第11話 来客Ⅰ




次の日の昼前、サラさんがうちに到着した。

荷物は思っていたものよりも少ない。


「どうもっ。おはようございます。」

「おはようございます。荷物を運ばせてしまってすみません。」

「いえ!自分の荷物ですし。」


と言って家の中に入ってきた。

新しい家族だ。

あ、言っててめちゃくちゃ幸福感に包まれる。

前世の家族のような事態には絶対にさせない。


童貞は家の中を簡単に案内し、彼女の部屋に案内する。1階右奥の部屋だ。


「部屋はこちらを使ってください。変な配慮などはいりませんので、必要な家具などがありましたら言ってくださいね。」

「あ、え、はい!ありがとうございます!」


と言って彼女は部屋に入っていった。

俺はリビングに戻り、ソファに座った。

あ、この家にも和室が欲しいな。靴を脱いで畳でゴロゴロとするのは日本人の特権だ。

風呂も浴槽が欲しいな、と考えていると上から蜘蛛さんが降ってきた。

昨日から全然姿を見せなかったのに。いきなりだ。

頭の上に着地した蜘蛛さんはサラさんをみて、威嚇している。

そしてなぜか俺の頭皮をダイレクトアタック。

やめてやめて、禿げちゃう。若禿げはいやなのぉ!


サラさんが荷物の整理を終えて戻ってきた。


「簡単に家のことについて決めましょうか。掃除の当番や食事についてですね。」

「当番とかはいりませんよ!家事は私がやります!」


ええ、俺も何かしないと。家の掃除は心の掃除だ。


「では、食事はお任せしてもいいですか?恥ずかしながら、この国の食文化についてかなり疎いのです。掃除は私がやりたいことなので、当番制で譲れませんよ。」

「えー。わかりました。じゃあサンジョーさんには時々やってもらいますね!」


時々て、じゃあお願いしちゃおう。


「わかりました。気が向いたときにやりますね。」


簡単な打ち合わせを終えて食事をとることになった。

サラさんが作ってくれる。その姿を姑のような目線で蜘蛛さんが眺めている。

あまり新人をいびるんじゃありませんわよ。

食材は来る途中でサラさんが買っていたらしい。完璧だな、後でお金を渡しておこう。

昼食が完成してテーブルにつく。

パンにスープ、サラダなどの日本の朝食に近い。朝食と昼食の間、ブランチといった感じだろう。


「いただきます。」


食べてみると美味しい。

日本の一般的な食事に比べていくらか味が濃い。嫌になるほどではないが、そのうち慣れるだろう。

蜘蛛さんにはサラダと味付けされたお肉が出されている。

始めの方はあまり手を付けていなかったが、一口お肉にかぶりつくとそのままの勢いで食べていた。

あ、サラダ残してるな。だめだぞ。


「アトラさん、サラダも食べないとだめですよ。好き嫌いはいけません。」


というと、えー。みたいな動作で食べ始めた。うん。えらい。

そこでサラさんが口を開く。


「サンジョーさんはアトラさんの言葉がわかるんですか?お母さんみたいですね。」

「いえ、大体の雰囲気で判断しています。意思は伝わってくるので。」

「そうなんですねー。」


蜘蛛さんはサラさんのご飯が気に入った様子。とてもうれしい限りだ。

それから昼食の片付けをして休んでいると来客。

ノックが鳴る。

サラさんは洗濯物をしてくださっている。俺が出ましょう。


「どなたですか?」


と扉を開けるとそこにはメス堕ちショタ王子がいた。

王宮で見た時とは違って庶民的な服装だ。それも女性もの。


「お、おうっ…。」

「こ、こんにちは。」

「…。」

「…本日はどのようなご用件で?」

「…セキニン…。」

「はい?」

「責任!取ってもらう!」


メス堕ちさせた責任で騎士は嫌です。



その後、ショタ姫を家の中に通した。スズリさんも一緒だ。

サラさんがお茶を出してくれた。


「ど、どうぞ!」

「う、うむ。」


と返すショタ姫に対してスズリさんは涼しい顔でお礼を言っている。

ショタはサラさんをちらりと見た後、こちらに目を向けて一言。


「その、女性は誰なんだ?…いや、誰ですか?」


口調が不安定だ。


「こちらはサラさんです。縁あって、私の無知を治すためにこちらで世話をしていただいております。」

「ど、どうも。」

とサラさんは頭を下げる。それに対してスズリさんとショタ姫は自己紹介を返す。

無知を治すために世話していただくって要介護じゃないか。まあいい。


「さて、責任というのはどうすればよいのでしょうか。申し訳ありませんが、先日の緊急指令の際は殿下の種族の特性は把握しておりませんでした。ですので私の軽率な行動がこの結果を生んだとは理解しております。」

「だ、だったら!私の騎士に!」

「ですが、私は人類族であるとともに卑しい身でございます。騎士というものがどのようなものかも理解していない私では勤まることとは思えません。」

「そ、それは…。」


ここでスズリさんに向かって聞く。


「スズリさん。騎士というものは何ですか?」

「はい、騎士というものは殿下の懐刀という立場が一番わかりやすいと思います。警護から身の回りの世話までを行うものです。エメリー様は女性になりましたので、騎士の方が旦那様になる可能性も出てきます。命を任せるとはそういうものだと、宮廷内では認識を持っています。」


やばい、これはロイヤルファミリー参加の可能性が出てきた。

でも童貞の呪いがあるから無理。


「ふむ、それならば私は尚更騎士にはなれませんね。」

「な、なんでっ…ですか?」

「私にはとある使命があります。それを終え、然る場所に行かなければ、伴侶を持てません。それを破ってしまうと、私という存在が終わる呪いがかかっています。」

「そ、そんな…。べ、別に騎士じゃなくてもいいんだ!ただ傍に…。」


おう、愛されてるわ、俺。

ごめんな、邪神たちと神様が仲直りできないと俺は生涯童貞なんだ。

俺にとってそれは大いなる呪いだ。


うん、でもそうだよな。俺も言ったもんな。


「ですが、私は殿下をお守りするといいました。それを騎士という形ではなく、友人という立場で貫く所存です。お許しいただけませんか?」

「……。」


しばしの沈黙。

ショタ姫が口を開く。


「わかった!じゃあ私がその使命を手伝う!」

「い、良いのですか?」


一国の王族が手伝ってくれるのならうれしい。

百人力どころではない。


「でも!終わったらおr、いや、私のそばにいてもらう!」

「え…」

「別に騎士になれとは言わない。私も王族としての地位はいらない。庶民になってもいいからサンジョーのそばに居させてくれ。」

「……。」


目の前のショタ姫が随分と大人びて見える。なんで。

覚悟をした顔だ。


「わかりました。終わったその時、殿下の気持ちが変わらないのなら、お答えしましょう。」


覚悟には覚悟で返すしかない。

スズリさんを見て一言。


「スズリさん、このような形になりましたが、大丈夫でしょうか?」

「はい。私はエメリー様のされることを成します。」

「わかりました。私の使命に関して、話しましょう。」


俺の使命、それを話した。

大いなる存在と、魔王との話し合いの場を作る、というものだ。


「魔王…ですか。」


と、スズリさんは答えた。


「何かご存じですか?」

「はい。魔王は3人いたとされています。国を統治していました。ですが…。」

「どうしました?」

「そのうちの一つはおおよそ400年前に、人類族によって滅ぼされたそうです。」


え…。

人類族、やらかしまくりじゃん。

魔王潰したんかお前ら…。


「それは…、なかなか…。」

「人類族が皆から嫌われるようになったのはその頃からです。他種族を迫害し、滅ぼした魔王の国にて軍事国家を築いています。」


そこでリサさんが言う。


「サンジョーさんはそんな人じゃないです…。」


ありがとう、嬉しいです。

それに対してスズリさんは慌てた様子で答える。


「そ、それは存じています。そのように思っていませんよ!」

「そ、そうだぞ!」


ショタ姫が空気ですよ。

まとめると、邪神は3人いて、その一人は滅ぼされた。人類族に。

滅ぼした国で新しい国を作っていると。


「ほかの魔王は?」

「それはよくわかりません。240年前くらいから姿を消したそうです。」

「そうですか…。まだ時間はあります。ゆっくりと探すべきでしょう。」


それから軽く今後のことについて話した。

ショタ姫がスズリさんと共に王宮で動いてくれるそうだ。なんでもちょうどいい場所があるとか。


そしてショタ姫が帰る。


「では、お気をつけてお帰り下さい。」

「ああ!…あとっ」


と言って抱きついてきた。やめて、マイソンがstand upしちゃう。

ショタ姫は顔をぐりぐりと腹に押し付け、言った。


「…別の女のにおいがするぞ?」

「え…。身に覚えがないのですが…。」

「まあいい。…俺を転還させたんだ。逃がさないからな!」

「…はい。」

「じゃあな!」


というと離れ、そのまま帰っていった。

別の女はいませんよ。この世界に来てからボッチでしたから。

そこでサラさんから一言。


「別の女性がいるんですか?」

「はは…。恥ずかしながらこの世界で私に好意を持ってくれたのは殿下が初めてですよ。」

「…ふーん。」


言ってて悲しい。メス堕ちショタが初めて好意を持ってくれた人なんてな…。

変態みたいじゃないか。





次の日、朝食後。

蜘蛛さんの過ごしている場所を発見できた。リビングの梁の上だ。

時々飛び降りてきて、顔に張り付いてくる。

今日もだ。


「わぶっ。…アトラさん、顔はやめてくださいって…。」


蜘蛛さんはカサカサと下りてきて、ソファに座る俺の膝の上に移動。

動作に愛らしさがあるのがいいね。


「困りました。魔王さんたちの居場所が分からないんですよ。」


と言ってみる。蜘蛛さんはそれに対して「んー?」みたいな動作。

分かんないよね。


さて、どうしよう。少しぼーっとする。

台所から皿を洗う音が聞こえてくる。懐かしい感じだ。

昔は俺の母さんがそこにいた。でも今は年下の女の子だ。

興奮する。…いや、家族だ。

次は無くさない。



と、その瞬間、家の扉が大きく開かれた。


「おい!サンジョー!」


いつぞやの職質兵士さんだ。前、たばこを一緒に吸った仲だ。

ゼエゼエと息が荒い。走ってきたのだろう。


「お前の知り合いに竜種はいるか?」

「知り合い…というほどではないですか、会ったことはあります。」

「本当か!急いで王宮前の広場に来い!」

「は、はい。」


まったく何事か。

兵士さんと急いで王宮に向かう。今度は蜘蛛さんと一緒だ。




向かった先、王宮前の広間に到着した。

大勢の兵士が集まりその中心にはワイバーンがいた。

前の行き倒れとは違って真っ赤だ。

職質兵士に聞く。


「あれは?」

「わからん。急にきてお前を出せと言ってきた。入国料も払ってないらしい。」

「それはいけませんね。」


真っ赤ワイバーンに向かって歩く。まったく、最近は来客が多い。

ワイバーンに向き合って話す。

ちょっと高圧的に怒った感じで。


「私が三条です。どうされました?」

「オマエガ、サンジョーカ。」


声がでかい。


「はい。どうされました?」

「オレトトモニ、リュウオウコクニコイ。」

「今ですか?」

「ウム。」

「それはできません。」

「ナゼダ。」

「貴方、入国料払ってないそうじゃないですか。それを払ってからです。」

「エ、ア、ウム。」


お、おい、そんなビビるなよ…。

身体を小さくしてもらおう。できたら。


「ひとまずその巨体はどうにかなりませんか?」

「チイサクナレト?」

「はい。皆さん驚いています。見方によっては侵略行為です。理解していらっしゃいますか?」

「ス、スマナイ。」


そう言うとワイバーンは一瞬で人型になった。どういう構造だよ。

話が通じてよかった。

人型になったワイバーンは男だった。筋肉が素晴らしい赤髪のイケメンだった。


「ありがとうございます。では、入国料を払いに行きましょう。」

「う、うむ。」


二人で入国手続きに向かった。

宮廷前の広間に集まった兵士たちはあっけにとられて、二人のやり取りを見ていた。


「お金はお持ちですか?」

「この国の金貨は持ってない。」

「私が払っておきますね。」

「うむ。助かる。」


持ってないのかよ。これくらい払ってあげよう。




入国料を払い、二人で話す。

向かう先は我が家だ。後の処理は任せろと、兵士さんに言っておいた。

最悪この竜種は俺が始末する、と暗に伝えたつもりだ。


「竜王国への招待でしたね。どうされたんですか?」

「我らの末妹が世話になったと、そう聞いた。」

「妹さんですか?お名前を聞いても?」

「ああ。ヴィルヘルミーナ・ドラゴンロードだ。」


あ、行き倒れドラゴンか。

瀕死だったしな…。


「ああ、その方なら瀕死でしたので…。かわいそうだなと。」

「あいつは色々と運が悪い。」


てことはこの人、竜王族か。

ちょっと拝見しますよ。


Status

名前 【 アルバート・サバスン・ドラゴンロード 】

性別 【 雄 】

種族:種族値 【 竜王族 】:【 270 】

職業 【 苦労人 】

LV 【 50 】



あ、行き倒れドラゴンのお兄ちゃんだ。

しかも職業が苦労人とは…。ちょっと同情。


すぐに家についた。


「こちらが私の家です。詳しい話は中で聞きましょう。」

「うむ。失礼する。」


家の扉を開くと同時に出てきたのはサラさん。


「だ、大丈夫でしたか!」

「はい。大丈夫ですよ。」

「あ、あの!来客です!」

「え、誰ですか?」

「リーネさんです。」

「え…。」


と聞いて室内を見る

リビングのテーブルについて、お茶を飲む彼女。

第一異世界人との再会。


来客が多すぎる。

カオスだよぅ。








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