第23話 産業都市ヒューニア
ベッドから落とされて目が覚める。
ベッドの上を見ると、ミーナさんが大の字で寝ている。寝相悪すぎ。
彼女の柔らかそうな胸が形を変えて転び出そうになっている。ノーブラだ。
ニタア…。
はあ。恥じらいが無いのも困りものだな。
そんなミーナさんを置いて一階に降りる。
彼女に挨拶をし、お茶を貰って一息つく。
その後、サラさんがリンネさんとミーナさんを起こしに行って、全員が起床となった。
俺の部屋で起床したミーナさんが、
「ついにやっちゃった?少年!子供の名前は何がいいー?」
などと言っていたが、軽くあしらっておいた。
こんな日常もあと少し。王都での生活を噛みしめておこう。
それから数日、王都内で多方面に対して動いた。商会、サイウスさんの屋敷など、多くの場所で様々な手配を行った。
社畜時代を思い出す奔走に少し懐かしくなった。
ついにクラフト伯の領地に向かうことになった。
挨拶回りを終えて、馬車に乗ってクラフト領に向かう。
向かうは王都の南西。クラフト領の北西部は竜王国の国境につながっているという。
竜王様と仲良くなっておいてよかった。
家の皆は遅れての到着だ。
その道中もクラフト伯と打ち合わせを行い、他愛のない話にも花が咲いた。
ついにクラフト領に入った。
遠くには町が見える。あそこがこれから俺の暮らす街だ。
ここまでの道中では畑や小さな町があり、新たな生活に向けた希望に胸が高鳴る。
クラフト領の中心街、産業都市ヒューニアに入った。
中の建築物は王都のそれとあまり変わらない。変わって見えるのは王都よりも人類族がちらほらと見えること。そしてガス灯なども見えることだ。
近代革命時代の技術がファンタジー世界に溶け込んだ街並みだ。
クラフト伯曰く、領地の主要産業は魔法と科学の融合による第二次産業と、農地を活用した新鮮な食材による第一次産業。
第三次産業も町の中で行っているのと見える、バランスのいい領地に見える。
でも裏を返せばそれは、すべてが中途半端になりやすいということ。
この場所で俺が出来るのは、科学の促進などだろうか。
土いじりもいいかもしれない。魔法関係の研究もできるかもしれないと、胸が高鳴る。
街路を超えてついに俺の屋敷にやってきた。住宅街と商業区の中間ほどに広い敷地を使ってそれは建ててもらえたようだ。
初めに執務室を見たときは驚いた。広いんだよ。もう少し狭くてもいいのよ?と日本人は思う。
クラフト伯曰く、この先、領地経営を行う必要があるだろうが、それまではここでクラフト伯のサポートをすること。だそうだ。
サポートのためにこの屋敷をもらえることには、裏で王国貴族見守り隊の動きがあったのだと、そう結論を付けた。
荷下ろしを手伝おうとすると、サイウスさんの部下であろう、執事の人たちに止められた。
粘って、自分の物くらいは自分ですると通すと、折れてくれた。
上の人が現場に行くのはあまり良くないのだが、俺の心は平民で居たい。友人のように扱ってもらえるように頑張ろう。
サラさん達の宿泊用の建物も出来上がっていた。みんな喜ぶぞ。
次の日、サラさん達が到着。
サンジョー男爵の屋敷を紹介。
サラさんが開口一番驚きを表す。
「おお、すごいですね。」
「ですね。今後はこちらで執務を行います。」
「へぇ…。」
ミーナさんは乗り物酔いでダウン。リンネさんはポケーっとしている。
可愛い。
「さあ、皆さんの家もご用意させてもらっています。こちらですよ。」
と童貞は彼女を案内しようとする。
サラさんが疑問。
「え?私たちはこちらで住まないんですか?」
「え?あ、ああ。そうですね。」
「あ、はい…。」
リンネさん、行きますよ。
と思って見ると、静かに一言。
「こうなると思ってた。」
そうですか。貴方には叶いません。
サラさんにはメイドさんになってもらうので、この屋敷にはよく来ることになるだろう。
リンネさん達にも遊びに来てほしい。
それを聞いたミーナさんが言い出した。
「えー?私、少年と住みたい~!」
「あ、そうですか?安全面などから、サラさん達女性の住める建物を用意してもらったのですが。」
「えー?私は少年の部屋がいいな。」
「それはダメです。」
俺の心が持ちません。
出来れば俺もみんなと一緒にいたいんだけど、どうしよう。
ここはサイウスさんに相談してみようかな。
「クラフト伯に相談してきます。」
「あ、はい。」「あーい。」「うん。」
そう彼女たちに告げてその場を後にする。
執事の人に彼女たちに屋敷の中を案内するようにお願いしておいた。
クラフトさんはすぐに見つかった。商人さんと外で立ち話をしていた。
この人も随分寛容な人のようだ。
話が終わるのを建物の陰で待って、話しかける。
「少しいいですか?」
「ああ、サンジョー男爵。良いですよ。」
「先ほど私の知り合い達が到着しました。そこで聞きたいのですが、彼女らを屋敷に住まわせても大丈夫ですか?」
「ええ。良いんじゃないでしょうか?」
「いいのですか?」
「ええ。私の読みではそれほど使うことにはならないと踏んでいます。」
「そ、それは…。」
「勘ですよ。執務は私の屋敷でも出来ますし、居住区とでも考えていいのではないですか?」
「ですが、居住用の建物はすでに…。」
「ああ、あれに関しては大丈夫ですよ。私の屋敷の使用人の寮にも出来ますし、サンジョー男爵の使用人に使わせてもいいでしょう。何より…。」
そこで言葉を切って、サイウスさんは笑顔で言う。
「サンジョー男爵のお陰で私に対して、たくさんの貴族の皆様から寄付が集まっています。今後を見越してね。」
「あ…そうですか。」
王国貴族が孫にお年玉をあげるおじいちゃん達になっている。これはそのうちエメリーがうちに来ると踏んでおいた方がいいだろう。
「分かりました。ありがとうございます。」
「いえ。男爵、今後は忙しくなると思います。頑張ってください。」
サイウスさんにいろいろと言われたが予測がつかない童貞。
まあ、何とか頑張ろうではないか。
サイウスさんのOKももらえたことだし、みんなに伝えよう。
屋敷に戻ると、エントランスホールでサラさんとご対面。リンネさんもすぐそばに居る。
「クラフト伯から了承を頂けました。こちらで住みましょう。」
「本当ですか!?よかったです!」
そうサラさんは言った。彼女は使用人の方と仲良くなったようで、ベテランメイドのおばちゃんがニコニコしている。
そんなおばちゃんに会釈。すると彼女は深々と礼をする。
そんなに畏まらないでよ。
「よかったね。」
「そうですね。部屋を決めてしまいましょう。」
「うん。」
そんな会話をリンネさんと交わしていると、エントランスの二階からミーナさんの声。
「少年~!私、この先の大きい部屋がいい!」
と、尻尾をぷりぷり振りながら興奮している。
「だめですよ。そこは私の部屋です。」
「ええー?じゃあ一緒に住もうよ!」
「その横ならいいですよ。」
「ちぇー。少年のいけず!」
いけずってなんだよ。
でも、彼女がすぐ横に住んでいるのは嬉しい。目が届く。
その後、リンネさんとサラさんも部屋を決めた。
リンネさんは角部屋をご所望。蜘蛛さんと一緒に過ごすらしい。サラさんはメイドとして働くことをサイウスさんにお願いしていたこともあって、動きやすい部屋をベテランメイドさんに提案されていた。
仲良くしているのはいいことだ。
俺はその後、彼女たちの転居の手伝いを使用人さん達にお願いして、屋敷を出た。
関係各所への挨拶だ。
俺的に行きたかったのは、この家を建ててくれた皆様のところと、バードック商会。
この街にもバードック商会の支部があるらしく、挨拶をしておいた。
急ピッチで屋敷を建ててくれた皆様にお礼と、先ほど購入したお酒を差し入れ。
ドワーフのおっさんたちは、ガハハと笑いながら受け取ってくれた。サイクロプスの皆さん達にも好感触だった。
夜はクラフト伯の屋敷で歓迎パーティーに参加。
王都でのパーティーでルッコラを食べることのできなかった童貞は、ついにこのサラダを食べることが出来た。みずみずしいながらも繊維の主張の少ないそれは、俺の思っていた通りのものだった。
やはり野菜はおいしい。やっと食べれた。
自室に帰りくつろいでいると、部屋のドアの上部、その壁に穴が唐突に空いた。
びっくりして固まっていると、そこから蜘蛛さんが入ってきた。
蜘蛛さん専用のドアが開通したようだ。俺のプライベート、どこ?
こんな感じでヒューニアの初日は慌ただしく終わった。
ヒューニアの生活が始まった数日。
本格的に男爵としての勉強が始まった。
「おはようございます。サンジョーさん。」
「おはようございます。」
リサさんのその一言から始まる朝は格別だ。俺の息子のポジションに気を付けながら彼女に挨拶をする。俺のベッドルームは執務室のすぐ横。部屋の片づけはお願いしているが、出来るだけ散らかさないようにしている。
彼女が食事を持って来てくれるが、一人の食事は寂しい。
リンネさん達も呼んで俺の部屋で食べるようにしている。
肝心の勉強はと言えば、俺の執務室にサイウスさんの部下が来て、先生のように教えてくれる。
回りの国との関係、経済の動向、礼儀なども教えて戴いている。
最近はプレウラ王国と竜王国も関係が良くなっているらしい。
基本的に領地の経営というのは俺一人では行えない。多くの人から情報を得て、対策や領地の整備など、そこに関しての決定を行うのだ。
先生曰く、
「我々が居れば基本的に生活を悪化させるようなことはさせません。男爵の仕事はそれを決定し、市井の顔となることです。それには責任があることもお忘れなく。」
だそうだ。
基本的にスパルタ形式で行われるその勉強は、前の世界の政治や失敗を知っている俺からすれば難しいものではなかったが、この肩に人の命が乗ると考えると、自然と真剣に取り組んだ。
時折、ミーナさんが邪魔しに来たり、夜にリンネさんと蜘蛛さんが一緒にやってきて、静かに会話などをすることもある。
最近はあまり一緒に入れないこともあってか、リンネさんのスキンシップが増えた気がする。先日なんか、膝枕までしてもらった。
ロッド達も先日クラフト領に到着した。
うちの従業員寮に住んでもらっている。
ロッドはここでドワーフの工房で働いているらしく、建築作業を手伝っている姿を見かけた。時々一緒にお酒を飲んで、近況の報告や奥さんの惚気話を聞かされたりなどしている。
奥さん達はと言えば、時々うちの厨房にいるのを見かける。なんでも、料理の腕を上げたいらしく、ベテランメイドさんに弟子入りしていた。
時々冒険者として依頼をこなしているそうだ。生活が安定しているようで、見ている俺も嬉しい。子供の報告があるのもすぐだろう。へへ、がんばれよ。ロッド。
そんな生活を一か月ほど続け、サラさんはしっかりとしたメイドとして成長し、俺の判断力に対して及第点を貰えるようになった頃、イベントが発生した。
サイウスさんに呼ばれた。
この一か月は邪神様に関しての情報を探したが、成果は無し。
サイウスさんにも相談しているが、進展はないとのこと。
彼の屋敷に向かい、執務室に通された。
「どうも、サンジョー男爵。勉強の方はどうですか?」
「そうですね。何とか様になってきたといったところでしょう。」
「男爵の話は聞いていますよ。先日は議会制について言及していたと聞きました。サンジョーさんは故郷では平民ではなかったのでは?」
そう言って朗らかに笑うサイウスさん。変に物覚えがいい童貞は不思議だろうね。
異世界の人類の歴史を義務教育で学んでおりました。
「そんなことはありません。無駄なことを考え続けた結果ですよ。」
「それが繋がっているのです。誇るべきですよ。」
と、そこで言葉を止めて、サイウスさんは形式ばったようなそんな姿勢になって言う。
「サンジョー男爵、貴方の成長を先日陛下に報告致しました。そうしましたら、陛下より貴方への召喚命令を受けました。」
「ふむ。分かりました。」
「行ってくれますね?」
「ええ。謹んで参上します。」
「ありがとうございます。」
その言葉を聞いて、姿勢を緩めたサイウスさん。
「では、明日の出発としましょう。今日はゆっくりとお寛ぎください。」
「はい。ありがとうございます。」
久しぶりの王都への帰還が決まった。
前回のようなことは無いと思うが、ステータス更新をしておきたい。
夕食を終えて、サラさん達と会話をして、自室に帰ってきた。
最近はサラさん達がよく一緒にいるのを見かける。
彼女たちの仲も深くなっているようだ。
ベッドに腰かけ、ステータスオープン。
Status
名前 【 タケル・サンジョウ 】
性別 【 雄 】
種族:種族値 【 人類 】:【 28 】
職業 【 男爵 】
LV 【 62 】
HP 410 / 410
MP 8200/ 8200
可動性 【 8500 】
筋力 【 9500 】
耐久性 【 1200 】
知性 【 8000 】
運 【 25 】
技量 【 8000 】
啓蒙 【 67 】
Skill
死神の抱擁 :LV,1
【HPが全体の100分の一の時、ステータスに強力な補正がかかる。】
【即死の攻撃を受けた際にMPか精神力を消費してHP1で耐える。】
炎輝魔法 :LV,3
【炎熱魔法の初級、中級の習得。(殺傷性)】
【輝属性魔法の習得(非殺傷)】
回復魔法 :LV,3
【生物の損傷や状態異常を癒す。】
【上記効果の回復速度上昇と抵抗力上昇。】
忍の誓い :LV3
【隠密行動の効果上昇。】
【剣術の初級、中級の習得。】
風雷魔法 :LV,3
【風魔法の初級、中級の習得。(殺傷性)】
【雷魔法の初級の習得。(殺傷性)】
未使用SP: 21
おお、かなり上がっている。
啓蒙が異常な成長を遂げている。
一般的な人達には負けることが無くなってきている気がする。耐久以外は。
ハパロ事変からモンスターと戦うことは無かったが、SPが溜まっている。戦闘以外でも経験値が溜まるのだろう。最近は勉強を頑張ってたからな。
前の世界と違って、努力が見えるものとしてあるのは嬉しい。
拝啓、妹様。お兄ちゃんは人を逸脱しかけています。
さて、前々から考えていた欲しいスキルが二つ。
どちらも移動系のスキルだ。
飛行とダッシュ。
可動性と筋力が一万に近づいてきた。それに伴ってもっと早さと移動性能を上げておきたい。
飛行魔法があれば王都とヒューニアの移動が楽になる。ダッシュも伸びれば戦闘で遅れは取らない。当たらなければどうということは無い。と言える。
よし、スキル~こい!いい感じでよろしくお願いします。
Skill
死神の抱擁 :LV,1
【HPが全体の100分の一の時、ステータスに強力な補正がかかる。】
【即死の攻撃を受けた際にMPか精神力を消費してHP1で耐える。】
炎輝魔法 :LV,3
【炎熱魔法の初級、中級の習得。(殺傷性)】
【輝属性魔法の習得(非殺傷)】
回復魔法 :LV,3
【生物の損傷や状態異常を癒す。】
【上記効果の回復速度上昇と抵抗力上昇。】
忍の誓い :LV3
【隠密行動の効果上昇。】
【剣術の初級、中級の習得。】
風雷魔法 :LV,3
【風魔法の初級、中級の習得。(殺傷性)】
【雷魔法の初級の習得。(殺傷性)】
飛行魔法 :LV,4 NEW!
【飛行魔法の習得。レベルに応じて熟練度、効率の上昇。】
神速の脚 :LV,3 NEW!
【縮地の習得。移動速度とスタミナ消費の軽減。】
未使用SP: 14
よし、思っていた通りのものだ。
縮地まで使えるらしい。縮地ってあれでしょ、短距離の瞬間移動。
飛行に関しては風魔法の併用で速度がまだ上がるかもしれない。
神速の脚を使えば、NINJAみたいな移動が出来そうだ。これは期待だな。
今のところ、回復魔法に困ったことは無いが、一応上げておきたい。
目の前で友人が死ぬのは見たくない。
回復魔法 :LV,5 UP!
【生物の損傷や状態異常を癒す。アンデット有効。】
【上記効果の回復速度上昇と抵抗力上昇、痛覚の緩和。】
未使用SP: 12
おおお、痛覚の軽減がきた!
呪印で痛覚倍加がかかっている現状、これはめちゃくちゃ嬉しい。
タンスの角に小指をぶつけただけで伊の内容物を吐き出したくなる。サラさんにその現場を見られたときはひどく心配させた。
アンデットに対しても有効だそうだ。
アンデッドは黒海にいるそうだから、現状は使わないかな。
とりあえずこれくらいあれば安泰だろう。
バードックさんのところに宝石を卸していこう。彼にはヒューニアの支部でもお世話になっている。大きいのを卸そう。
明日は普通に陛下と話せたらいいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます