第3話 レーデオロ大雨林Ⅱ



新しい朝が来た。希望の朝だ。希望の朝にしてはひどく湿気ている。


時間はわからない。おそらく朝の9時くらいだろうか。


 まずは食料を探しながら、見渡しのいい場所を探そう。周りが見えなくては進む方角も定まらない。異世界遭難日記などをしたためることにはなりたくないからな。


出発から30分ほどだろうか。彷徨った先でイベント発生。

初のモンスターだ。


カエル様のご登場だ。

10メートル程度先の場所の草むらから、はみ出すようにそこにいる。


 山の斜面のせいか、こちらよりも少々高い位置にいる。

大きさは俺よりも大きい。色合いはトノサマガエルのそれをしており特徴はといえばツノガエルが痩せた感じだ。

 目立つのは目の造形とその体のフォルムだろうか、空気力学に沿ったような滑らかなフォルムだ。目は歪に光って見える。なんだあれは。

カエル肉は鶏肉のようでおいしいと聞く。ステータスを確認して、問題なければいただいてしまおう。


カエルさん、ステータス失礼します。


Status

名前 【 ジャスティン 】

性別 【 雄 】

種族:種族値 【 レーデオロトード・希少種 】:【 60 】

職業 【 無職 】

LV 【 58 】

HP   3982/4030

MP   27/30 

可動性 【 10000 】

筋力  【 1020 】

耐久性 【 810 】

知性  【 1200 】

運   【 60 】

技量  【 3000 】

啓蒙  【 0 】


特性


404Not found



うん。

レベルは俺よりも高い。しかも希少種だそうだ。

可動特化で命中精度が高いとなると、ヒット&アウェイのつっつきタイプかな?


特性は見つからないそうだ。


やけに低いMPから魔法関係はないと思える。頭は少し良いのだろうか。

これはいけるのか?


などと凝視して悩んでいるとレーデオロトードがブレた。

気が付くと先ほどの位置からこちらに5メートルほど近づいた位置でこちらを見ている。


目の前のカエルが速すぎる件について。

可動の数値が5000も違うとこのように見えるのか。

逃げることができる気がしない。


レーデオロトードは目をカメレオンのようにぐるぐると動かし、こちらを見ている。

耐久性は低い。一発KOを狙うか。

武器はない。作っておくべきだった。拳で抵抗するべきだろう。よし。


ジャケットを脱いで近くの枝に掛けておく。

その場から飛びだし、レーデオロトードに向かって走る。

技量と筋力は高いんだ。手刀で刺突攻撃だ。

狙うは首元、脊椎付近だ。


「ふっ!」


力を入れて突き刺した手刀は、空を切った。

へ?


それは後ろに飛び跳ね、それと同時に舌を使って俺の胴を巻き取る。

後ろへの急激なGを覚える。

次の瞬間には目の前が真っ暗だった。



               *


丸呑みかぁ~。

ネトネトとしたひどく粘度の高い液体に包まれている。

一応は生きている。舌による巻き取りのおかげか、負傷はほとんどない。

HPの確認をしておくべきか。


HP   90/120


少々減ってるな。

いや、あの衝撃で30も削られたのだ。もっと気を付けなければ。

簡単にヒールを済ませる。


この液体は何だろう。もしかして毒などを含んだものだったりするのだろうか。

いや、このネトネト感には覚えがある。ローションだ。買ってから幾度もお世話になったオナホに注入していた記憶がある。

丸呑みとはそうそうある体験ではないだろう。今を噛みしめて生きる。大切なことだ。


外から衝撃を感じる。カエル様が移動を始めたのだろう。

にしては揺れを大きく感じるが跳ねるからそういうものなのだろうか。

外から微かに高音が聞こえる。

他の生き物から威嚇でもされているのだろう。まあいい。


まずは脱出だな。

うんうん。などと頷いていると右肩あたりにチクチクとした感覚がある。

「ん?」

ふと振り返ると小さな蜘蛛さんがツンツンとつついていた。

体には細かい毛はなく、白い体で足は先が尖ったシャープなフォルム。

頭部と腹部が丸みを帯びているのがチャーミングだ。


こんにちは。貴方も飲み込まれたんですね。

後から来たので俺が後輩だ。


「出ましょうか。」


などと言ってみる。

不思議と敬語になってしまった。


体内からなら攻撃はどこでも当たるだろう。

さっきは外したのだ。必中の手刀をお見舞いしてやろう。

狙うは脳味噌。多分ここらへん。


「よし。 ふんっっ!」


当たった。というより貫通した。

手がすっぽりと通るくらいの穴が開いて、外の光が入ってきた。

無理矢理こじ開けて出てしまおう。


ブチブチブチッ

と鈍い音がしてレーデオロトードの頭部が裂ける。ドロドロと血液が跳ね、周りに飛び散る。外に出ることができた。シャバの空気はおいしい。

足元にはレーデオロトードの死骸がある。中々グロテスクな光景だ。


などと感じていると体中から痛みが込み上げてきた。

これまでに感じたことのない痛みだ。

炎の中に投げ込まれたかのような、そんな激痛だ。


急いで体を確認する。

皮膚はグズグズに形を変え、零れ落ちそうになっていた。

非常に痛い。目にも入ったのか左目が見えない。


HP   1 / 120


まずいまずい。早速瀕死効果が発動してしまった。

早急にヒールだ。

急いで数回ヒールを行うが、左手が溶け落ちるのには間に合わなかった。

痛い。とにかく痛い。

残った左肩あたりに力を込め、無理矢理ヒールを行ってみる。


ミヂミヂと音を上げて腕が生えてきた。骨が再生された後に筋肉、皮膚といった順番で内側から治っていった。


成長痛なんてものは遠い過去の思い出だが、それを思い出すような痛みがある。

何とか一命は取り留めた。危なかった気がする。


服はいつの間にか溶けてしまった。結構気に入ってたんだけどな。

残ったのは革靴のみ。

これでは野生の露出狂が出来上がりだ。

長靴をはいた猫ならぬ、革靴をはいたマゾの誕生である。


こんな密林の中でならまだいいが、人里に行くときはどう説明したものか。

追剥ぎにあったと説明すればいいだろう。裸族の村などがあれば迎え入れてくれるかもしれない。

ポジティブに生きないと気が持たない。


ふと足元を見ると先ほどの蜘蛛さんが前の脚1本を上げてフリフリと体を揺らしてこちらを見ている。

かわいい。


それにしても、先ほどのローション風呂に浸かった同輩にしては元気でいらっしゃる。

種族的な耐性でもあるのだろうか。蜘蛛は毒に強いと相場が決まっている。

まあいい。たぶん友好的に接してくれているのだろう。


全裸になってしまったが、このカエルを解体してしまおう。

解体には簡単なナイフが必要になる。

この環境で入手可能なものとしては石器の類になるだろうか。日本でも縄文時代や弥生時代で使われていたものを参考にしよう。


近場で使えそうな石を探す。

蜘蛛さんが後ろからトコトコと追いかけてきてくれる。

ソシャゲでよく見る追従型のサポートアバターみたいだ。

かわいい。


黒っぽい石を見つけ、それを砕いた。


「ほっ。」

数回失敗してしまったが、手のひら大の円形の簡易刃物の完成だ。


美味しそうなのは足。

引き締まった肉質が鶏肉のそれに近ければ口にも合うだろう

順調に解体をできたとは思うが、骨に身が沢山残ってしまった。

これもまた要練習だろう。


ここで新たな発見。

レーデオロトードの目が異常に固い。しかもカメレオンのようだと観察した目は、多層構造の地層のように芯となる球体を分厚めの幕が覆っている。

いかにも希少そうだし、取っておくべきだろう。ちょっとグロイけど。

傷つけないように、卵を割らないような力加減で肉を取り除く。


胃袋は意外にも小さく、コンビニ袋ほどの大きさだった。伸縮性がやばそう。

中には先ほど痛い目を見た腐食性ローションがたっぷりと詰まっている。

どこかで使えるかもしれない。食道の上下を固く結んで持ち運ぼう。


さすがにお腹が減ってきた。

こちらに来てから食べたものと言えばフルーツだけで、OLの昼食かと突っ込まれそうなものだ。


今手に入った肉はできれば過熱したい。寄生虫がいたなら苦しむのは自分だ。

蜘蛛さんはたぶん生でも大丈夫だろう。

と思い、小さめに切った肉をあげてみると、足を数本使って上手に受け取ってくれた。

口に持ち運び、もちもちと食べ始める。

餌付けは完璧だ。


過熱のためには火が必要だ。ライターを使ってもいいが、せっかくスキルの中に炎熱魔法があったのだ。使う機会だろう。

今の戦闘でSPが手に入っていればいいのだが。



Skill


死神の抱擁 :LV,1

HPが全体の100分の一の時、ステータスに強力な補正がかかる。

炎熱魔法  :LV,0

回復魔法  :LV,1

生物の損傷や状態異常を癒す


未使用SP: 10



よし。10も頂いたみたいだ。

とりあえず炎熱魔法は3くらいまで上げておこう。どこかで役立つはずだ。

人の歴史は火と共に進化してきたのだから。


うーん、レベルよ上がれ!と念じてみる。

どうだ?


Skill


死神の抱擁 :LV,1

HPが全体の100分の一の時、ステータスに強力な補正がかかる。

炎輝魔法  :LV,3             UP!

炎熱魔法の初級、中級の習得。(殺傷性)  NEW!

輝属性魔法の習得。(非殺傷)       NEW!

回復魔法  :LV,1

生物の損傷や状態異常を癒す。


未使用SP: 7


おっおっおっ。

殺傷性のある火魔法と輝属性の魔法とやらがもらえた。

ライト代わりに使えそうだ。


周りから枝や枯れた草などを集める。

この辺りは火が付きやすそうなものが多く、助かった。

火をつけよう。

どんな呪文がいいのだろう。わざわざ言葉に出す必要がないのだろうか。

念じてみる。

できるだけ小さく。チャッカマンくらいの火力でこう、、、


指先からポッと火が出た。蝋燭みたいで熱くはない。


よし。

簡単に火をおこし、カエル肉を焼く。

芯の強い枝に刺し、火の近くで放射熱焼きだ。

ハンバーグを作る時みたいに、枝を突き刺して穴から肉汁が出てきたら食べごろだろう。


しばらくして焼きあがった。


むしゃぶりつく。

淡白な味わいの中に独特な獣臭というか、生臭さがある。でもおいしい。

口の中がパサつくが肉汁もしっかりあるし、何より戦闘後の空腹から絶品に思える。


塩と柚子胡椒が欲しくなる。鳥の貴族な飲食チェーンが懐かしい。


腹ごなしも終わった。

今後のため、持ち運べて食べることの可能そうな量を、大きめの植物の葉で包んでおいた。

「ふう。」

蜘蛛さんも食べ終えたらしく、ちょこちょことこちらに近づき頭の上に乗ってきた。

少し落ち着かないが、とりあえずは人心地ついた。



食べ終わって気づいたのだが、ここは雨が降っていない。

近くに異常に大きな一本の樹木が見えるが、その近くだけ靄がかかったように空気が歪み、そこを中心に一帯の雲が晴れている。

久しぶりの空だ。


いつしか雨は止み、そこには虹がかかるんだよなぁ……。


なんてことを心の中で考えていると背後の上方、木の上から声がした。


「……貴方、何者?」

「ん?」


振り返って見上げ、確認できた。


「三条です。」

「サンジョー?」


第一異世界人との遭遇だった。

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