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知らない言葉はどうやったら使えるようになるのだろう。
その問いに対する答えは決まり切っている。使えばよいのだ。とはいっても、日常会話で使うような単語であればまだしも、小説などでしか使わないような少しかしこまった言葉だと、日常会話や学校に提出するレポートなどでも使うことはないだろう。
そうなると必然的にそう言う言葉を使う機会というのは小説などを書いているときに限られるわけだが、残念なことに書いている間は使い慣れていない言葉が出てくることはなかなかない。
というわけで、じゃあ意識して使ったことのない言葉を使ってみればいいじゃないかと思ったのである。
で、じゃあ今回から嘘日記の中に今までに使ったことのない単語を入れてみようと思ったんだけど……。
「思い……つかないなぁ」
いや、もちろん、わたしには知らない言葉などないのだよ! というわけではもちろんなく、知らない単語というのは基本的に知らないので(知っていたらそれは知っている単語である)パッと頭の中に浮かんでこないのである。これが小説を読んでいる最中などであれば、知らない単語もときどき出てくるのだが、いちいち知らない単語を単語帳などにまとめているわけでもないので、どんな単語を自分が知らないかなどわかるはずもない。「これ、知らない単語があったらメモする癖をつけないと駄目なやつでは?」
うん、今度小説を読んだときにやってみよう。あと、あまり使わない表現とかもメモしてもいいかもしれない。
さて、では今日はもう書くことがないのかというとそんなことはない。
こんなときの強い味方がいる。そう――辞書である。っていうか最初から辞書からてきとうに抜粋すればいいと思っていた。いってしまえば今までのは字数稼ぎである。
さてと……こうやって見てみるとどの単語を使えばいいのかわからないな……。
そういえばわたしが持っている辞書は『ベネッセ表現読解国語辞典』という辞書なのだが、これには『表現チャート』という項目が含まれている。どんなものなのかというと、ある単語に対してその単語を意味する類義表現がまとまっているのだ。例えば『新しい』という項目では『画期的な』だったり『おろしたての』であったりという単語が並んでいる。この辺りを使ってみれば新しい表現を使うことに繋がるかも知れない。
うーん、じゃあこの表現チャート+数単語を使って書いてみようかなぁ。
さて、では始めるとしようか。いや、もう一日分は十分に書いている気もするけれど、そもそもこれは嘘日記だと言っているのにも関わらず、今日に関しては嘘を言っていない、というかそもそも今日あったことではなく完全にわたしの思考を書いている。もはやかつてない嘘日記と言っても過言ではないだろう。
わたしは早速、辞書のページをめくる。大して使っている訳ではないのだが、わたしの扱いが雑なためか、おろしたてというほど、状態が保たれているわけではなかった。辞書を覆っているプラスチックのフィルムは端の部分が所々折れてしまっていて、蛍光灯の光がフィルムの上を乱反射していた。
とりあえずてきとうなページを開いてみる。すると辞書を見慣れていない人間からすると圧迫感すら覚えるほどの文字の羅列が目に飛び込んでくる。
「うわぁ、これどれ選べばいいんだ……?」
当て所もなくページをめくったりしてみるのだが、『この単語を使ってみよう!』というものにはなかなか出会えない。
もう、最初に決めた表現チャートに書いてあった表現はいくつか使ったのだし、今日はこれで締めてしまってもいいのではないかと思いつつも、それだと辞書に負けた気がして後味が悪い。
わたしは膝に置いた辞書の重みに後押しされるような気分で、更にページをめくった。
「っていうかこのままページめくっても『あ』から始まる単語しかないじゃん」
当然のごとく辞書の単語はいわゆる辞書順――すなわち『あ』から五十音順に並んでいる。もう少し違う発音の単語も見たいなぁと一気にページを『け』のところまで進めた。
その思い切った動きが契機になったのか、少しだけキーボードを操る指の動きが軽快さを増す。
辞書にある単語を次から次へとちぎっては投げ、ちぎっては投げとする様がまるで柔道などでいう掛かり稽古のようで、わたしの口元にわずかに笑みが浮かぶ。
と、なんだかこのままだと言葉の渓谷に落ちてしまいそうなので、今日はこの辺りにしておこうかな。
わたしは辞書を閉じて軽く息を吐き出す。
今日はとりあえず辞書を見るがままをそのままてきとうに描写しちゃったから楽だったけど、嘘話で同じようにやるのはなかなかに骨が折れそうな気がした。
まあ、でも辞書を読むというのも案外楽しいものだということがわかっただけでもいいのかもしれない。
この辞書を読みつつ話を書くというのがどれだけ続くかはわからないが、やってみるとしよう。
三日ぐらいは……保つといいなぁ。
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