第10話 プレウラ王国Ⅵ
国王陛下直々の呼び出しで童貞は兵士の方と王宮へと向かう。
商業区画をまっすぐ上り、貴族区を抜けたその先、一つ門を抜けた先にその城はあった。
えらく高い塔が連なっている。現代技術と建築技術が伴っていないように思えるほどの高さだ。
身体検査と注意事項を伝えられて入城する。従魔は警備の関係上、別所にて待機とのこと。
ひどく長い廊下を超えた先の謁見の間へと通された。
ちょっと大ごと過ぎませんかね。
国王らしき人物は広間の最奥にて玉座に座り、その手前に貴族の方々がいらっしゃった。
このような場での作法は知らない。それらしい行動を心がけよう。
国王の眼前にて跪く。すると一声。
「面を上げよ。」
との合図で顔を上げる。
少し先の国王様と目が合う。
ショタ王子のおじい様だろうか、蒼い角が生えた金髪イケオジだ。
「そなたがサンジョーか。先の緊急指令では武勇を上げたと聞いたぞ。」
あれ、こういう時は許されるまで話したらダメなんだっけ?
そこで司会らしき方が口を開く。
「サンジョー殿、国王陛下は寛大なお方である。冒険者とはいえ歓談を望まれていらっしゃる。口を開くことに許可は必要ない。」
歓談…、無礼講だぞーっていうやつか。信じていいのかね。
「はっ。三条と申します。このような場にて謁見をさせて頂くのはこの身に余る光栄でございます。」
「ふむ、であるか。」
ちょっと不満げ。
無礼講って言ったじゃん、と言った上司の顔と重なる。
陛下は続けた。
「我が孫、エメリーがそなたに命を助けられたと言っていた。それは本当か?」
「いえ。私は魔法にて回復を行ったにすぎません。殿下の類まれな忍耐力がその結果を生んだものと愚考します。」
おおっと貴族様から声が上がる。
あいつらが擁立派か。まったく、ショタ王子に迷惑掛けやがって。
ショタ王子をヨイショ!権力闘争の一つの力になれるのならしておこう。
「ふむ。その言葉、信じようぞ。…して、サンジョー。そなたは今回の功績にて何を望む?」
変に名誉や権力はもらいたくない。下賤なこの身には金貨がお似合いだ。
「はっ。卑しくも金銭を頂きたく申し上げます。何分私は人類族。地位等の高貴なものには不釣り合いであります。」
司会役の人がほっとした顔をしている。貴族方も同様。変に増長しなくてよかった。
陛下が告げる。
「よかろう。後ほど十分な額を用意させよう。」
そして場を締めくくる。
「これにて謁見を終…」
そこで聞いたことがある声。
「ちょっと待ってくれ!」
一人の人物が貴族を押しのけ前に出る。
んー、良くない流れ。
その声を発したのはショタ王子。王族風の礼装をまとっている。
ショタ王子が吠える。
「おじい様。そ、その、サンジョーを私の騎士にしたい!」
会場がどよめく。
やめてよショタ王子。権力とかは嫌なのです。騎士はちょっと荷が重いのでご勘弁を。
陛下も眉にしわを寄せている。
ここは辞退しましょうかね。これが一番丸く収まりそうだ。
「殿下、皆様も驚いていらっしゃいます。私は卑しい身であります。その大役は務まりません。」
ここで好機と、司会役の方、宰相さんかな?の援護射撃。
「エメリー殿下、陛下もサンジョー殿も困っていらっしゃいます。なぜ騎士に向かえようとなさるのですか?」
「そ、それは!こ、このサンジョーは強い!竜種の呪い憑きを救い、技者さえも屠った!」
ショタ王子はオーバーな身振りで武勇を語ってくれる。
嬉しいね。でもね、それじゃ理由としては弱いと思うよ。
そこで宰相さんも反論。
「それは大変すばらしいことでございます。しかし、サンジョー殿だけではなくこの国の騎士団には有望な騎士は多くおります。その者らは家柄も約束されております。サンジョー殿にこだわったことでは無いでありましょう。」
「い、いや。それは…そうだが…。」
ショタ王子が劣勢だ。かわいそうだが決まらないだろうね。
陛下が言う。
「少々場が荒れてしまったようであるな。この件は後日あr…」
「せ、責任がある!!」
ショタ、目上の人の言葉に被せたらだめだよ。
陛下は不思議そうな目でショタを見る。
「責任…とな。」
「は、はいおじい様。サンジョーはおr…私を守るとそう誓いました!何よりも…」
ショタは少々息を吸い、意を決したように告げた。
「お、私はその雄姿にて転還しました!」
ショタ王子のその言葉を受けて会場は荒れた。
擁立派さんは慌て、陛下は冷や汗を流し、顔が引きつっている。
それをまったく呑み込めてない童貞が一匹。
ぽけーっと周りを見回す。
何があったんです?
そこで陛下が手を挙げ、それを見た周りは静まった。そして告げた。
「その言葉、まことであるか。」
「はい。おじい様。」
キリッと返すショタ王子。
「ふむ。相分かった。この件は後日協議とする。この場はこれにて終えるものとする。」
その声で終わり、兵士に連れられて自宅へと帰ることになった。
報酬は後日自宅に届けられるとか。
まったく訳が分からない。
*
家に帰った俺。
蜘蛛さんと帰ってきた俺は何があったかを話してみた。話してみるのは精神にいい。
話すと蜘蛛さんは俺の顔に張り付き、鼻をチクチクと刺し、家のどこかへと消えた。
なんだよ。わからん。
先日買ったばかりのソファに座り、考える。
ひとまずは褒賞として金銭的なものがもらえるそうだ。
でも最悪の場合、ショタ王子の騎士になる可能性が浮上。
そこから先は未定。もし成ったとしたら権力闘争に巻き込まれる可能性がある。
そうなると異種族文化交流冒険譚の終わりが見える。
いっそのこと姿を隠すか…。いや、そうすると知り合いに迷惑がかかるかもしれない。特にリンネさん。この国での交流の根幹には彼女がいる。恩を仇で返すようなことはできない。
後、夜逃げはイメージが最悪。まるで彼女を孕ませて逃げようとするクズ男だ。
うーん。ロッドに相談するか…。彼しか頼れない。同志だしな。
ソファから立ち上がり、魔道冷蔵庫にて冷やしておいた水を一杯飲む。
気分が少しはよくなった。
出かけようとドアの前に立った時、外からノックされた。
開けるとそこにはサラさん。あどけない笑顔が体に染み渡る。
「サンジョーさん!こんにちは。お出かけでしたか?」
「はい。冒険者ギルドの方に向かおうと考えておりました。何か御用でしたか?」
「はい!宿の方が暇だったので、何かお手伝いできることがないかと、来ました!」
ああ゛~。癒されるんじゃぁ。メイドとして家に欲しい。そのままうちに永久就職しもらうけどな。
「そうでしたか。ありがとうございます。冒険者ギルドに向かった後に露店を回ろうと考えています。一緒にどうですか?」
せっかく来ていただいたのだ。そのまま帰ってもらうのは申し訳ない。軽くご馳走しよう。
「は、はい!行きたいです!行きましょう!」
サラさんと二人で冒険者ギルドに向かった。
もはや見慣れた冒険者ギルドの入口。そこを開いて入る。
お、いたいた。こいつらいつもここにいるな。
ロッドもこちらに気づいた様子。
「おお、サンジョーさん!横の女の子は彼女かい?」
「はは、緑人の風の娘さんですよ。彼女だったらよかったのですがね。」
とお互いに冗談を交わして握手。
「あ、え、う…」
とサラさんは顔を赤くしている。
不快にさせたかな。好感度が上がるようなことはできてない。勘違いさんにはならないんだ。
「ロッドさんに少し聞きたいことがありまして。時間は大丈夫ですか?」
「ああ!褒賞がもらえて飲んだくれてるだけだからな!大丈夫だぜ!」
良い奴だ。さて、本題だ。
「先ほど王宮に呼び出されまして、そこでの話で分からないことがあったので、お聞きしたいのです。」
「サンジョーさん、そりゃほんとか!?王宮に行くようなことになるなんてな…。で?何が聞きたいんだ?」
「はい。先日の緊急指令での報酬を貰えることにはなったのですが、第三位継承者のエメリー殿下、彼の騎士になってほしいとエメリー殿下よりお願いされました。」
「はあ!?なんでだよ?」
「強さが認められた…とのことですが、私が彼を転還…?させてしまったとかで。できれば権力とは無縁の場所にいたいのです。」
その言葉にロッドとサラさんの二人が食いついた。
「お、おい!なんて言った!転還だと!?…これは面白くなってきたな!」
「ちょ、ちょっとサンジョーさん!どういうことですか!?」
どうもこうもこっちは分からないんだよ。
「私も何が何だか分かっておりません。そもそも転還とは何ですか?」
ロッドは足を組み直し、顔を近づけて行った。
「転還ってのはな、この国の王族の種族に見られる特異な体質だ。この国の王族の種族は碧牛種。生物名で言うならウミウシ。あんたはその王族の第三王子の男の子を、女の子にしちまったってことだ。」
…は?男の娘ってことか?
「そ、それはどういうことでしょう?私は何もしていないのですが。」
「碧牛種は第一次性徴期と第二次性徴期で性別が変わるんだ。第二次性徴期で確定された性別はその後変わらない。要するにいうと、あんたは先の国王候補を一人、女の子にして引きずり落としたんだ。」
ポカンとする童貞。それを見ながら続ける。
「エメリー殿下は第二次性徴期の最中だ。そこであんたがあいつを惚れさせちまったってことだな。まあ、自分の命を削りながら助けたんだ。子供には英雄に見えるだろうよ。」
「…。」
少し考えよう。
まず、王族はウミウシ。ウミウシってあのナメクジみたいな海の宝石だよな。で、性転換って…。あ、あれか。軟体動物の持つ雌雄同体っていう性質か。
あれのおかげで俺はショタ王子をメス堕ちさせたってことだろう。
ふたなりショタ王子がおじさんに惚れてメス堕ちって属性過多だろう。
理解はできた。でも聞いておかないといけないことがある。
「あの、その転還した王族というのは、アレが両方ついているのですか?…私は男色の気はありません。」
「そりゃあ大丈夫だと思うぜ。そんな話は聞いたことがない。少しすれば正真正銘女の子の出来上がりだ。」
「そ、そうですか…。」
ふたなりエンドは回避したようだ。でも、騎士はしたくないなぁ。
普通の女の子に愛されたい。こんな歪な愛は重過ぎる。
貴方のために性別も変えたのよ!とか重すぎだろ。
黙って考えているとサラさんが一言。
「…サンジョーさん。」
「…はい。」
「サンジョーさんの家で住まわせてもらってもいいですか?」
変に唐突ですね。
「…理由を窺っても?」
「サンジョーさんは軽率すぎます!このままじゃ、そのうち王族に喧嘩を売りかねません!だから私が常識と健康を保証します!」
「…。」
さっきメイドに欲しいとか思ってたけどね、さすがにうら若き乙女と家で二人はきつくないか?
助けてロッド。
「非常に嬉しい提案ですが、家ではあまり仕事はありませんよ?」
「いいんです!私がしたいからするんです!」
うへぇ。こんなセリフ言われたかった。
ロッドに視線を向ける。どう思う?みたいな感じで。
「いいんじゃねぇか?嬢ちゃんがいいんだったら。でも、男と一つ屋根の下だ。何されても知らねぇぞ?」
ロッドの冗談がサラさんに向かう。
「いいです!別に!」
とサラさんが告げると観衆がおお~と声を上げる。
良くないんだよ。俺には神様印の貞操帯が付けられている。生殺しなんだよ?
「まあ、ダースさんに相談してからということで…。」
その後いろいろと話したと思うが、頭に入ってこなかった。
ショタ王子をメス堕ちさせた後に別の女の子から住み込みの提案。
頭を抱えて冒険者ギルドを後にした。
リサさんと露店を回って行きついた先は緑人の風。
会話は少し少ない。俺のやらかしたことが響いていると思う。
でもリサさんは楽しそう。明るさに救われる。
緑人の風に入ってテーブルにつく。
さっそくダースさんがやってくる。
「おう、兄さん。どうしたんだい?リサも一緒か。」
「はい。リサさんより私の新居にて働きたいとの要望を頂いたので、ダースさんに確
認に参りました。」
その言葉を聞いてダースさんは、ははーん…と俺とリサさんを交互に見る。
「ああ、了解だ。働くっていうのじゃなくて同棲って認識でいいんだろ?」
「え、そうなのですか?」
確かにリサさんは働くとは言っていなかった。
リサさんを見ると目が合う。
「はあ…。住まわせてくださいって言ったじゃないですか。」
「あ、はい。了承しました。」
気圧される。必至だ。とてもお人よしさんだな、全く。
それから王宮での出来事を話した。それを聞いてダースさんは爆笑。
「兄さん、あんたも大変なことをしでかしたな。王族を転還させるなんてな。」
「このような結果になるとは思わず…。随分とやらかしてしまったようです。」
「ははっ。あんたは異種族がいける口だったろ?嫁にもらったらいいじゃねえか。」
「よくないですよ。権力などは身に余ります。」
「ははっ、兄さんはそういうやつだったな。
と露店で買ったものを広げて話し合った。
その後はサラさんのことに関して話した。明日から家に来るそうだ。
今日はひとまず家に帰って、彼女の部屋を用意しておこう。
俺はこれからどうなるんだろう。
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