第8話 プレウラ王国Ⅳ
冒険者ギルド内にて竜種の呪い憑きが出たとの報告から数時間後、俺は馬車の中にいた。
あの後すぐにギルドから緊急指令が発動され、あの場にいた人物は駆り出されることとなった。
蜘蛛さん…アトラにはケガをさせたくない。
無理やり部屋に置いて行った。ごめんよ。
目指す先はプレウラ王国から西の森林と平原の入り乱れる地域。
馬車の中には御者を含めて4人。ロッドたちとは別の馬車になってしまった。
目の前には角の生えたムッキムキな女性と小柄な女の子。馬車の横には並走するようにケンタウロスの男性。
会話がない。
「あの、三条と申します。今回はよろしくお願いします。」
「ふんっ」
女の子に無視された。気性が荒すぎる。
「失礼いたします。」
と横の角の生えた女性が話しかけてくる。
「こちらはエメリー・ドーリシア・プレウラ様になります。プレウラ王国の第3位継承権を持つ王子であります。私は従者のスズリと申します。」
えっ…この女の子、ショタか。くっそ、めっちゃ可愛いのにあれがついてるのか。
と思って目の前のショタを見る。
茶髪に近い金髪をショートカットほどにしている。整った顔立ちで、瞳の紫色がその美しさを加速させている。額からは先に行くにつれて白から蒼に色の変わった特徴的な角が生えており、先は尖っておらず丸みを帯びている。年相応な感じがキュート。
いや、待て。それはいい。今この従者の方は、第3位継承権を持つショタと言った。
ロイヤルファミリー様じゃないか。やべえやべえ。全然オーラがない。
「そ、それは失礼を致しました。何分この国に来たばかりでして、無知をお許しください。」
とは言いつつも頭を下げつつステータスチェック。
Status
名前 【 エメリー・ドーリシア・プレウラ 】
性別 【 雄 】
種族:種族値 【 碧牛族 】:【 14 】
職業 【 王子 】
LV 【 20 】
HP 840/840
MP 1020/1020
可動性 【 1000 】
筋力 【 1500 】
耐久性 【 2800 】
知性 【 3000 】
運 【 50 】
技量 【 2050 】
啓蒙 【 0 】
しっかりとショタだった。愕然とする。
しかし碧牛族か。わからん。神獣とかそういう可能性も考えておこう。
ステータスは俺よりも打たれ強い構成だ。耐久なんて俺の7倍だぜ?びっくりだろ。
若いのにしっかりとしてらっしゃる。
スズリさんは見た目相応であってください。
Status
名前 【 スズリ・リクドウ 】
性別 【 雌 】
種族:種族値 【 鬼族 】:【 20 】
職業 【 護衛騎士長(派遣) 】
LV 【 30 】
HP 2000/2000
MP 400/400
可動性 【 3000 】
筋力 【 3000 】
耐久性 【 3450 】
知性 【 1500 】
運 【 48 】
技量 【 2500 】
啓蒙 【 0 】
派遣の護衛騎士長って何?
打たれ強い物理攻撃系お姉さんだ。
年が少し近いのが何ともイイ。日本人に近い名前も嬉しいね。
スズリさんが口を開く。
「よい。エメリー様は寛大です。この程度ではお気にされません。」
と寛大さをアピールされた殿下は不満ありげにこちらを見る。
可愛いよな。だが男だ。
さて。なぜショタ王子はこのような戦場に来たのだろうか。
「スズリさん。殿下は高貴な身。なぜこのような場所にいらっしゃったのでしょうか?」
「もちろん武勇を立てるためです。先ほど言った通りエメリー様は3位継承権を持っていらっしゃいます。恩賞を立てるのはよい策なのです。」
「理解致しました。ではなぜ先の緊急指令では参加されなかったのですか?」
横のケンタウロスお兄さんが吠える。
「失礼だぞ!口を慎め。」
「失礼しました。無礼をお許しください。」
ごめん。ちょっと嫌味っぽかった。これだから敬語は。
とショタ王子が口を開く。
「…兄さんたちに邪魔されたんだ。」
「邪魔?ですか?」
「そうだよ!継承権1位と2位の兄さんたちだよ!3位の俺を蹴落として自分たちだけで決着をつけるつもりなんだよ!俺は王位なんて欲しくないのに周りが勝手に…。」
おうおう、言いすぎだ。そんな情報は話しちゃだめだろう。
「少々私は聞きすぎのようです。なので私は何も聞いていなかったということで。」
「いい心がけだな。」
ケンタウロスさんいちいちうるさいよ。
聞いた内容を整理する。
ショタ王子は王位が欲しくない。けれど周りの擁立派はそうじゃない。傀儡王子を使って幅を利かせるつもり。1位と2位の王子はショタ王子を蹴落とすことで擁立派を自陣に引き入れて勢力拡大を狙う。といった感じだろう。
完全にショタ王子かわいそう。せめてこの一戦くらいは助けよう。可愛いからじゃない。恩を売るためだ。売るためなんだ。
童貞は口を開く。
「事情は把握したつもりです。ぜひ殿下の武勇のため、殿下の力になることをお許しください。」
「そんなこと言ってどうせ後で裏切るんだろ。勝ち目がないんだからな。というか信用できない。」
凄むなよショタ王子。びっくりするだろ。
「いえ。元より私は人類族。裏切ったとしても私を迎え入れて頂ける場所は無いでしょう。必ず殿下の身をお守りします。」
死んだら恩が売れないからな。
「か、勝手にしろよっ。」
「はい。勝手に致します。」
童貞の勝ちだ。
*
そのまま馬車に揺られて半日。目撃場所に近いキャンプで集まる。
あ、ロッドだ!会いたかった。俺の馬車は通夜みたいだった。
「着きましたね、ロッドさん。これからについて話しませんか?」
「いいぜ、サンジョーさん。竜種の呪い憑きだな。こりゃまためんどいのが来たな。」
「呪い憑きというのは何なのでしょうか。ゾンビのようなものでしょうか?」
「いや、違う。ゾンビは屍人族っつー種族だ。間違えると怒られるぞ。呪い憑きは呪い持ちから呪いをかけられて変異しつつある生き物だ。完全に変異しちまうと呪い持ちになる。殺すには首を狩る必要がある。」
「それはまた面倒ですね。竜種の呪い憑きは他とは違うのでしょうか。」
「そうだな。竜種は知性が高い。呪い憑きになると変異するにつれて知性がなくなってくんだが、竜種だと変に残ってるから殺しにくい。生命力が高いことも相まって、死にたくない相手を苦しめて殺すことになる。」
「…残酷ですね。」
殺るなら一瞬で楽にしてあげたい。
「ああ。こういうことは度々あるんだが、今回はどうにも変だ。北で大量発生して、西でも出たんだ。多すぎる。」
竜種が呪い持ちの可能性もありということか。
呪い憑きに関して聞き終えると、集合の合図が鳴る。
「これより作戦会議を行います。集合してください。」
スズリさんの凛とした声で一同が集まる。
今回参加のパーティは俺以外で3つ。ロッドのところとショタ王子チーム。もう一つは獣人のチームだ。あまり練度は高くないように見える。
俺ボッチジャン。
「今回は基本的に相手を囲んでの掃討作戦となります。獣人族の方は周囲の見張り兼援護をお願いします。鴉羽の刃の方は我々と迎撃に出ます。よろしいですか?」
あーい、とやる気のなさそうな返事が獣人族から上がる。見張りも大切な仕事だぞ。頑張れ。
俺は?俺の役目は?
「私はどうすればいいのでしょうか。」
「貴方は…。殿下の護衛をして下さるとのことでしたね。我々と一緒にお願いします。」
「三条です。わかりました。ご一緒させていただきます。」
それから陣形について話し、獣人部隊の斥候が戻ってくるのを待った。
それから半刻ほど。ついに呪い憑きを確認したという。
獣人部隊は不服そうな顔で周囲警戒をしている。頼むぞ…。
獣人部隊に続いて歩く。その先で大きな影を発見。
思う通りのオオトカゲ…とはいかなかった。非常に大きい。
考えておくべきだった。竜とはいってもワイバーンだ。体表は銀色だが紫色に浸食され、翼は所々が破れている。これが呪い憑きか。
Status
名前 【 ヴィルヘルミーナ・サバスン・ドラゴンロード 】
性別 【 雌 】
種族:種族値 【 竜王族 】:【 240 】
職業 【 行き倒れ 】
LV 【 46 】
HP 4200/24000
MP 1470/30000
可動性 【 3000 】
筋力 【 5000 】
耐久性 【 14000 】
知性 【 320 】
運 【 1 】
技量 【 2500 】
啓蒙 【 0 】
特性
【 呪印 】
≪薄幸≫
運命力の低下。恵まれない。
【状態異常】
≪【重】呪病の媒介者(被)≫
身体が時間経過によって呪病の媒介者へと変化する。呪祖の媒介者の下位互換。
名前がえっぐいのになんで行き倒れてるの?
最近は王族らしき方とこんにちはをすることが多いですね。
それにしても呪いの効果が雑すぎる。本当に幸が薄いのだろう。
と、そこでスズリさんが号令をかける。
「散開してください!」
その合図と同時に全員が散らばる。
俺は…、ショタ王子を守ろう…。と思ったがケンタウロスさんとスズリさんが守っている。
とりあえずロッドに合わせて体力を削ろう。
このようなワイバーンはまず攻撃しないといけない場所がある。
尻尾だ。尻尾切ってやくめでしょ。
「ロッドさん!背後に回ります!援護をお願いします!」
と叫び回り込む。可動は高いのだ。速い動きでできるだけ早く殺してあげよう。
少々高い位置にある尻尾に向けて下から振り上げる。
たくあんを切ったような感触がして刃がめり込む。
痛覚がないのか、ワイバーンは気づいてすらない。
さっさと切ろう。先ほどとは別、ジャンプをして上から切りつける。
「ふんっ!」
ゴリュっと音がして尻尾がちぎれた。
それに気づいたワイバーンはロッド達への攻撃をやめ、こちらに振り返る。
奥ではショタ王子が魔法を飛ばしている。魔法使いだったのね。
「いっ!」
一気にワイバーンが突進してきた。顔に張り付いた。首を刈り取ればいいんだったか。
首への手刀を準備する。
その時、
「い、タイ…ヨぅ。」
とワイバーンが声を発した。
こいつ、やっぱり生きている。人、いや、知性を持った種族を殺した経験が俺にはない。
出来れば殺したくない。
その一瞬、迷っていたのがいけなかった。
ワイバーンは顔を振り回し、俺を吹き飛ばす。
吹き飛ばされた童貞は背中から地面を滑り、背中の肉がすりおろされる感覚を味わう。
痛すぎて吐き気がする。急いで…急いで治療しないと。
「ヒール。」
ちくしょう。せっかく買った服が台無しだぞワイバーンめ。絶対助けてやるからな。
ロッドに伝える。
「ロッドさん!あのワイバーンはまだ生きています!何か救える方法はありますか!」
ワイバーンを足止めしていたロッドは後退して俺の近くに来る。
「生きてるのか?救う方法は俺はしらねぇ。一息に楽にさせてやるのがいいだろう。
くそ、何かないのか。
その時周囲の偵察役だった獣人が飛び込んできた。
「グズグズやってんな!代わりに俺が殺してやる!!」
と言って突撃をかます獣人族数名。
待って!それ絶対に負けフラグだから!
「いけませんっ!下がってください!」
と童貞は叫ぶが届かない。
突撃した先ではワイバーンが何やらブレスの体勢。
口から濃い紫色のブレスを吹いた。
「ぐああああ!」
獣人部隊が叫ぶ。
獣人部隊とショタ王子、スズリさんまでを包む規模だ。
まずい!ショタが!
「ロッドさん!少し任せます!」
「お、おう!」
回復魔法なら間に合うかもしれない。急いで向かうとスズリさんは倒れていた。
「大丈夫ですか!?すぐに回復魔法を掛けます!」
「無駄だよ!回復魔法じゃこの規模の状態異常は治せない!」
と告げるのはショタ。
え、無事そうじゃん。
「殿下、ご無事でしたか。」
「ああ。俺は毒などを体外に排出できるからな!それより!スズリ。」
倒れているスズリさんは辛そうだ。そこへショタ王子は告げる
「俺が介錯してやろう。」
「…はい。エメリー様。」
待って待って。本当に助からないの?
「お待ちください!本当に助からないのでしょうか?」
イラついた声でショタ王子は返す。
「ああっ!治るならやってるさ!!さっきも言っただろ!このレベルの状態異常は高位の神官でもなきゃ治せない!そんな奴がここについてくるわけないだろ!どうせ俺たちは捨て駒だからなっ!」
高位の神官じゃないと治せない状態異常か。
…俺の魔法、女神の加護あるんじゃなかったっけ。行けるかも。
「試してもいいですか?」
「勝手にしろよ!」
親しい人が死にかけてるんだ。ショタ王子の気持ちは正しいだろう。
でも、スズリさんは今死ぬべき人じゃないと思う。
こんな綺麗な人が死ぬのは見たくない。
「ヒール。」
すると体に広がろうとする紫のアザは浸食をやめ、次第に薄くなっていった。
名前 【 スズリ・リクドウ 】
性別 【 雌 】
種族:種族値 【 鬼族 】:【 20 】
職業 【 護衛騎士長(派遣) 】
HP 2000/2000
特性
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回復魔法様様である。ありがとう神様。
さて、
「どうでしょう?」
「なっ!無詠唱か…。それよりもっ!」
とショタ王子は驚く。スズリさんは表情が軽くなっており、起き上がった。
スズリさんがこちらを見て一礼。
「あっありがとうございます…。」
お礼をしてくださった。嬉しい…が。
「グアアアアアアアア!!!」
と、後ろでワイバーンの咆哮が聞こえる。抑えているロッドが心配だ。
獣人部隊も治して戦線復帰だ。
「獣人の方々も治療しようと思います。では。」
と童貞はその場を後にする。
「ちょ!待て!」
まあまあ吠えなさんな、ショタ王子。後で話しましょう。
獣人部隊のもとに行き、すぐに治療する。
俺がすごいのではない。神様がくれた力がすごいのだ。それを自分の力だと勘違いするのはおかしいと、そう思う。
満足感と自己嫌悪の二つを抱えて、俺はロッドのもとに戻った。
「戻りました!」
「おう!待ってたぜ。」
ロッドは傷を負いつつも生きていた。彼の嫁さんたちも大丈夫そうだ。ロッドがタンクなのだろう。
ロッドと嫁さんに回復魔法をかけ、現状打開の方法を告げた。
「このワイバーン、私の魔法でどうにか救えると思います。任せていただけますか?」
「まだ救う気なのか?やるなら手伝うが…。」
「すぐに終わらせます。」
「あいよ!」
まったく頼もしい奴だ。
先ほどのスズリさんの回復から、おそらく行き倒れドラゴンも治療できるだろう。
すぐにロッドはワイバーンに向けて走り出す。ヘイト管理がうまい野郎だ。
ロッドに気が向いている隙に足元に滑り込む。背後から背中に無理やり飛び乗る。
魔法発動だ。
「ヒール!」
グングンと魔力が持っていかれる気がする。
体力が2万もあったのだ。不足分持っていかれているのであろう。
暴れるワイバーンの揺れはだんだんと収まり、次第にはダウンした。
「ふぅ。」
何とか助けることが出来た。はずだ。
ステータスを見ると状態異常は解除され、HPは満タン。生きているのは素晴らしい。
ロッドさんが駆け寄ってくる。
「終わった…のか?」
「ええ。何とか元に戻すことはできたようです。」
「すげえな。あの状態異常を治しちまうのか…。」
「唯一の取柄ですよ。」
とあたりを見回す。
全員生きている。取りこぼしてはいない。良かった。
ひとまずは緊急指令完了であろう。
と、奥からショタ王子が駆けてくる。
「おい!あれはいったい何の魔法だ!」
「回復魔法です。唯一の取柄ですよ。」
「そ、そうか!いや、それよりも…」
ショタがモジモジしている。可愛いけど男なんだよな。
「あ、ありが…」
その瞬間、スズリさんの声が上がる。
「エメリー!避けて!!」
「えっ…。…がっ」
背後から刀で貫かれている。胸を一瞬だ。
一瞬の出来事に追いつけなかった。
貫いた人物は刀を体から抜き、俺に向き直る。
「がっ…、っはあっ」
倒れたショタは口から血をコポッと吐き出している。
俺も剣を抜いて向かい立つ。
こういうのは嫌いだ。取りこぼしていないと、そう思ったのに。
可愛い子が苦しんでるだろ?痛そうなのはダメだろ?
こいつは殺してもいい。
必ず守るって言ったからな。
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