあった。

 地球じゃ絶対にできないような体験もしたし、会えないような人と会うこともできた。お話をして友達になることもできた。

 そうして、今、わたしは異世界の友達と地球の桜を見て、お弁当を食べている。

 それが平和だとか、愛おしいだとか、そんな達観した気持ちもあるにはあるけれど、


「きれいだねぇ」

「『ミヤギ』ですねぇ」

「いや、だから『雅』だってば」


 ただただ単純に、友達と喋ってるのは楽しい。それだけで十分だなと感じた。

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