第18話 貿易相談


 じいちゃん電話でアルバートさんを召喚。竜王国へ向かう。

今回は一人だ。

今回の目的は竜王国の特産品、香辛料を交易できるように竜王様にお願いする。


「すぐに戻ることになったな。」

「そうですね。竜王国の景色は素晴らしいものです。また来ることが出来てよかったです。」

「気に入ったか。」

「はい。故郷にも竜王国のスパイスを使ったような味わいの食べ物がありまして。過去を振り返る思いです。」

「そうか。」


そんな会話をアルバートさんとする。この人は初めて会ったときは難しい人かと思っていたが、ただ口下手なだけだと気づいた。このツンデレさんめ。


「城下を回ってから行くか?」

「いいですね。昼食をとっておきましょう。別の目的もありますし。」

「両替か?」

「その通りです。」


 俺はこの国の貨幣を持っていない。数は少ないと言うが、両替所があるという。プレウラ金貨は安定した価値が保証できるとかで、良いものだ。


アルバートさんと両替所を後にして市場に向かう。そこで簡単に腹を満たす。

アルバートさんはやはりというべきだろうか肉が好きだった。どこに行っても肉。


 そう言えば気付いたのが一つ。この世界の食糧問題。

数多くの種族が生きるこの世界では、同族が店先で売られている、ということが無い。というよりも俺たちとは倫理観が違う。

ベースとなる種族と人型の種族では別の種族と考えられているらしい。

簡単に言うと、オークと食肉豚は別。ということ。オークのおじさんが豚肉を買っているところを見たときは少々びっくりした。


トカゲ肉の煮込みをテラスのテーブルで食べていると、アルバートさんが一言。彼の手には羊肉の串焼き。


「サンジョー、お前はあの国でずっと暮らすのか?」

「今はそう考えています。しかし、クラフト伯爵の領地で暮らすことになりました。なのであの家にはほとんど帰れなくなりますが、王国の民として暮らすつもりです。」

「そうなのか。」

「はい。王国に来るときはいつでも言ってくださいね。歓迎しますよ。もちろんヴィルヘルミーナさんも。」


ミーナちゃんはどうしてるんだろう。あのダメな人を見ていると、まだ自分は大丈夫だと思えてくる。というよりも、何とかしてあげたくなる気になる。


「おお、もうこんな時間か。王城に向かうぞ。」


アルバートさんがふいにそんなことを言う。どうやって時間を調べたんですか。

実はいつ行ってもよかったりするんでは?


「行きましょう。」


そんな感じで王宮へと向かうのだった。




 例にもれなくテラスに降ろしてもらう童貞。

普通の入口に降ろしてもらえばいいんだけどな。普通の入り方が分からないというのは困りものだ。


部屋に入るともうそこには竜王様が。急いで膝をつく。竜王様のフットワークが軽い。王様を待たせるとかまじでやばい。


「竜王陛下、私の申し入れを受けてくださりありがとうございます。」

「うむ。貿易に関してはどうにかしようと思っていたからの。いい機会じゃ。」

「ありがとうございます。」

「まあ座れ。」

「はい。」


竜王様は何というか距離が近くて話しやすい。プレウラ王国の国王よりも。

陛下に促されて席につく。竜王様が寛大でよかった。


「で?我が国からの貿易品に香辛料を加えるということじゃったの。」

「はい。」

「別にいいんじゃよ。」

「え、良いのですか?」

「うむ。昔プレウラ王国の貴族がうちの国に来てのう。そいつが気に食わんかったから一部規制した。」


プレウラ王国の貴族がやらかしたらしい。

それで激おこやーめた!ってどうなんだよ。

思った以上に竜王族は礼儀とかそういう人間関係に厳しいのだろうか。気に入ってもらえたことは奇跡だろうか。


「そのようなことが…。その件はもういいのですか?」

「少し前に王国内でその一族が粛清されたと聞いたしのう。新たにわしには友人が出来た。気分が良くなったから許そう。」

「それはよかったです。」

「じゃが…。」

「…なんでしょう。」

「サンジョーに免じてじゃ。これは貸しじゃぞ。」

「それでは貸しが2つになってしまいます。」

「これは大きな借りを返してもらわんとのう…。」

「お手柔らかにお願いします…。」


借りが大きくなりすぎる前にコツコツと返済しよう。じゃないと取り立てに来るかもしれない。

そこで部屋の廊下側のドアが大きく開かれる。バタンッっと。


「やはー!はろー、少年!」

「あ、どうも。」


竜王族のダメなお姉さん。そのご本人の登場だ。

過激な登場におじいちゃんは顔をしかめる。


「ミーナ!勝手に入ってくるなとあれほど言ったじゃろう!」

「あは、ごめん。」

「ご…、はあ。…アナスタシア。」


と竜王様が言うと一瞬で部屋の中に女性が現れた。青白い皮膚を持つ女性。その彼女にも尻尾がある。


「ミーナ、行くよ。」

「え、ちょ、アナちゃん、尻尾はやめて!また切れるから!ああああ!」


彼女はミーナさんの背後に回り、尻尾をわしづかみ。綱引きのように引っ張る。

ミーナさんは扉の枠に手で捕まって最後の抵抗。


「ああああ!少年!少年と話したい!」

「はいはい。また今度話せるから。」

「ああぁぁぁぁ。あ、少年、またね~!」


と言葉を残して消えた。なんだったんだ。


「すまんのう。あれには手を焼いている。前回サンジョーが帰った後もプレウラ王国に行こうとしてな。仕事を増やして拘束しておった。」

「は、はあ。…あの女性は?」

「氷爆龍アナスタシアじゃ。儂の4番目の子供じゃな。なかなかの強者じゃぞ?」

「そうでしたか。どうりで親しげに…。」

「あいつはやらんぞ?」

「え、いえ。そんなつもりは…。」


そこでじいちゃんの眼がくわっと開かれる。


「儂の娘が欲しくないと申すか?」

「え!?いえ。非常に魅力的です!」

「……。はは、冗談じゃよ。」

「勘弁してくださいよ…。」


竜王様の茶目っ気が怖すぎる。選択肢をミスると消し炭にされる可能性がチラチラ。

貿易の話に戻そう。


「香辛料の種類についてはサンプルを頂けますか?種族ごとに安全性が変わってくると思います。それを王国で精査したいと思います。」

「そうじゃな。それはおぬしに任せればいいのかの?」

「私の知り合いにバードックという商人がおります。その者に具体的な事柄は任せるつもりです。」

「うむ。分かった。おぬしが信用する者じゃ。信じようぞ。」

「ありがとうございます」

「おぬしの帰国に合わせてサンプルを送らせよう。そこに我が国の貿易担当も同行させようかのう。」

「わかりました。」

「詳しいことはそやつらに任せるといいじゃろう。」


そう言うと竜王様は椅子から立ち上がり、テラスに向かう。


「さて、おぬしはこれからどうする?」

「そうですね、帰国に向けて香辛料の準備を手伝おうかと。それかヴィルヘルミーナ様と軽く話して来ようかと思っておりました。」

「ミーナは放置じゃな。」


竜王様は即答。


「え?」

「あやつは業務が残っておる。」


あっ…。ノルマ制なのか、この王城。


「分かりました。では準備の方を手伝わせてください。」

「いいじゃろう。アルバート、案内してやれ。」

「担当の方への伝令はよろしいのですか?」

「話はこうなると思っておった。元より準備を進めておるからの。」


そう言ってニコリと笑う竜王様。童貞は手のひらの上だそうだ。

流石は竜王様だ。


「分かりました。よろしくお願いします。アルバートさん。」

「うむ。」


ありがとうアルバートさん。労働基準監督署の連絡先を教えてあげたい。




アルバートさんに運んでもらった先では蛇顔の兄貴達やサソリの尻尾を持つ姉貴達の主導で荷物を検査した。なんでも明日は竜種の飛行部隊で運んでくれるらしい。

お兄さん王城関係者?などと聞かれて、ミーナさん達とは友達ですと言うと、お姉さんたちにゲラゲラ笑われた。彼女は色々と有名なのだろう。「まあ、頑張んなよ。」と言われた。

「あ、はい」と答えた。


その後は、貿易所の皆と夜が明けるまで飲み交わし、頭痛と共に朝日を浴びた。

多種多様な人と飲む酒は楽しい。酔いが回ってきて俺にもたれ掛かってきたサソリのお姉さんは、肌は甲殻に覆われて硬いのに胸は柔らかかった。

お姉さんの積極的なセックスアピールに答えることが出来ない不能予備軍の童貞は情けなかっただろう。

その直後、俺の太ももに盛大なリバースをかまされたこと以外はいい思い出だった。いや、あのゲロは啜っておくべきだった。




城内で朝食を取り、その席でアルバートさんと会う。昨日の飲み会はアルバートさんも参加だ。彼も楽しんでいたようだし、何より顔色がいい。昨日はよく眠れたようだ。


「よく眠れましたか?」

「ああ、よく眠れた。」

「それはよかったです。」


ご本人もご機嫌のようだ。

朝食を終えて、竜王様に挨拶をした。ミーナさんに挨拶だけでもといったのだが、何やら取り込み中らしく、合わせてもらえなかった。ちょっと遠ざけられてる感じがして悲しかった。


アルバートさんと離陸の直前。後ろには荷物を背中に背負った竜種の方々。かなりの荷物を運べるようで、サンプルだけでもこんなにもらえるとなると嬉しかった。

アルバートさんの足元にも木箱。彼も運んでくれるのだろう。いろいろな方に感謝だ。


それから離陸し、王国に向かった。今回は蜘蛛さんがいないこともあってスピードは加減しなくても良い、とのことを伝えると猛スピードで飛んで行った。




プレウラ王国に着くとすぐにバードックさんを呼ぶ。荷馬車を動員して王国の門のすぐ外に降りた輸送部隊の木箱を運び出す。大きな箱が3つと小さめな箱一つ。後はバードックさんと竜王国の貿易担当の方に任せて俺は家に帰った。


家に入るとそこにはリンネさん。いつも通り音で判断したらしい。

彼女はいつもと違って今日はおへそを晒した露出度の高い服だ。

サラさんの姿が見えない。


「ただいま戻りました。サラさんは?」

「アトラと一緒に買い物。」


と言って視線を合わせてくる。あ、昨日楽しかったのがバレるかもしr


「昨日は楽しかった?」

「そ、そうですね。」

「サソリの人は綺麗だった?」

「…。」


リンネさんには隠し事が出来ませんね。楽しかったです。童貞なのが災いして、もらえたのは生暖かいゲロでした。でも楽しい飲み会でした。


「…そう。」

「はい…。」


気まずい。そうだ、家事でもしよう。家のことがしたい。

台所に向かう童貞。

しかし、回り込まれてしまった!


「家事はいい。ゆっくりするといい。」

「あ、はい。」


彼女は怒っているのだろうか。促されてソファに座る。いや、座らされる。

リンネさんは童貞の横に座り、無言になる。

ガチガチになった童貞の肩に彼女は頭をもたれかけ、左の腕に腕と指を絡めてくる。


あれ、リンネさん?なんだか距離が近いですね。からかわないで。そういうお茶目なところ大好きだから。


「あ、あの…。」

「貴方は残される人の気持ちも分かるべき。」

「ハイ。」


ごめんね。確かに仕事で出ていったのに楽しく飲んで帰るのは良くないね。政治家が公費で楽しむのと同じ感じ?

童貞の腕を寄せ、肘が彼女の腹に触れる。

童貞は目で訴える。

あの、いろいろと触れてますし、距離が近すぎませんか?男性に対して不用心ではないですか?あ、柔らかい。

生へそ魅惑のエロリンネ!って言いますよ。あ、言ってますね。

彼女は無言。

リンネさんって意外とビッチさんなのですか?その手腕で一体どれだけの男を食ってきた?意外な人が淫乱だったりするのだ。

ほら、風紀委員長の淫乱率が高いのと同じだよ。


「そんなことない。人並。処女。」

「はい。」


彼女は言葉数が少ない。俺はリンネさんが無言だから彼女の考えが分からないんです。

あ、処女まで言わなくてもいいんですよ?それは守り抜くのは大変だったと思います。だってリンネさん可愛いもん。

と脳内でセクハラ三昧。楽しい。


すこし真面目に童貞は話す。


「リンネさんはあまり言葉数が多くはありませんよね。」

「うん。」

「私はあなたがどのように考えているかわかりません。」

「…うん。」


と聞いて彼女は目を逸らす。違う違う、そうじゃない。


「だから読むのをやめろと言いたいのではありません。貴方の声を聞いて、理解したいのです。少しずつでいいので、話してもらえると嬉しいです。」

「頑張る。」


そう聞いても彼女は視線を逸らしたまま。

ああ、恥ずかしいけど強気に出よう。

彼女のあごに手を当てて、こちらを向かせる。


「正直に言いますと貴方の声は綺麗です。私の好きなそれが聞ければ嬉しいです。」

「ッ‥‥‥。うん。頑張るから。」


そう言って彼女はそっぽを向く。

ふふ、本音だ。今日は彼女にからかわれたのだ、これくらいしてやろう。

今回は童貞の勝ちだろうな。


そこでリンネさんは急に立ち上がってドアの方向へ行く。

開けるとそこにはサラさん。肩には蜘蛛さん。


「ただいま戻りましたー!リンネさん、ありがとうございます。顔赤いですよ?熱ですか?」

「大丈夫。」

「そうですか?あっサンジョーさん!戻ってきてたんですね!」


サラさんは視線をこちらに移して、紙袋を持って駆け寄ってくる。リンネさんは階段を上がって自分の部屋に行ってしまった。

その姿を見る二人と1匹。


「サンジョーさん?」

「はい?」

「リンネさんを怒らせたんですか?」

「いえ、違うと思います。」

「そうですかー。はは…。」


サラさんは呆れた顔をしている。なんだよう。

蜘蛛さんは俺の膝に向かってジャンプ。着地して、撫でろと背中を押し付けてくる。

蜘蛛さんの希望通り撫でてあげる。

そこにサラさんの声。彼女は紙袋をテーブルに置き、こちらを見る。


「サンジョーさん、竜王国のお仕事の方はどうでしたか?」

「うまくいきました。今頃バードックさんのところは大忙しだと思いますよ。香辛料のサンプルがたくさん届きましたから。」

「あ、あれですか!?通りで馬車が4つくらい動いてましたよ!」

「ええ、そうですね。」

「あんなに沢山…サンプルってそんなにあるんですかね?」

「じゃないですか?種類は多いと思いますよ。」

「へぇ~。」


俺が担当したのは竜の方々の装備や資料関係の承認など。

そこで気付いたのだが、中身を確認するべきだった。中身の確認はバードックさんに丸投げしようと思ったのは間違いだったかもしれない。

やばい薬などがあったらまずい。薬物運搬を止められなかったとあれば責任問題どころではない。

まずった…。今度確認しないとな。


そこでサラさんからお願い。


「わたしは夕食の準備をします。洗濯物をお願いしてもいいですか?」

「はい!」


やった。久しぶりに家のことが出来る。ルンルンで洗濯物を洗う。彼女の衣類はサラさんがやるとのこと。ちくしょう、抜け目ないやつめ。

自分の服を干す。しわを伸ばして干すことで、乾いたときの仕上がりが違うのだ。

などと自己流の方法を見つけた童貞だったが、そこで来客。


「サンジョーさんですか!?」

「はい。」


知らない人だ。見たことのない人から声をかけられるのは久しぶり。人類族だ。


「バードックさんが至急、確認してほしいことがあるそうです!」

「分かりました…。」


バードックさんのところの人か。嫌な予感は的中するなぁ。

違法薬物密輸の手助けをしてないという立証は難しいだろうな…。

サラさんに伝えてバードック商会の本部へと童貞は向かう。

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