第17話 カジュアルな謁見


次の日、朝日に起こされる気分を覚えて目が覚める。


蜘蛛さんは昨日俺の部屋に入ってきて今、腹の上で寝ている。

初めの方は潰しそうで怖かったが、偶然尻の下で潰しそうになった時、異常に硬くて潰れなった。

部屋の戸がたたかれる音でそちらに意識が行く。


「おはようございますー!起きてますかー?」


と言いながらサラさんが入ってくる。ノックの存在意義が問われる。

息子の自己主張が激しい。うまく隠そう。


「おはようございます。起きてますよ。」

「サンジョーさんはいつも早起きですね。起こしに来た時に起きてなかったことがないんですから。」

「はは。癖みたいなものですからね。」


妹への仕送りのために続けた社畜としての習慣がいまだに残っている。

サラさんに起こしてもらうシチュエーションのために努力をしよう。

あ、蜘蛛さん。息子を左に押さないで。大きくなってるときに左に押されると厳しいです。少し右寄りなんです。寝ぼけないで。あ、二度寝した。


「さて、起きましょうか。着替えますんで、先に行っててください。」

「お手伝いしましょうか?」

「はは。からかわないでくださいよ。」

「…はーい。」


メイドさんのような事をしてもらうのだったらお給金をつけないといけない。彼女はまだ若い。

服を着ている時に蜘蛛さんが本格的に起きた。ベッドから落ちる音がしたから分かる。

蜘蛛さんを拾い上げ、肩に乗せる。


ガチャリとドアを開けて廊下に出る。

と、右の部屋からも人が出てくる。リンネさんだ。

寝ぼけ目で寝癖がキュート。彼女は朝に弱い。


「おはようございます。」

「…おはよ。」


と、目が合う。

おはよう、リンネさん。寝癖がキュートだね。


「……。」


と、その言葉を読んで彼女は髪を抑える。そして蜘蛛さんに目が行く。


「……おんぶ。」

「え?」

「おんぶして。」

「ええ…。」


1階はすぐそこでしょ?まあいいけど。

彼女をおんぶする。あ、めちゃくちゃいい匂いがする。最高。

身長180センチ近い女性をおんぶするのって大変ですね。

あ、少しおm


「重くない。」

「え、」

「重くない。」

「はい。」


彼女のこういう可愛い所っていいですね。

1階に降りてリンネさんをソファにおろす。ここで二度寝するんですか?

と、リンネさんから声。


「あ、起きましたねー!リンネさん!起きてください!あ、サンジョーさん。すぐに準備します!」

「いえ。お手伝いしますよ。」


さて、朝食だ。

今日のメニューはコーンスープとベーコンエッグ、ふかふかのパンだ。

最近家の近くにおいしいパン屋さんを見つけた。よく通わせてもらっている。あの店の獣人の家族はいい人たちだ。大切にしたい。


「今日は王城に行ってきます。陛下からの命令だそうで。特に問題はないでしょう。」

「わかりました!お気をつけてくださいね。」

「…わかった。ついていけない?」


リンネさんからの疑問。ついて来てもらっても待たせそうだよな。


「謁見できるのは本人だけかと。蜘蛛さんくらいしか行けないでしょうね。すみません。」

「そう。残念。」

「ありがとうございます。」


リンネさんが来てくれるとめちゃくちゃ強い気がするけど、周りには変な心配をさせないほうがいいだろう。


「朝食の片づけをしたら出ようと思います。家をお願いしますね。」

「はい!任せてください!」


あ、スープおいしい。

今日の朝食はいつもより元気がついた気がする。気のせいかな?




朝食を終えて王城に向かう。蜘蛛さんがついてくるのはこれで2回目だ。

いつぞやのアルバートさん不法入国事件の王城前の広場を抜けた先、門の右側、検問を終えて通路を進む。

王城の兵士さんに連れられて王城内を歩く。あれ、謁見の間を通り過ぎましたよ。


「陛下がお待ちだ。」


と通されたのは高級そうな装飾の並ぶ一室。初めての場所に童貞は動揺を隠せない。今回は蜘蛛さんも同行が許可された。

陛下とその護衛、エメリーがいる。そのすぐ近くに女性。エメリーのママ?


「ご苦労。」

「いえ。陛下のお呼びとあらば。」

「ふむ。まあかけるがよい。」


と促されてソファに座る。


「失礼致します。」

「今日呼び立てたのは他でもない。そなたに与えようと思っている地位がある。」


あ、やばい。騎士の地位だ。良くない。俺は邪神を探さないといけないんだ。


「恐れ多くも私は下賤の身であります。その大役、果たすこt」

「まあ聞け。」

「…はい。」

「そなたの使命とやらをエメリーより聞いた。なんでも魔王に会う必要があるなどと申したそうであるな。」

「はい。」

「その使命のために我が孫の騎士にはなれんと聞く。まことか?」

「その通りであります。」


ここまでは想定通り。みたいな顔で陛下は続ける。

エメリーが視線を寄越す。大丈夫。みたいな感じだ。その横の女性はニコニコ。誰?


「結論からするとそなたに男爵の地位を与える。」

「え…。それは何かの間違いかと思います。」


この王様はおかしなことを言い始めたぞ。

この人はまだ錯乱するようには見えなかったんだけどな。

男爵というのは貴族の地位だ。平民が手に入れることはまずない。あっても準男爵だろう。いや、あれはどうなんだっけか。その仕様が適応されていない国も多かったような。

まず、ほかの貴族が許さない。


「否、真実である。」

「その真意をお伺いしてもよろしいですか?」

「……。」


やっべ、怒らせたかもしれん。


「失礼いたしました。出過ぎた発言でした。」

「いや…。はあ、めんどくさ。」

「はい?」

「ぶっちゃけると、孫が可愛くてな、好きに結婚させてやりたい。」


今陛下がおかしなことを言ったと思う。


「え…聞き間違いでしょうか?」

「いや、聞き間違いではない。エメリーが転還したことを聞いた。それを聞いたわしはどう思ったと思う?」

「王位継承権を持った王子を転還させて、王位から引きずり落とした下賤の民がいる。といったところでありましょうか。」

「大筋はあっているが正確ではない。長年欲しかった女の子の孫ができて、王位継承戦から降ろしてくれた人類族がいる。じゃな。」

「え…。」


陛下がご乱心されている。何?孫が可愛いから幸せにお嫁に行ってほしい?田舎のおじいちゃんかよ。一国の王がいいのかよ。

確かにこの国の王族はその特性から男児が多いのだろう。結婚は男だけでは成立しない。この国の法律では。女性も必要なのだから女児を残す血族もあるだろう。一族で女性が珍しいということは無い。でも、なんで?真意が読めない。

目の前の陛下は、童貞の精一杯の思考を無視して続ける。


「しかし、その人類族は使命があって無理だと言う。孫もそれに従うと言う。」

「はい。申し訳ありません。」

「ならばその使命を終わらせてさっさと婿に来させる。というのはどうじゃ?」

「いや…。」


それは無理がある。この国も一枚岩ではないだろう。国王の独断でできるものではないだろう。それが出来たらこの国は終わっている気がする。


「遠回りになってしまったが男爵の地位を与える理由を話そう。」

「はっ。ありがたく思います。」

「そなたの使命を終わらせるために動きやすくしてやろうと思う。そしてそれが外交特使じゃな。」

「外交特使…ですか。」

「うむ。しかし簡単にできるものでは無いじゃろう。だからこの国の貴族の元で学ぶがいい。人類族の伯爵、クラフト伯爵の元でな。」

「クラフト伯爵…でございますか。」


まとめると、エメリーと結婚させるために貴族の地位を与える。周りに認めさせるために男爵の地位を与えて人類族貴族の元で育てる。そして童貞の使命を終わらせるために外交特使の任を与える。

外交特使の任をするために、クラフト伯の元に居させる。統治はクラフト伯の元で学ぶという建前で無し。

色々とガバガバな気がする。周りの貴族が黙ってないぞ。


外交特使という立場を貰えるのはうれしい。この国のポリシー、平和的共生に沿って他の国との同盟条約を結ぶという大義名分もある。

個人的感情にしてはやることが大きすぎる。

あ、人類族の手綱を引いてますよっていうアピール?

うーん、分からん。


「質問をよろしいでしょうか?」

「うむ。申してみろ。」

「私には男爵という地位は大きすぎるものと思います。何より、周りの貴族様に対する理由が説明できないと思います。」

「なるほどな。…エメリー擁立派以外の賛成は得ている。気にするでない。そやつらもすぐに片がつく。」

「そ、そうでありますか…。」


陛下は一体どんな手を使ったんだ?君主制の闇が垣間見える。チラチラと。


「サンジョー様?ご不満ですか?」


と、エメリーの横にいた女性が聞く。

誰かは分からないが返事を返す。


「いえ…そうではありません。しかし、現状を呑み込めていないのであります。」


そしてあなたは誰?

と、エメリーに視線を送る。横の美人さんは誰?

その視線に気づいてエメリーが助けてくれる。


「サンジョー、こちらは私の祖母、ウィレイナ王妃よ。」

「ああぁぁぁ。エメリー、言葉使いも変わりましたね。」


紹介された彼女はウィレイナ王妃。おばあちゃんにしては若くないですか?40代後半に見える。しかもエメリーに紹介されて嬉しそう。あら~^^みたいな顔してる。


「それは…失礼致しました。随分とお若く私の眼には映りましたので、理解が及びませんでした。」

「ええ、良いのですよ。エメリーを幸せにしてくださいね?」

「おお、おばあちゃん!やめてよ…。」


エメリーが顔真っ赤。ウィレイナさんは気が早い。

エメリーには随分と愛されている気がするが、彼女も14歳のロリ。自身の身の丈に合った俺よりもいい男を見つけるだろう。

でもそうなったら全力で嫉妬する自信がある。リンネさんに慰めてもらおう。

今全て決めるのは得策ではない。と童貞は思う。


「殿下もまだ若くあられます。気が変わることなどあるでしょう。もしも私の使命が終わった時、殿下の心がまだこちらを向いているのであれば、この身を殿下に捧げましょう。」

「ふむ…。その言葉、覚えておこうぞ。」

「はっ。」


と陛下は答えた。

結婚は簡単に決めていいもんじゃない。日本の価値観が残っているのもあるが、何よりエメリーの心が間男に行ったら俺の心は耐えられないだろう。心はガラスなのだ。


「ということはクラフト伯の元にて暮らすということで良いかの?」


あ、そうだ。俺クラフトさんのところに行かないといけないんだった。どうしよう。

サラさんとリンネさんが同居してるんだけど。


「わ、私はこの町にて信じることのできる者と暮らしております。その家はかけがえのないものであります。」

「ふむ?ならその者らも行けばよいであろう。」


え、良いん?でも家に住み始めたばかりなんだけど。

ローンもまだあるし、丁度住みやすくなってきたのに…。


「家もそのままでよかろう。この国に来た時使えばいい。」

「あ、ありがとうございます。」


陛下が俺の心を読んだように言葉を投げてくる。完全に陛下のペースだ。

男爵の地位は断れない空気になってしまった。


「今日はここまでかの。ご苦労であった。追って子細は伝える。」

「はっ。」


断れなかった。

どうしよう。蜘蛛さんは机の上のお菓子に夢中。

サラさんとリンネさんにどう説明しよう…。絶対怒られる。


部屋を退出して廊下に出る。兵士に連れられて王城の門に連れられる。

嫌だなぁ…。報告したくないなぁ。

と、王城の入口でエメリーが待っていた。部屋を出てからここまでは一直線だ。早すぎる気がする。よく見ると彼女は走ったのか、ゼーゼーと息を吐いている。走ったのかよ。

気付かないふりで童貞は声をかける。


「おや、殿下。お早いですね。」

「エメリーって呼んでよ。…もう。ごめんねサンジョー。あんなことになるなんて…。」


エメリーのメス度が高い。


「いえ。気に病むことはありません。成るようになったということでしょう。」

「そっか…。ありがとう。また家に行くね。」

「はい。お待ちしております。」


エメリーが笑顔で手を振ってくれるのを背中で感じて童貞は城を後にした。

家で怒られたくない童貞は蜘蛛さんに現実逃避。


「蜘蛛さん、どうしましょうか。」

「?」


蜘蛛さんは何?みたいな感じの表情。

だよね…。


クラフト領に行く前に竜王様に会っておかないと…。あ、王様に竜王様と仲良くなったことを報告していなかった。まあ、いいか。

童貞は家へと重い足取りで帰る。




家に着いた。扉は目の前。リンネさんは俺の帰宅に気づいているだろう。もう戻れない。

覚悟して家の戸を開けようとすると内側から開けられる。

リンネさんだ。やっぱり気付いていた。目が合う。


「すみません…。」

「…いいよ。」


俺を読んですべてを理解した彼女。包み隠さずサラさんにも説明しよう。

中に入って聞こえるように言う。


「ただいま戻りました。」

「おかえりなさい!」


と言ってサラさんが奥から駆けてきた。

風呂掃除を終えたであろう彼女の汗が光る。

健康的な汗がいいですね。童貞からは残念なお知らせがあります。


「ええと、私から少し残念な報告があります。」

「え…。」

「まあ、座って話しましょう。」


と彼女とリビングのテーブルにつく。彼女は今にも泣きだしそうな顔をしている。泣くほどのことでは無いんだけど。


「実は、私が男爵の地位につくことになりました。」

「だ、男爵ですか!?」

「はい。それにあたってクラフト伯の元で外交特使としての任に就くことになります。」

「は…はい。」

「なので、この家から別の場所で過ごすことになります。」


サラさんから大粒の涙が落ちる。ぽたり、と。

彼女はダースさんがいる。この町に残りたいだろう。


「そこでなのですが、サラさんはメイドというものに興味はありますか?」

「へ!?メイドですか?」


彼女の顔が固まる。だよね。


「サラさんにはダースさんという大切な方がいると思います。ですから無理強いしたくはないのですが、私と一緒にクラフト領まで来ていただけると嬉しく思います。」

「え、あ、あの…。」

「この家では給料を出すこともできずに家事をお願いしてしまいました。なので正式に給金をお渡しして働いていただきたいと思います。」

「は、はい。」

「サラさんの意思を尊重します。ですが、サラさんのいる生活は、私に潤いを与えてくれます。なので一緒に来ていただけませんか?」


彼女の固まっていた顔がまた変わる。嬉しそうな笑顔でまた涙を流す。


「ぜ、ぜひ、是非私も連れて行ってください。」


涙を拭って彼女は答える。彼女の真意に気づくこともできない童貞はこう思う。


あ、いいの?やった。正式にメイドさんになってもらえる。


「ありがとうございます。お願いしますね。」


彼女に向けて精一杯の童貞スマイル。サラさんが嫁に欲しい。

あ、リンネさん?今恥ずかしいから読まないで。


「リンネさんはどうされますか?リンネさんにも無理強いするつもりはありません。知っての通りかと思いますが、この家は残ります。使っていただいても構いません。」


そんな問いを投げかける。

でも、俺的にはついて来てほしいです。リンネさんのことしゅきぴ♡

あ、セクハラがきついならいいです。向こう3週間くらい後悔すると思いますが、何とか乗り越えますので。お願い捨てないで。

そんな童貞の心の訴えを静かに目で聞き、彼女は言う。


「言ったはず。」

「はい?」

「私は貴方の傍にいる。貴方のすべてを見て、すべてを受け入れる。だから行く。」

「そ…それは、嬉しいです。」


リンネさんがデレた!?今の発言はポイントが高いです。小さなお願いなのですが、結婚してもらえると嬉しいです。子供は3人欲しいです。リンネさんに似て可愛いと思います。

あ、言ってて恥ずかしいので今のは聞かなかったということでお願いします。


さて、俺の肩に乗る一匹に聞く。


「蜘蛛さんは来られますよね?」

「 (・w・)/ 」


この動作は来るということだろう。というか、連れていくつもりだった。飼い主は俺だ。他は認めん。


これでいろいろと決まった。引っ越しの準備はもう少し後でもいいだろう。男爵位の授与は1週間くらい後にあると聞いた。それまでに竜王国に行って、香辛料の貿易のお願いをする。許可がもらえたらあとはバードックさんに丸投げしちゃおう。


dragon king direct call center、略してじいちゃん電話。それを使って明日、竜王国に行けるようにアルバートさんを呼ぼう。


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