第12話 来客Ⅱ


竜王族のお兄さんと竜の国に行こうとしたらリンネさんと再会。


「ど、どうも…リンネさん。」

「うん。」

「本日はどのようなご用件で?」


大変お世話になった方だ。無下にしたくはないが、いかんせん時期が悪い。

ここで竜王国に行かないと最悪、国同士の関係が悪化しかねない。


「借りを返してもらいに来た。」

「お返ししたいのですが、急用でして、すぐに竜王国に向かわないといけません。」

「…そう。」


と、彼女はまっすぐこちらを見る。

ごめんなさい。ちょっと待ってて。


「すぐに帰ってきますので、お待ちいただけますか?」

「わかった。この家で待ってもいい?」

「え、あ、はい。大丈夫です。」


ここで待つの?いいけどさ。

アルバートさんに言う。


「えっと…、どれくらいで帰ってこれそうですか?」

「俺はアルバートだ。他人行儀なのはやめろ。」

「呪いのようなものでして。」

「そうか。…たぶん明日には帰ってこれるだろう。」

「そうですか。ありがとうございます。」


サラさんに告げる。


「サラさん、明日には帰ってきます。それまでリンネさんのお世話をお願いします。」

「はい!わかりました。待ってますね!」


よし、じゃあ行って来よう。

リンネさんちょっと待っててね。


「アルバートさん、行きましょう。」

「話は道中でいいのか?」

「はい。」


竜王国に向かうことになった。




現在地はプレウラ王国から北西。山脈地帯の手前だ。

アルバートの背中に乗せてもらっての移動だ。


「今回の主な内容は何ですか?」

「今回は一方的なこちらからの感謝を伝えることだと俺は思う。親父は感謝だとか、そういうのを重視する。」

「わかりました。」


風で口の中を乾燥させながら、山脈の上空を飛ぶ。

蜘蛛さんが吹き飛ばされないように服の中に入れておいた。

乳首に触れるのはやめてください。

寒いから炎熱魔法を使って温めた。今度飛行魔法も習得できるか試しておこう。


竜王国…。ドラゴン娘がいるかなっ。卵生の神秘を拝みたい。行為までじっくりと拝みたい。




移動時間は半日ほどだった。

辺りは夕方。

大きな崖の上に立った城がそれだろう。

崖の下には町が広がっている。下を見てみると、爬虫類の見た目をした人が多く見える。

その最も上位に位置するのが竜王族だという。


特に検査などをされることもなく、王城のエントランスへと着いた。


「もうしばらくしたら呼ばれるはずだ。後はそいつの言うことを聞いておけばいいだろう。」


と言ってナーガと思われる女性を指して言う。


「ありがとうございます。お待ちしています。」


と、アルバートさんはどこかに消えた。

ナーガさんにはこの国の礼儀などを聞いた。特に異質な部分はなかった。普通にしていればいいだろう。

そして分かったのは、この国の服装は露出が多いということ。

目の前のナーガさんに関しては乳バンドだ。この国に訪れるのは今回が最後になることは無いだろう。

しばらくちらり、ちらりと双丘を見続けて、待っていると移動が始まった。


大きな扉の前で止まり、入室となった。

大きな部屋の奥に見えるのは7人。

その中央に座っているのが2人。奥で玉座に座っている人と、その前で正座をさせられている人物。

残りの5人は周りで立っている。その中にアルバートさんが見える。


玉座の一歩手前まで歩き、手前に跪く。


「三条でございます。お呼びと聞きまして、参上いたしました。」


ちょっと駄洒落っぽい。

すると玉座に座わった白髪の老人が答える。


「おぬしがサンジョーかの。儂が竜王、クラウスである。」

「はっ。」

「今回は我が子、その末妹が世話になったの。」

「いえ。成り行きでございます。」


と、答えると竜王様は俺のとなり、正座させられた人に目を向けた。

あれ、横の人正座したまま寝てない?


「おい、ミーナ。ミーナ!聞いているのか?」

「は!はい!ごめん!」

「ごめん~?ごめんなさいじゃろ!」

「ごめんなさい!」


ペシリと頭をたたかれた彼女はミーナと呼ばれていた。

あれ、行き倒れドラゴンじゃね?

すごくアットホームな王室だ。


「えっと、彼女が?」

「うむ。おぬしが助けた我が娘、ヴィルヘルミーナじゃ。」


へえ、と彼女を見てみる。

頭を押さえて正座している。

銀髪の髪を短くカットしている。ワイシャツのような服に収まりきっていない胸がすごい。

アルバートのようなすらりとした尻尾ではなく、太めの尻尾は途中で切れている。

行き倒れドラゴンがこちらを見て言う。


「あ、少年?助けてくれてありがとー。助かったよ~。」

「あ゛?ありがとう?」

「ありがとうございます!」


また竜王様に怒られている。

大体わかった。この人は色々とダメな人だ。

色々と察した俺を見て、竜王様は言った。


「わかったじゃろう?ミーナは色々と残念な子なのじゃ。」

「あ、…ハイ。」

「これでも可愛い娘じゃ。助けてくれたお礼をしたいのじゃよ。」


竜王様を見てミーナさんは笑顔で、


「えへへ、可愛い娘でしょ?」

「あ?」


竜王様、血圧上がっちゃうよ。

ミーナさん、少し黙っていた方がいいよ。


「はあ…で、サンジョーよ、おぬし何か欲しいものなどはあるかの?おぬしが望むなら盛大に、この国を挙げてもてなそうぞ。」

「あ、いえ。今は家にて恩人を待たせております。すぐに帰らないといけません。」

「そうか…。」


しょんぼりしている。いいおじいさんだな。


「ですが、またいつかこの国に来たいと考えております。その際に連絡できるようなものを頂けますか?」

「ほう!いいのう。ちょっと待っておれ。」


と言って竜王様は指パッチン。何もなかったところからこぶし大の魔水晶を出した。


「ほれ。これをやろう。」

「これは?」

「儂と直接話せる魔石じゃ。魔力を込めると簡単に使えるぞ。」


まさかの竜王様との直通電話をゲット。


「いいのですか?」

「よいよい。気が向いたら使ってほしいのう。これでおぬしは儂の友達じゃ。」

「良いのですか?私は人類族ですよ?」

「ナーガに対して熱い視線を向ける人類族が言うのかの?」

「……。」


どこから見てたんだよ。


「恩人のために竜王のもてなしを断る男じゃ。悪い奴ではなかろう。」

「そう言って頂けて光栄です。」

「うむ。…あ、あとこれも。」

「はい?」


袋を投げ渡される。キャッチ。

中を見ると宝石が沢山。


「こんな、いただけませんよ。」

「よいよい。これは気持ちじゃ。」

「いや、でも…。」

「じゃああれじゃ、また今度お願いがあったら頼むからそれの前払いじゃ。」

「…わかりました。」


気前の良すぎる竜王様に負けてしまった。

と、ここでミーナさんがこちらを向いた。


「少年、少年はナーガが好きなの?」

「…いえ。種族というものは、人としての違いだと考えています。魅力的な人に種族は関係ありません。」

「へー。まあ、あれだよ少年、ありがとねぇ?」

「あ、はい。」


胸が見えるから視線のやり場に困る。

その光景を見て呆れる竜王様。この人も大変そう。


「今日はもう遅い。泊まっていきなさい。」

「ありがとうございます。」

「よい。城下を見て回るといい。おい、ミーナ。」


呼ばれてビクッとミーナさん。


「案内してやれ。夕食でも食べてくるといいじゃろう。」

「はい!行ってきます!」


と言って部屋の奥のベランダに連れていかれる。


「少年、ここに立って。」

「あ、はい。」

「どーん!」

「え、ちょ!」


崖上の城から押された。紐無しバンジーだ。

これ死ぬやつ。持久戦には強いけど、落下死は即死と相場が決まっている。




童貞を押したあと、ミーナは竜王に投げかける。


「じゃ!いってきまーす!」

「はぁ…はよいけ。」

「はーい!」


ミーナも外に飛び出す。そこで腕の翼を展開した。

今日は楽しくなりそうだと、そう彼女は思った。




「ああああああああああああああああああ」


行き倒れドラゴンに押されて絶賛落下中の童貞。

紐無しバンジーで異世界終了って糞過ぎな件について。

と、思っていると腹部に違和感。


見返すとミーナさんに足で腹部をがっしりホールドされていた。彼女は腕の翼を展開し、落下を減速させていた。

だいしゅきホールドされてる感じが何とも嬉しい。

いや、待って、めっちゃ痛い。これ腹が千切れる。


「ミーナさん!い、痛いです!」

「あ、ごめんね少年!」


緩めてくださった。大きな子供って感じだ。

ミーナさんが下を見て童貞に話しかける。


「少年―!下、綺麗でしょー!」

「え?」


と、城下町を見る。蜘蛛さんも頭の上で城下町を見ている。

町は石造りの建造物であふれ、迷路のようになっている。夕日が沈みかけたその町は、窓から溢れる暖色の彩に染まっていた。

とても、綺麗だ。



「綺麗ですねー!」

「でしょー?」


と、眺めながら落下した。




落下が終わり、地面に着地。ふわりと優しく降ろしてもらった。


「はあ、飛ぶなら飛ぶと言ってくださいよ。」

「あは、ごめーん。」


地面に着いて気付いたが、彼女は結構な美人さんだ。

背は俺よりも少し高い。リンネさんほどではないが、俺を少しだけ見下げるかたちだ。

前の世界だとモデルでやっていけそうな容姿。

お姉さんの色香に惑わされた童貞は正常な判断を行えなくなるという。

でも、目の前のお姉さんは大きな子供だ。その心配はない。

たぶん。


「じゃー、行こっか。」

「はい。」


ミーナさんに手を引かれて夜の街に繰り出す。

そういう行動はダメ。童貞、勘違いしちゃう。


それからは屋台で買った串やスパイスの効いたパンを食べ歩きした。

そして飲み屋さんに寄って飲むことにした。

お店の女性マスターにミーナさんが挨拶すると、挨拶が返る。知り合いのようだ。


「ミーナ、あんたが男連れなんてどうしたんだい?」

「いやー、この前さ、命助けてもらっちゃった。はは」

「へぇ。幸の薄いあんたがねぇ…」


こちらと目が合う。


「お兄さん、名前は?」

「三条です。」

「サンジョーさんね?人類族?」

「はい。あ、エールをお願いします。」


ミーナさんが会話に入ってきた。


「少年はね、人類族なんだけど、他種族が好きなんだってー。」

「そりゃあ、珍しいね。ミーナにもついに運が向いてきたんじゃない?」

「あは、どうだろうね。」


楽しそうだ。


「あいよ、エールね。お兄さん珍しいね。ミーナは大体、人付き合いがうまくいかないんだよ。呪いらしいけどね。」

「マスターはどうしてうまく付き合えてるんですか?」

「そりゃあ、呪いって知ってるからね。何かあってもミーナを信じることにしてる。」

「素晴らしいと思います。」

「あんたも仲良くしてやってよ。」

「そうですね。」


酒の肴を頼み、今回のミーナさんの不運について聞いた。


「あれ?呪い憑きになったやつ?」

「はい。」

「寝てたー。」

「え?」

「ついつい日差しが気持ちよくてねぇ、カリーユ平原の手前で寝てたらザックリ切られちゃった。あはは。」

「あははじゃないでしょうに…。」

「でも助かったからよかったよー?」


このお姉さんはホントに残念な人だ。


「まったく、気を付けてくださいよ…。」


そこからは他愛のない会話をした。

少年は何歳なの?とか、家族はいるの?など。親も彼女もいないというと、笑って、ごめんーと言っていた。

蜘蛛さんもこの味付けの食事が珍しいみたいで、うきうきで食べている。

酒も進み、いい気分になってくると横でいびきが聞こえてくる。

案内する側が泥酔ってどうなんだよ。


「マスター!お勘定をお願いします。」

「あいよ。これねー。」


伝票を渡される。ここは俺が支払おう。

この国の貨幣は持っていなかったから、もらった宝石の一番小さいのをあげた。

人類族を入れてくれたお礼と言って、無理やり受け取ってもらった。

ミーナさんを担いで店を出る。


「ごちそうさまです。」

「はーい!お兄さん、ミーナをよろしくね。」

「はい。仲良くしますよ。」


そんなやり取りを終えて、店を出た。そろそろ眠くなってきた。

そこで気付く。どうやって戻ろう。


竜王ダイレクトコールセンターをこんなに早く使うことになるとは。

竜王様に話すと、アルバートを行かせると返答があった。

アルバートさんも苦労人だ。


王城に戻り、部屋に案内されるとベッドで泥のように眠った。

あれ、ミーナさんの泥酔を回復魔法で治せばよかった?

……。アルバートさんごめん。




次の日、起きて自室を出るとミーナさんが正座をしていた。


「少年、ごめんね?」

「いいです。お酒は楽しむものですよ。アルバートさんにお礼を言っておいてくださいね。」


酒は飲んでも呑まれるな。とはよく言ったものだと思う。

部屋を出たら女の子が正座しているって状況が、征服感があってとても股間に悪いね。


そこから二人で朝食を食べ、アルバートさんに送ってもらうことになった。

竜王様に挨拶をして、ベランダで待機。

アルバートさんとミーナさんも一緒だ。


「少年、また会おうねー。」

「そうですね。どこかでまた縁があるでしょう。」


と、握手。


「アルバートさん、お願いします。」

「ウム。」


竜化したアルバートさんに乗って帰宅。

山脈の風に乗って王国に帰った。

追い風もあってか、帰りは気持ち早くの帰宅となった。




アルバートさんの背中から降りる。

人目もあってか、すぐに人の姿に変化した。服、どうなってるの?


「アルバートさん、ありがとうございます。」

「うむ。」

「次はきちんと入国してくださいね。」


と、童貞は冗談を言う。

それに対してアルバートさんは真面目な顔だ。そして言う。


「サンジョー。ミーナとは仲良くしてやってくれ。」

「あ、はい。仲良くさせて頂きたいと思います。」

「うむ。有難い。」


そしてアルバートさんは続けた。


「お前の家にいたあの娘、リンネといったか、あれと一緒にいてお前は大丈夫なのか?」

「……?ええ。特に何も。お世話にはなりましたが。」

「そうか。…すまない、ではな。」


と言ってアルバートさんは帰っていった。


昨日と今日とで刺激的な体験ができた。

さて、俺も家に帰りましょうかね。可愛いリンネさんが待っているのだ。

帰る途中に竜王様にお礼を言っておいた。無事につきましたよと。

アルバートさんに十分な休暇をあげてほしい。




家に到着し、扉を開く。


「帰りました。」

「あ、お帰りなさい!早かったですね!」


サラさんが出迎えてくれた。時刻は昼前。

ちょうど昼食の用意をしていたのだろう。


「すぐにお昼の用意をしますね!」

「ありがとうございます。リンネさんは?」

「そちらです。」


目を移すとソファにリンネさんが座ってこちらをじっと見つめている。

目が合って少したつと、表情が曇った。


「楽しかった?」

「ええ、まあ、楽しかったですね。食べたことのない料理を食べることが出来ました。」

「…そう。」


待たせて少し怒らせたのだろうか。ごめんねリンネさん。


「リンネさんにはとてもお世話になりました。お礼に関しては昼食の時に話しましょう。」

「わかった。」


そう話した時、リサさんからできましたよーと聞こえる。


「準備しましょうか。」

「うん。」


と言って立ち上がる。大雨林で来ていたあのレインコートを脱ぐと、下の服が露わになる。

ベルトパンクな黒の服で体のラインがまるわかりだ。

服の上からでもわかる。とても良い体をしていらっしゃる。

胸を締め付けている感じが最高だと思う。


「……。」

「すみません。珍しい服装なもので。」


見ているとリンネさんにジト目で見られた。HPが回復する音がする。

リンネさんってめっちゃ目を見てくるんだよね。童貞には少々レベルが高い。


そこから3人で準備をして、朝食となった。

期を図ったように上から蜘蛛さんが降りてきた。

いただきます。と心の中で言う。

この習慣は日本だけらしいからね。


「で、リンネさん。私は何かリンネさんのお手伝いができますか?」

「…うん。」


この国にいることが出来ているのはリンネさんのおかげだ。なんでも手伝いましょう。

なんでも。


「この町で暮らそうと思う。」

「それはいいですね。バードックさんに頼んで家を探しましょう。私も手伝います。」

「そうじゃない。」

「?それは…どういう…。」

「貴方の家で一緒に居たい。」

「……はい?」「え?」


俺とサラさんの声が重なって、静寂がこの家を包んだ。


蜘蛛さんが俺の顔に飛びつく用意をしている。そんな場合じゃないよ。



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