第6話 プレウラ王国Ⅱ

プレウラ王国Ⅱ



商業ギルドで換金を終えた。


次はどうしよう。

時刻はおおよそ夕方前といったところだろう。

本日の残りの仕事は3つくらい。宿屋と武器購入と入国料の支払いだ。

優先度が高いのは前の二つだ。

店の位置は先ほどバードックさんに聞くことが出来た。

まずは武器を買おう。

武具屋を目指して来た道を下る。好奇の視線にはもう慣れた。と思いたい。


少し歩いたところで目的の店を見つける。バードックさんイチオシのお店だ。


名前は鍛冶屋サザビア。代々鍛冶職を営む老舗だそうだ。

入口を開けて中に入る。

中にはちらほらと人がいた。

「こんにちは。」

そう言って店内を見回す。

武器や防具までたくさん並んでいる。一般的な服も少しは売っている。ここで買ってしまおう。

と店内を物色していると声を掛けられた。

「おい、兄ちゃん。何かお探しかい?。」

店の店主さんだろう。と顔を見ると驚いた。

一つ目だ。目が一つしかない。角が一本。そして筋骨隆々なおっさんだ。

その背後、おっさんの娘さんか、女の子が隠れている。

圧倒的異種感にステータスオープン。



名前 【 ガルド・サザビア 】

性別 【 雄 】

種族:種族値 【 一目鬼サイクロプス 】:【 42 】

職業 【 鍛冶屋 】




名前 【 アイリ・サザビア 】

性別 【 雌 】

種族:種族値 【 一目鬼サイクロプス 】:【 18 】

職業 【 鍛冶見習い 】



ここで分かったことは二つ。

一つ目、ステータスは特に意識しなければ欲しい情報しか表示しない。

二つ目、サイクロプスの女の子は可愛い。ついついその美しい一つ目をぺろりと舐めたくなってしまう。

感動していると声がかかる。


「おい、兄ちゃん聞いてんのか?」

ふと我に返る。

「あ、はい。聞いています。本日は武具を購入しようと来まして。バードックさんよりこのお店がいいと教えて戴きました。」


目の前のマッチョは驚いた顔をして続ける。


「ほう、バードックさんがねぇ。まあいい。こっち来な。」


と案内された。どれも高そうな品物だ。


「どんなのが希望だ?大体はあるが無ければ特注で作ってやるぞ。金はかかるがな。」


ガハハと笑いながら鍛冶マッチョは言う。

この人はあまり人類族に対しての特別な感情はなさそうだ。今後とも御贔屓にお願いしたい。

さて。欲しい武器は大体決めてある。


切れ味よりも丈夫さ重視、相手の攻撃を弾ける頑丈さを持ったものだ。筋力は足りている。一刀両断よりも相手を引き裂く武器がいいだろう。どうせ一撃高火力を叩き込まれたら終わりだ。動きやすい日本の足軽スタイルで行こう。

「切れ味よりも丈夫さを重視した剣が欲しいと思います。筋力には少々自信があるので、重さは少しなら大丈夫でしょう。あと、お金の心配はいりません。」

「そうか。変なやつだな。人類族はみんな魔法系の攻撃を好むのによ。切れ味だなんだと文句を付けてきやがる。」


と言いながら店の奥に行った。

残された俺と見習いのアイリさん。目が合う。

はは。気まずいや。


「こんにちは。三条と申します。いいお店ですね。」

「はっ…はい!アイリデス…。」


どんどん声が小さくなっていく。引っ込み思案なところがラブリーだ。

黒髪ショートで顔の半分を隠している。不健康と思えるくらいに肌が白い。作業着を身にまとってはいるが筋肉がしっかりとあるように見える。

涙目で店の奥と俺とを交互に見ている。人類族が怖いのだろうか。


「そんなに怖がらないでください。たぶん私は皆さんの思っているような人類族とは違います。アイリさんは素敵な女性に見えますよ。」

うひい、言ってて体がむずがゆくなる。


「ひゃい。…そうですか。」


完全空回りなお兄さんになってしまっている。

話が続かない。なぜ女の子の前ではこうも話が続かないんだ。

鍛冶マッチョさん助けてー!

と心の中で叫ぶと鍛冶マッチョの登場だ。


「お待たせさん。ほこり被ってやがった。…ああ、すまんな。うちのアイリは人見知りがひどい。許してやってくれ。」

「いえいえ。誰しも苦手なことはありますよ。」

「はは、助かるぜ。よっと、これだ。持ってみろ。」


と鍛冶マッチョは剣を俺に渡す。

片刃の剣だ。少し重いのがちょうどよさそうだ。両手であつかえば小回りも効くだろう。


「いいですね。思っていた通りのものです。」

「これな、流す魔力の質で強度が増す剣だ。しかし流すたびに剣の切れ味も変わっちまうから常に刃がデコボコしてんだよ。変な剣だろ。」

「なかなか面白いですね。これを購入させてください。」

「あいよ。うちにあっても売れなかったんだ。少しはマケとくぜ。」

「ありがとうございます。」


その後簡単なジャケットなど、一般的な冒険者と言えるような装備を買った。保存食もセールをしていたので買っておいた。ジャーキーみたいなものだ。酒のつまみによさそうだ。

金額は手持ちで足りた。剣がやはり高かった。とはいっても安い部類なのだろう。


「ありがとうございます。大切にしますね。」

「おう。兄ちゃん、あんたは悪くはねえ。また来な。名前を教えておいてくれよ。」


やった。常連になれそうだ。


「三条です。また来ます。」

「サンジョーか。俺はガルド。ガルド・サザビアだ。よろしくな。」

「はい。では。」


と手を軽く振って店を出る。アイリさんはおずおずと手を振り返してくれた。やったぜ。



               *



店を出るとすでに夕方。暗くなりかけている。

宿屋を探そう。バードックさん曰くここから遠くはない路地の中にその店はあるという。なんでも使う人は少ないが、信頼ができるお店ということで常連はいるそうだ。

もらった地図を見て宿を目指す。

その途中で簡単な日用品と食料を買い込んだ。

目的の宿に着いた。落ち着いた雰囲気の宿屋だ。入ってみよう。


「こんばんは。」


中は静かだ。見たところ1階は酒場になっており、2回が宿屋になっている。

数人の客が静かに酒を酌み交わしたり、カップルが話している。

落ち着いた雰囲気でとても気に入った。おしゃれなバーのような空間がそこにあった。

少しすると店のカウンターで仕事をしている小柄なエルフ耳の女性が寄ってくる。中学生ほどの彼女はショートヘアを髪留めで留めており、碧眼が外国人っぽさを醸し出している。気になることはと言えば、首筋から胸にかけて傷が見える。

申し訳ないが痛そうなのはヌけない。


「い、いらっしゃいませ。人類族の方ですか?」

「はい。特に何をするつもりもありません。安心してください。」

「かしこまりました。少々お待ちください。」


と言って厨房らしき場所に入っていった。

やはりこの見た目はどうにかするべきなのだろうか。コスプレなどができれば第一印象は悪くはならないのだろうが。

しかし、あの人もエルフさんだ。少し耳が短かったが、個体差はあるのだろう。もしかしたらハーフエルフかもしれない。種族の壁を越えた恋愛、したいと思いませんか?


「いらっしゃい。」


と声を掛けられる。振り返るとそこには893がいた。

強面の顔には斜めに傷が入り、右足は一本の木を使った義足になっている。

年は50近そうだ。


「こ、こんばんは。部屋と食事をお願いしたいのですが。1人分で結構です。」

「まあ、気を揉むな。同じ人類族だ。」


人類族の方だ。同族と話せるのはうれしいね。


「失礼しました。同じ人類族の方と話せてうれしいです。」

「なに。ただの老いぼれだぞ。これも昔無茶しちまった。」


と言って右足をみる。これ回復魔法で治せるんじゃない?

忘れていた。リンネさんの紹介と伝えよう。


「このお店はリーネさんから教えていただきました。落ち着いていていいお店ですね。」

「兄さん、リーネのやつに気に入られてんのか。すげえな。」


リンネさん万能説。というか本名はリーネなのだろうか。ステータスを確認するべきだった。


「リーネさんというのは本名なのですかね?」

「あ?リーネとしか聞いたこたぁねぇな。」

「そうなのですね。」


本名わからず。リンネは偽名か?まあいい。また確かめよう。

すると893さんは口を開く。


「まあいい。こっち座んな。」


とカウンターに案内される。お酒でもいただこうか。もう夕刻なのだ。少し飲みたい。


「はい。失礼します。」


と言って腰掛ける。


「何かお酒をいただけませんか?」

「あいよ。エールでいいな。」


893さんはそう言ってエールを出してくれた。飲めないことはないが、得意ではない。


「ありがとうございます。」


と喉に流し込む。自分のペースで飲めるお酒は格別だ。


「いい飲みっぷりだ。おれはダース。兄さんは?」

「三条と申します。」


兄さんといわれるが相手はかなり年上に見える。なんか不思議だ。


「へぇ。で、どうしてここに?」

「レーデオロ大雨林にて遭難していました。そこをリーネさんに助けていただきました。」

「変な偶然もあるんだな。」


そういうとダースさんは少々真面目な顔になって続けた。


「で、この街を見てどう思った?」


この国か、楽園に見えると答えてもいいのだが。


「そうですね、多くの種族が共存しているのは非常に魅力的に見えます。自分にないものを許容することは非常に難しいことです。それが実現しているのは素晴らしいことだと思います。」


とオタクは早口で述べる。


「はは、そうかい。そういう考えを持った人類族は少ねえ。」

「そうなのですか?私としては人類族として、彼らのような特徴が無いのが悲しいですよ。先ほどの女性、彼女はおそらくエルフでしょうか?あの美しさが羨ましいです。」


ここぞという時にヨイショしておこう。


「はっはー、兄さん。異種族はいける口か。おーい!サラ、よかったな!」


いける口であります。いえいえ、そればっかりの口であります。

そうダースさんが笑うと、サラと呼ばれた女性は顔を少々赤くして反論する。


「ダースさん!やめてください!サンジョーさんが困ってるじゃないですか!」


プンプンとダースさんに怒る姿が何とも可愛らしいね。


「はは、冗談だよ。」


ダースさんは俺に向き直って聞く。


「兄さん、この国にはいつまでいるんだ?」

「しばらくはここで滞在したいと思います。町の人たちから何かとされないならば、

この国で家を持ちたいとは考えています。」

「そりゃよかった。サラには良くしてやってくれ。こいつには親がいないんだ。」

「娘さんではないのですか?」

「ちげぇよ。身寄りのないところを俺が引き取ってここで働いてもらってるんだ。手は足りてるんだがな。何しろ客がいねぇ、はは。」


ダースさん、乾いた笑いが出てるぞ。


「そ、そうなんですね。…こちらこそ、仲良くしていただきたく思います。」


とエールをあおる。もう空だ。そろそろ部屋でくつろぎたい。


「そろそろお部屋の方をお願いしてもいいですか?今日は動き疲れてしまいました。」

「おっといけねえ。すまねえな、ついつい聞くことが多くなっちまった。うちの宿は信用で成り立っててね。」


と言ってダースさんはサラさんに案内するようにと言った。

この国については俺がどんな奴か聞きたくて話したのだろう。変な返答をしなくてよかった。

それから俺は料金を3日分払い、サラさんに案内されて二階の宿へと向かった。

角部屋をいただけたようだ。お礼を言っておこう。


「案内ありがとうございます。これからよろしくお願いしますね。」

と童貞は笑顔で礼を言う。引き攣ってないだろうか。

「いえ!これからよろしくお願いします!」


サラさんはそう返してくれた。

元気でいい子じゃないか。



               *



 サラさんに案内された後、荷物を降ろしてくつろぐ。

部屋に着くと服の中からもぞもぞと蜘蛛さんが出てくる。非常に頭のいい子だ。よし、干し肉をあげよう。


 さて、現状確認だ。

場所はプレウラ王国、時間は夜。

必要物資の買い込みは完了。後必要なことと言えば冒険者ギルドへの顔出しと入国料の納入だ。日中の買い込みで手持ちのお金が減ってしまった。商業ギルドでお金をおろしてから動こう。

今日はたくさんの人と出会うことが出来た。鍛冶屋の二人とこの宿の二人。この縁は大切にしよう。

そして今日痛感したことは二つ。一つ目は、思っていたよりも人類族に対する風当たりが強いこと。二つ目は、リーネさんの顔が思っていたよりも広いということだ。有名な人なのだろう、何かのグループのトップと考えてもいいかもしれない。

この二つに関しては調査する必要がありそうだ。


現在のステータスの確認をしておこう。



名前 【 タケル・サンジョウ 】

性別 【 雄 】

種族:種族値 【 人類 】:【 28 】

職業 【 放浪者 】

LV 【 35 】

HP   130 / 130

MP   4000/ 4000

可動性 【 5500 】

筋力  【 6500 】

耐久性 【 400 】

知性  【 6000 】

運   【 35 】

技量  【 5000 】

啓蒙  【 8 】



レベルが5も上がっている。

HPと耐久の上昇は著しく少ないが、全体的に攻撃系統がアップしている。

あ、啓蒙が7上がっている。この数値は一体何だろうか。

スキルも何か上げておこう。

明日は冒険者ギルドに向かうのだ。カツアゲや喧嘩などに巻き込まれる可能性もある。ナメられない様にしよう。


死神の抱擁 :LV,1

       HPが全体の100分の一の時、ステータスに強力な補正がかかる。

       即死の攻撃を受けた際にMPか精神力を消費してHP1で耐える。

炎輝魔法  :LV,3               

     炎熱魔法の初級、中級の習得。(殺傷性) 

   輝属性魔法の習得(非殺傷)

言語使用  :LV,1

     一般流通言語を理解、発音できる。  

回復魔法  :LV,1

     生物の損傷や状態異常を癒す。


未使用SP: 7


死神の抱擁が進化している。ほぼ死ねなくなってしまった。

簡単には殺さないという気持ちが嬉しい限りだが、俺の精神状況は考えてくれないようだ。

死ぬ気はさらさら無いが、精神衛生上よろしくない。

悪く考えるよりもポジティブに考えよう。簡単には死ななくなったのだ。少々無茶ができそうだ。


さて、剣も買ったのだから手先の技術が欲しい。手刀で戦えないことは無いだろうが、技術は欲しい。神様―、剣術はスキルに含まれますか?



死神の抱擁 :LV,1

     【HPが全体の100分の一の時、ステータスに強力な補正がかかる。】

     【即死の攻撃を受けた際にMPか精神力を消費してHP1で耐える。】

炎輝魔法  :LV,3               

   【炎熱魔法の初級、中級の習得。(殺傷性)】 

   【輝属性魔法の習得(非殺傷)】  

回復魔法  :LV,1

   【生物の損傷や状態異常を癒す。】

言語使用  :LV,1

   【一般流通言語を理解、発音できる。】  

忍の誓い  :LV3

   【隠密行動の効果上昇。】

   【剣術の初級、中級の習得。】


未使用SP: 4



含まれるそうだ。が、思ってたんとちゃう。忍者になりましょう。

先ほどの邪神の寵愛効果の成長も鑑みて回復魔法も進化しておきたい。



死神の抱擁 :LV,1

     【HPが全体の100分の一の時、ステータスに強力な補正がかかる。】

     【即死の攻撃を受けた際にMPか精神力を消費してHP1で耐える。】

炎輝魔法  :LV,3               

   【炎熱魔法の初級、中級の習得。(殺傷性)】 

   【輝属性魔法の習得(非殺傷)】  

回復魔法  :LV,3

   【生物の損傷や状態異常を癒す。】

   【上記効果の回復速度上昇と抵抗力上昇。】

忍の誓い  :LV3

   【隠密行動の効果上昇。】

   【剣術の初級、中級の習得。】


未使用SP: 1


アップグレードした。

詳細から覗くと抵抗力は、状態異常ダメージの一部軽減だそうだ。痛覚保護はいただけない。

こんな感じでいいだろう。思っていた感じとは少し違うが。

 ステータス更新を終え、蜘蛛さんへと視線を戻す。干し肉を食べ終え、腹を上にして完全に寝ていらっしゃる。何とも愛らしい。軽く頭らしき部分を撫で、俺も就寝の準備をする。


体をふき、市場で売っていたブラシで口を磨いて就寝だ。

今日も疲れた。良い睡眠がとれるだろう。


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