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土曜日。インドア派のわたしにとって週末というのは在宅時間が平日に比べて圧倒的に長くなるものだった。長くなるどころかまったく外に出ない日というのも少なくはなくて、一日中パジャマのままだった~とか、スマホの歩数計の数値が500歩未満だった~とかいうのは日常茶飯事である。
しかも今日は雨だ。もうこれは神がわたしに言っているのだ。『今日は外に出る定めではない』、と。
神様に言われちゃ仕方がないなーとてきとうなことを思いながらベッドに寝転がる。今日は少し寒いし、このままもう一眠りと行くのもいいものだろう。
しかし、そんなわたしの邪魔をするかのようにスマホが着信音を鳴らしてくる。
「あーもう! なんで寝転がった直後に!」
スマホを枕元に置いていれば普通に出ればいいのだが、あいにくと机の上に置いてしまっている。当然、電話に出るにはベッドから起き上がらなくてはならない。
「……」
一瞬、このまま気付かなかったことにしてしまおうかと思ったものの、メッセージアプリが頻繁に使われるようになった今、敢えて電話をしてくるのは緊急の用事かも知れない。それならやはり電話には出た方がいいだろう。
わたしは一度大きくため息を吐いてから勢いを付けてベッドから起き上がる。少し待たせてしまっていることを申し訳なく思って電話先も確かめずに電話を取ると、やけに耳に響く女性の声が聞こえてきた。
『やっほーーーっ! わたしわたし! 元気してた?』
「はぁ、どちら様でしょうか」
正直寝起きにこの甲高くてテンションもはっちゃかめっちゃかな声はなかなかにクるものがあり、わたしは少しぶっきらぼうにそう応えていた。
「えー? ひどーい! わたしの声を忘れちゃったの? わたしだよわたし!」
初期の頃の特殊詐欺かなと思いながらも、こんなテンションで電話をしてくる知り合いなんてひとりしか思い浮かばないので相手の名前を言う。
「で? 『神』がわたしになんのようなわけ? わたし、さっき別の神様に『今日は外に出る定めではない』って言われたんだけど」
「どうせユウカちゃんの妄想神様でしょー。アタシはホンモノだぞー!」
そう。電話の相手はホンモノの神様、らしい。本人曰くこの地球を含む宇宙空間を作った存在らしく、なんどか神様であることを信じてもいいかなと思うぐらいには超常的な現象を見させてもらってもいる。
とは言っても、じゃあ信仰としての所謂神様のように畏敬の念を抱くことができるかというと、それはまた別問題であって、どちらかというと電話を書けてきて欲しくない相手BEST3には確実に入るだろう。
だいたいやっかいごとしか持ち込まないからな、この神様。
「それで? 今日はなんの用で電話してきたわけ? また、『異世界が魔族に支配されちゃったから立て直して』とかいうのだったら拒否よ、拒否。めんどいし」
『そこで断る理由が「無理」じゃなくて「めんどい」っていうのがユウカちゃんの素敵なところだよねぇ』
まあその異世界の魔族や天使程度が相手であれば一日で余裕で制圧はできるだろう。
流石に神々が相手だったり、さらにその上の概念存在である
『あ、その点に関しては安心して。今回は戦う系じゃないから』
「あのねぇ。わたしの
そもそもわたしが魔族だったり神々だったり、はたまた根源体や混沌と渡り合えているのは、すべての生物に与えられている
逆に言えば世界の危機でなかったり、そもそも具体的な戦闘でなければその真価を発揮することは到底できないのだ。
だというのに、今回この神が持ってきた案件は戦う系ではないという。アホなの?
「アホなの?」
『うぐっ! わざわざ口に出さなくてもいいじゃん! ユウカちゃんの考えは言わなくても伝わってくるもん! 以心伝心だからね!』
以心伝心以前に、神は他人の思考が読めるはずである。まあ、これも『神』という深淵をもつ存在が『神』としての役割を担っているということらしいのだが。そして、その『神』の深淵の中には他人の心を読むという力も含まれているのである。
まあ、そんなわけで、神になにか遠慮をしてもこちらの考えは筒抜けであるので、わたしはこの神に対してへりくだったりはしないのだった。
「す、少しくらい敬ってくれたりしたら嬉しいなーって思ったりもするんだけど……。あ、でもやっぱり友達っぽい感じの方が好きだし、今のままでいいや!」
「それはどうでもいいから早く詳しい内容教えなさいよ」
『なんだかんだいいながらちゃんと聞いてくれるユウカちゃん好きー。まあでもユウカちゃんには「勇者」以外の深淵……っていうか特徴があるでしょ? 今日はそっちをお願いしたいんだー!』
勇者以外の特徴?
そんなものないと思うのだけど。
そもそも基本的にある存在が持つことができる深淵はひとつだけだ。もちろん、裏技というのはなんにだってあって、異世界の外道魔術師と魔族が手を組んで複数の存在を情報系における同一座標上に重ね合わせることで意図的にふたつの深淵を併せ持った存在を作り出した例はあるが、とても人道的な方法ではなかったし、できあがったものも外道魔術師は『芸術』と読んでいたが、わたしには存在というものを根底から軽蔑した代物にしか見えなかった。
ちなみに、そのときの外道魔術師と魔族はわたしが完膚なきまでに倒したのだが。
『だから「深淵」じゃなくてただの「特徴」だってば! ユウカちゃんはちょっと勇者としての仕事に浸りすぎて普通の考えから外れちゃってるよねぇ』
「浸りすぎって、あんたがこっちに仕事を持ってきてるんでしょうが!」
『うぴゃあ! ごめんごめん! 今回は「勇者」は関係無くてさ、これはあくまでもわたし個人から「友達」へのお願いって感じなんだよ』
友達、ねぇ。まあ、別に? 神の方がわたしのことをどう思ってたって困りはしないけど?
「なんかそれはそれで面倒ごとの匂いがするんだけど?」
『そこまで面倒ごとじゃないと思うよー。えっとね、この後ユウカちゃんのお家にアタシの知り合いが行くと思うから、その子にJKの遊びを教えて欲しいの!』
「は? それってどういう――」
『それじゃあよろしくねー!』
もう少し詳しい話を聞きたかったのだが言いたいことは言ったと神はこちらの制止もまたずに電話を切ってしまう。
ピンポーン
電話が切れると同時に家のインターホンが鳴る。幸いにも今日は一日両親が家を空けているため、両親を誤魔化す必要はない。
慌てて玄関扉を開くと、そこには雨に濡れるのにも構わずインターホンの前で棒立ちになっているひとりの少女がいた。
「は、は、は、初めまして! わ、私、クレスタと申します! ど、ど、どうか、よ、よろしくお願いします!」
噛みまくりな少女の背中には1対の翼が生えていた。 な、な……。
なんでわたしが天使に遊びを教えなきゃいけないのよー!
ああ、『今日は外に出る定めではない』って神様(わたしの妄想)が言っていたのに……。
あのテンションの高い神様め、次に会ったときは一発ぶん殴る。
そう決意して、まずはずぶ濡れの天使を家へと上げるのだった。
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