第一章

第2話 レーデオロ大雨林Ⅰ


 視界のホワイトアウトから数秒。

だんだんと目が見えるようになってきた。転送は終わったと見える。

いつの間にか俺は膝をついた姿勢での転送となったようだ。自身の周りではシューシューと音を上げて煙が立ち上り、その下では円形のクレーターが出来上がっていた。


まずは周辺の確認と装備の確認だな。


 周りには色鮮やかとは言い難いが、発色のいいものから深い緑色までの多数の植物が見える。現代人にわかりやすく言うならアマゾン奥地といった感じだ。

周囲の樹木の幹をえぐり取るかのような形での転送と相成ったらしい。


 デデンデンデデンなどと口ずさみながら周辺を少しばかり歩いて散策してみた。

この森?いや熱帯雨林であろう場所には数多の生物がいるようだ。どこからとは分からないが“ギーチョギーチョ“などと生物らしき声がする。

ひとまずは安全そうな場所を見つける必要がありそうだ。うん。そうしよう。


 人工物や集落らしきものがないかと1時間ほどであろうか、歩き回った。少し喉が渇いたと感じ始めたころ、遺跡らしき小さな寺院といえばいいであろうものを見つけた。

中で休もうじゃないか。


「お邪魔します。」

と声に出してみたはいいものの、特に反応が返ってくることもなく侵入となった。

壁はツタに覆われ、年季の感じられる模様はほとんど見えないものとなっていた。

糸のようなものを使用して矢が発射されるトラップがあったが、運よく見つけることができた。ゲームをやっていてよかった。


まずは持ち物の確認だ。

 衣服は神様とエンカウントした時と同様、死ぬ直前に着ていたものだ。

ビジネスカジュアルといえばいいだろう。灰色のジャケットの中に紺色のYシャツ。ベルトにチノパン、少し丈夫な革靴といったものだ。

スーツを着ていなくてよかった。あれではまともに動けない。


 手持ちの小物はオイルライター1つとメンソールの効いたタバコ1箱。中にはまだ17本入っている。あと、先ほど見つけて集めた果実らしきものが3つ。これだけだった。

これは困った。

火をおこすことは可能だろうが、転移時から降り続ける雨が止む気配は無い。これほど湿気のある中で火がおこせるのだろうか。

こんなことになるならば、もっとディス〇バリーチャンネルを見ておくべきだった。


 そろそろスキルとステータスの確認をしておくべきだろう。

わくわくしてきたぞ。まずはステータスだな。

ステータス画面を出したいと、うんうんと悩んだり空をつかむような動作をすること数分。やっと出てきた。多分意識による操作でステータスを開くことができるようだ。

これは要練習だな。


さて。


Status

名前 【 タケル・サンジョウ 】

性別 【 雄 】

種族:種族値 【 人類 】:【 28 】

職業 【 放浪者 】

LV 【 30 】

HP   110 / 120

MP   3190/ 3200

可動性 【 5000 】

筋力  【 6000 】

耐久性 【 400 】

知性  【 5000 】

運   【 35 】

技量  【 5000 】

啓蒙  【 1 】



うん。虚弱体質な脳筋かな?

細かい部分にも目を通しておこう。

一般的なステータス表記とは少し違う部分が見受けられる。詳細については文字を長押しすることで見ることが出来た。前の世界の感覚で操作できるのはいいことだな。


少し調べてみてわかったことは以下の通りだ。


可動性 :攻撃準備速度や移動にかかわる速度を表す数値。

筋力  :物理攻撃力と持久力を表す数値。

耐久性 :防御力と外的要因による負傷の怯み補正を表す数値。

知性  :魔法攻撃力と回復速度を表す数値。

運   :因果律との親和性を表す数値。

技量  :攻撃命中率と弱点への攻撃の補正値を表す数値。

啓蒙  :????


大体は理解できた。つもりだ。

因果律というものと啓蒙に関してはまだ理解が出来てない。そのうちわかればいいのだが。


「さて。」

と背筋を伸ばしてみる。固い地面というのは足に悪い。かといって座っていると背筋が曲がってしまう。布団のようなもので寝転びながら作業したいものだ。


 ステータスについてはわかった。一発もらうとアウトなバーサーカーといったところだろう。もしかしたら転んだだけで逝ってしまうようなHPかもしれない。ほかの生物のステータスが確認できるのであればしておくべきだろう。

スキルの確認もしておこう。呪いについても詳しくわかればいいのだが。


Skill


死神の抱擁 :LV,1

【HPが全体の100分の一の時、ステータスに強力な補正がかかる。】

:パッシブ

炎熱魔法  :LV,0

回復魔法  :LV,1

【生物の損傷や状態異常を癒す。】

言語使用  :LV,1

【一般流通言語を理解、発音できる。】 :パッシブ

未使用SP: 0


ふむ。死神の抱擁か。いい響きではないね。100分の1での発動とか使う場面あるのだろうか。HP12の時に使えということだろう。なかなかハードだ。

言語使用と回復魔法については説明文の通りだろう。最低限の情報しかないのが何ともさみしい。言語使用はパッシブだそうだ。話すたびにスキル使用はめんどくさい。

炎熱魔法に関してはまだ使えないようだ。

スキルポイントが手に入ったら上げてみよう。


そのあとに続くように特性の欄も発見できた。


特性

【 加護 】


≪ 女神の抱擁 ≫


【 呪印 】


  ≪ 邪神の寵愛 ≫

  ≪ 貴紳の所作 ≫

  ≪ 呪難の相 ≫


呪いを3つも頂けたのか。まったく喜ばしい限りだね。

神様からは加護も頂けたようだ。

これは詳細表示があるのか。▼のマークが出ている。



【 加護 】


≪ 女神の抱擁 ≫

   〈 回復力と回復系能力のレベルの大幅上昇。

      

【 呪印 】


  ≪ 邪神の寵愛 ≫

   〈 発狂や状態異常、自傷行為によって死ぬことが出来なくなる。負傷時の痛覚倍加。 〉

  ≪ 貴紳の所作 ≫

   〈 自身の行動と言動が一部を除いて制限される。 〉

  ≪ 呪難の相 ≫

   〈 呪印を持つ者との遭遇率の上昇(因果律への干渉)、又他者から自身に対する呪印効果の上昇。一定条件下で他者の呪印を無効化する。 〉



 女神の加護は使えそうだな。回復にSPを振りまくると、死なないバーサーカーでチートなジャップオスが出来上がるかもしれない

邪神の寵愛は・・・どうなんだろうか。痛覚倍加はやばそうだ。前文と相まってショック死ができない。自殺もできない、といった感じか。ポジティブ思考で乗り切れとでもいうのだろうか、無理があるだろう。被弾できない弾幕シューティングが始まりそうだ。


貴紳の所作は細部がわからない。転送されてからは特に制限されたようなことはなかった。

追々調べよう。


呪難の相についてはわかりやすいな。呪い持ちと出会いやすくなるのか。異種族関係広がっちゃうっ。いやっ、そんなに広げないでっ。

やばい性病持ちと出会いやすくなるみたいでエッチですね。



一応特性は確認し終えた。


が、ふと加護の欄の一部分に目が留まる。

なんでこんなに空白があるんだろうか。日本語への翻訳ミスで変な空白ができてしまったのだろうか。神様仕事荒いなぁ。


と考えながら何度もタップしてみる。ぽちぽちぽちぽち。

十数回タップしてもういいだろうと感じた頃、文章がプルプルと小さく震える。

「ん?」

こんなギミックがあったのか?隠しコマンド的なものだろうか。

十円玉でスクラッチを削るように爪で引っ掻いてみる。すると下から続きの文章と思えるものが表れる。



≪ 女神の婚約者 ≫

   〈 回復力と回復系能力のレベルの大幅上昇。ただし、ボク以外と肉体関係を持つことは禁止。キスまでなら許してあげよう!ヤろうとしたら不能のデバフがつくからね。 〉



「これは…。」


やりやがったな神様。とんでもねぇ呪いとデバフを仕込んできやがった。

夢の人外ハーレムが崩れ落ちる音がした。


女性との関係は高校で彼女が一人いたのが最初で最後だった。結局1か月で別れてしまい、手を繋いだのが最高値だった。生涯童貞の可能性も見えてきたことに少々落胆する。


 こちらではイチャラブな生活ができると思っていたが、貞操はしっかりと保護していただいてしまった。非常に遺憾の意を表明したくあります、はい。

あ、でも他人に貞操帯で管理されている感じがするぞ!非常に気持ちがいい。


特性名も変わって≪女神の婚約者≫になっている。

確かに結婚したいとは心の中で申し上げましたが、まだ初夜も迎えておりません。


 しかしこういうものにはどこかに抜け道があるはずだ。

解呪などの手段があるかもしれないし、逆レ〇プなら大丈夫かもしれない。

しかもキスまでなら不倫ではないそうだ。濃厚でねっとりとしたものをしてやろう。

不倫は文化だと、かの御仁もおっしゃっていた。


少し気分が落ち込んでしまった。

泣いてません。

ぐすん。



 気分転換が必要だ。

たばこの箱から1本取り出し、根元を噛み潰す。火をつけて吸い込むと、紫煙とメンソールの香りが広がる。


「ふーっ。」


至高の時間だ。

職場の同僚の娘さんに「おじさん、くちゃい」と言われ、禁煙をしたことがあった。

おじさん・・?お兄さんだよ?などと傷ついたのは記憶に新しい。


しかし禁煙など続かない。それは人類の歴史とともに証明されていると考える。

やめようと思っても体は求めるものだ。いけないと言われたことはしたくなるし、したくないことをする必要があるのも人生だと思う。

たばこは二十歳になってから。それから吸っている。体はニコチンでできている。


いや、まてよ。


「回復魔法で中毒を無効化できるんじゃないのか?」

などと呟き、回復魔法の行使を試みてみる。

こういう時は呪文名などを口にするべきなのだろうか。

右手を胸に当て、言ってみる。


「ヒール。」


すると乳白色をした小さな光の球体が右手からいくつか発生した。

それは薄くなりながら体を包み、そして消えた。


魔法陣のようなものが出てくると思っていたがそんなことはなかった。

HPを確認しよう。


HP   120 / 120

MP   3080/ 3200


効果はあったようだ。

しっかりMPも減っているが、そこまで気にするものではない減り方だ。

そして少しするとMPは回復していった。スキルの中にはMP持続回復などはなかったはずだ。婚約者効果が魔力回復にも影響しているのであろうか。

これはなかなか便利だ。加護を呪いなどと言ったことはお詫びしておこう。


そういえば中毒はどうなっているのであろうか。胸に手を当ててヒールを行ったが、ニコチンが作用するのはおそらく脳だろう。


もし効果があったとなれば、中毒症状の無効化の可能性と患部に接することなく回復が行えるということの二つがわかる。


ということに今気づいた。

いや、狙ってやったのだ。ふふん。


まあ、俺は2時間に1本くらい吸いたくなる質だ。

吸いたくなるまで待とうじゃないか。


               *


 それにしても雨が止まない。

周りは徐々に暗くなりつつある。

今日はここで野宿となりそうだ。


「ここをキャンプ地とする。」


などと言ってみる。

一人は辛い。心が砕けそうだ。


 転移後に集めた果実を食べて今日は眠るとしよう。

先ほど割って舐めてみたが、舌先に刺激などはなかった。大丈夫だろう。

もし何かあったら回復魔法で治せばいい。

便利だなぁ。


そんなことを考えて、入口は軽く枝などで蓋をしてみた。火は起していないので一酸化炭素中毒になることはないだろう。この気温だ。たぶん大丈夫。

問題は食料と水、人里へのアクセスだ。

「ふぁぁ。眠いな。」

あくびを嚙み殺し、横になる。

異世界生活1日目は少々感情の起伏が激しいものになってしまった。


おやすみなさい。



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