第14話 閑話:サラという女性



こんにちは。サラといいます。


どこで生まれたかはわかりません。物心がついた時には親はいませんでした。

周りの人が言うにはハーフエルフだそうです。


エルフの森で育っていましたが、私のことは皆さんあまり好きじゃなかったようです。


族長のリサ様という方の下僕として育てられました。人類族とのハーフエルフというのは嫌われていいるようでして、リサ様にはひどくしつけられることとなりました。体の傷はその時についたものです。毎日の体罰を体は負傷と思うことはなくなり、痛覚が無くなればいいと思ったことは一度ではありません。


そんな時、森に商人の方が来られました。その時の私は何を思ったのでしょうか、その商人の方の荷台に潜り込みました。

しばらく経った後でやはり見つかってしまい、連れ戻されそうになりました。


それがダースさんと出会ったきっかけです。

傷だらけの私を見て、引き取ると言ってくださいました。周りの方の反対を押し切って私を背に負ぶって町まで歩いてくださいました。片足がないのに。


ダースさんは言いました。

「お前が胸を張って嫁に行けるようにしてやる。その代わりに命がけで生きろ。」

と。


それから、ダースさんが知り合いの方と経営されていた宿、緑人の風という場所で働き始めました。

算術や話し方など、色んなことを教えていただきました。

知り合いの方が、依頼で国の外に出ている時に亡くなったと聞いた時は、もうそれはわんわんと泣きました。


そこでダースさんに言われたことは今でも覚えています。

「泣くのはいい。けどなサラ、次に泣くときはあんたの大切な人の前で泣け。女の涙は武器にもなるが、安売りするもんじゃねえ。お前にもその相手が現れるだろうさ。」

と言われました。その時はよくわかりませんでした。


この傷にはすごく悩まされました。この傷を見て、大抵の方は元奴隷か、娼婦だと思われます。奴隷ならまだよかったのです。私に価値があったのだから。

でもそれはありませんでした。


消そうと努力はしました。お金をためて高位の教会で治療をお願いしたのですが、治りませんでした。全身にやけどを負った方が完治しているのにです。

身体はこの傷を私の一部と思っているのでしょう。


多くの人と知り合い、助けてくれることもないのに同情され、そんな人たちも去っていきます。


そんな時、変わった方が来店されました。サンジョーさんという方です。

なんでもダースさんの古い知り合い、リーネさんの紹介だというのです。

人類族の方は見たことがありましたが、東の国の方のような色をしている人類族は初めてでした。しかもなぜか妙に腰の低い方なのです。

初めは妙に熱い視線を私に向けていました。それも傷痕に気づくと泣きそうな顔に代わりました。

同情とは違う気がして少しうれしかったです。助けてくれないのならせめて可哀そうに思われるほうがいいです。


なんでもサンジョーさんは人類族なのに異種族が好きなのだそうです。あの他種迫害で有名な人類族がです。例外はいると聞きましたが、このような方なんですね。


しかも自分には特徴がない、私の容姿がうらやましいと言っていました。変ですよね。一見奴隷のこの身を美しいというのですから。


その後、部屋にお送りしました。

「これからよろしくお願いしますね。」

「はい!これからよろしくお願いします!」

と元気に返しました。

どうせこの方もすぐにいなくなるか、亡くなるのです。

そう思うと少し悲しくなりました。何故でしょうか。


次の日、サンジョーさんを起こしに行きました。正確には呼びに行ったのですが。

憧れのメイドというものになれた気分でした。この体では叶わない遠い夢です。


サンジョーさんはダースさんと話した後、すぐにお店を出ていかれました。


そしてダースさんを見ると足が生えていました。すごく驚きました。

ダースさんの大変そうな姿を、ずっと見ていたのでとても嬉しいものでした。

でも、こんなの見せられたら期待しちゃうじゃないですか。治るかもしれないって。


その後、緊急指令が発令されたと聞きました。

また誰かが死ぬんでしょうか。


おかしいんです。夜になっても次の日になってもサンジョーさんが返ってきません。

ダースさんに聞くと緊急指令で出撃されたそうです。

蜘蛛のアトラさんを任されました。人間味があって可愛い蜘蛛でした。


その次の日、サンジョーさんが返ってきました。意識もなく、虚ろに半分目を開けて家族らしき方の名前を呼んでいます。なぜ、どうして、ごめん、という言葉が多くみられました。

傷は完治して、包帯も取れているのに心が戻ってきません。心が弱い方には見えませんでした。


その五日後、サンジョーさんが目覚めました。ベッドで身を起こし、顔にアトラさんが張り付いていました。

やっと起きてくれました。

寝ていた日数を聞くと、、生真面目に料金を払わないといけないと言い出しました。

私としてはこんな方はずっといてくれてもいいんです。死なずに帰ってきてくれた不思議な方です。


急に手を出すように言われ、手を出すと体の傷が一瞬で無くなりました。

信じられますか?自身が瀕死から帰ってきた直後に、人の傷を治すんですよ。

治らなかった傷を。


そして言いました。

「あの傷はサラさんには似合いませんからね。」

と。


そこで私は泣いてしまいました。顔がぐしゃぐしゃになって大声で泣きました。


でもよかったです。ダースさんの言いつけを守れました。


大切な人の前で泣くことができたんですから。

ダースさん、私は胸を張って嫁に行こうと思います。

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