第25話 空中散歩
王城を後にした。
自分のやったことが恥ずかしく思えてくる。
馬車で送ると言われたが、俺は飛行魔法を試してみたい。丁寧にお断りした。
久しぶりの王都だ。
礼服から着替え、平民用の服に着替えた三条は完全に一般人。
普通に町の人と接することのできるのはいいことだ。
いつぞやの冒険者ギルドの受付係、獣人お兄さんとの会話にも花が咲いた。
家に寄ってみた。
ほこりが少したまっていることに気付き、簡単に掃除をしておいた
家を出て、門へと向かう道を歩く。
あまり通らない道を通ってみた。あまり治安のいい所では無い。
こういう場所では喧嘩などがよくあるのだろうか、中央通りなどに比べて人や家屋があれているように思える。
RPGに手を出していた俺としては、興味がある場所だ。
道を進んでいると、角の奥から穏やかではない声が聞こえる。
すこしだけ見てみよう。先っちょだけ。
隠れながら見てみると、その先では男性3人に対して女性一人が喧嘩をしていた。
喧嘩というよりも、女性が拉致されそうになっている。
これはいけない。エロ本が分厚くなってしまう。
「おい!やめろ!薄汚い人類族が!」
そう叫ぶ彼女はおそらく人類族ではない。何しろ髪の毛が青い。こんな人類族が居たら驚く。ブリーチを何回したらあの鮮やかな青が生まれるのだろうか。
年齢はおそらく二十歳くらい。
身体はすらっとしているが、目に入るのはムチムチの脚。是非ともその太ももで窒息死したい。
その女性に対して人類族3人が言う。
「こっちは礼を尽くしてるんだぞ?大人しくしろ。」
「暴れると身のためにならんぜ?」
といった感じで、拉致ろうと近づいている。
女性のいる場所は袋小路。
俺は輪姦モノとかは好かん。好きで囲まれているタイプのモノは別だが。
助けようかな。
「何されてるんですか?」
そう、3人組に話してみる。
「あ?なんだ、人類族か。」
「悪いことは言わねぇ、見て見ぬ振りしときな。」
そう、二人に言われる。
三人は一見、普通の人類族に見えるが、顔などに傷がある。過激な日常を送っているのであろう。
なら男爵のことは言わない方がいいな。
「私は冒険者をしています。治安の維持は一つの仕事です。」
「知るかよ。さっさと消えろ。」
あー、今の言い方、ちょっとムカついた。
「女性に対して3対1というのは少し大人げないと思います。」
「うるせえなぁ。寝てろよ。」
そう言って近づいてくる。やめてよ。急所狙っちゃうよ。
近づいてくる彼の手にはナイフ。これって、正当防衛です。
その男の股間に向かって風魔法を使い、風の塊をぶつける。
「あ゛っっ!」
股間を抑えてうずくまる。
OH…。
今のは痛いですね…。俺でもされたら、ああなる。
「何しやがった!?」
「魔法です。」
「無詠唱か!?」
「どうでしょう。」
そう言えば、魔法というのは普通、短くはない詠唱が必要だそうだ。近接なら断然ナイフが強い、とのこと。俺はなぜか無詠唱しか使ったことがない。
これも神様のお陰だろう。俺の力じゃないんだ。
しかし、同じ人類族として、異種族っ娘をいじめるのは許せません。
ちょっと痛い目を見てもらおう。
先ほどと同じように、二人の股間に風を飛ばす。
「あ゛ッ。」
「マ゜ッ!?」
ごめん。手加減はしたから許して。
三人は倒れ、一人は気絶。二人は股間を抑えながら逃げようと這っている。
多分もう大丈夫かな。
女性は座り込んでいる。怖かったのだろう。
立たせようと、手を出すが、その手は払い退けられた。
「触れるなッ。薄汚れた人類族が!」
そう言う彼女の顔は憎悪に歪んでいる。
彼女は自分で立ち上がり、歩き出す。
この人も何かしら、暗い過去があるのだろう。
「悲しいですね。人を種族で判断してはいけませんよ。」
「それを人類族が言うか。」
「そうですね。この国には人類族もいます。気を付けるといいでしょう。」
「せいぜい気を付ける。お前にもな。」
そう言って速足で角を曲がって行ってしまった。
随分と嫌われてしまった。アナルが弱そうな性格の人だ。
気の強い女性はアナルが弱いと相場が決まっている。
まあ、でも、一人の人を助けることが出来た。そこに関しては良かった。
地面に倒れた彼らを壁際に移動させ、童貞はその場を後にした。
くねくねとした道を通り、スリに気を付けながら門を目指した。
門を出て、少し行ったところで飛行魔法を使ってみる。
どういう理屈か分からないが、フワーっと体が浮く。ヘリコプターのように下向きの風が発生している訳ではない。不思議だ。
ヒューニアの方角に飛んでみる。
良い速度。速度を上げてみよう。
お、お、お。
早い。アルバートさん並みだ。これに風魔法を併用。MPを確認してみるが、回復の速度の方が早い。
俺、中々チートしてきたのではないだろうか。
風魔法で風圧などを調整。
かなりの速度が出たことで、馬車で来たよりもかなり早い時間で帰ることが出来た。
ヒューニアに帰ってきた童貞。
門は歩いてくぐり、その後は飛んで家まで移動。
見られてもやましいことは無いが、少し恥ずかしい。
屋敷の扉を開けて中に入る。
「ただいま戻りました!」
少し大きな声で帰宅を告げるとサラさんが出てきた。
「あれ!かなり早いお帰りですね。」
「ええ。急いだので飛んできました。」
「飛ん…だのですね。」
それを聞いて軽く笑うサラさん。信じてないな。
彼女はメイド服に身を包み、髪をポニーテールにしてまとめている。
髪型を変えてもいいですね。
また今度、空の旅を味わってもらおう。
「リンネさんは?護衛の方が来られたと思いますが。」
「あ、来られましたよ。バードック商会支部に行かれました。」
「分かりました。ミーナさんは?」
「厨房でつまみ食いされています。」
つまみ食いって。まあいいや。おそらく彼女の力が必要になるだろう。一緒に来てもらおう。
「ミーナさんを呼んでもらえますか?」
「ええ。呼んできます!」
彼女はパタパタと走って厨房の方に行った。
少しするともぐもぐしながら歩いてきたミーナさん。
「少年!早かったね~。」
「帰りました。急ぎました。バードック商会の方に行きます。付いて来ていただけますか?」
「え、デート?」
「ええ。おそらく空のデートとなります。」
「やったー!」
サラさんに蜘蛛さんをお願いして、ミーナさんと一緒に家を出る。
童貞はミーナさんに飛ぶことを伝える。
「バードック商会まで行きます。今、飛べますか?」
「うん。運ぼうか?」
「いえ。飛びます。」
そう言って翼を広げるミーナさん。
童貞も飛んで、彼女に続く。
「少年飛べるの?」
「はい。最近飛べるようになりました。」
「え~、私が運べなくなっちゃった。」
「大きくなったときは又、背中に乗せてくださいね。」
「うん!」
そう話して向かう。
ミーナさんの飛行方法は魔法的な飛行ではない。あちらの方がロマンがある。俺も練習しよう。
バードック商会にたどり着いた俺とミーナさん。中に入るとリンネさんが居た。
ゴーレムのゴルもいる。
リンネさんに近づき、話しかける。
彼女はすぐに俺の目を見て大体の事情を把握。おそらく分かっていたのだろうが。
「リンネさん、ありがとうございます。伝わると信じていました。」
それを聞いて無表情の彼女は、静かに言う。
「すぐに気づく。」
「いえ。リンネさんにしか分からないことですよ。ありがとうございました。思いのほか早めに帰ることが出来たので、よかったです。」
「…後ですこしいい?」
「ええ。良いですよ。」
飛んできたから間に合うことが出来た。リンネさんには無駄に動いてもらってしまった。申し訳ない。
ごめんね?信じてた。リンネさん最高。
「あ、あの男爵じゃねえか。」
そう言うのはゴルさん。
現在の状況としては宝石の鑑定後、お金の受け取り待ちのようだ。
「間に合ってよかったです。急いで帰ってきました。うまく行きそうですね。」
「ああ。ありがとな。後は買い込んで帰るだけだ。」
ゴルさんと一緒にこの街に来たゴーレムの人は数人。
多分運べる。
「あなた方の暮らしている場所はここから近いですか?」
「いや、ある程度は遠いな。」
「そんなあなたに朗報です。ここに空輸のプロが居ます。」
「くうゆ?」
「彼女は竜種です。あなた方の集落まで運びましょう。」
その話を聞いてミーナさんは俺に近づく。
「少年、私、都合のいい女にされてる?」
うっ…。この言葉はきつい。
でもミーナさんみたいに万能な人はいないんです。
早急に竜王陛下に相談して、空輸部隊の整備を実現したい。
「ミーナさんのように万能な方はいません。彼を手伝ってあげてくれませんか?」
「えー。少年のお願い?」
「はい。」
「じゃあお願い一個聞いてね?」
「分かりました。」
「なんでも?」
「ある程度は何でもします。」
「おっけ!」
何でもします。(何でもとは言っていません。)
彼女のお願いだ。出来るだけ聞こうかな。
その二人を見ていたゴルさんは一言。
「話はまとまったか?」
「ええ。運びましょう。」
「お前は俺たちに何を求めるんだ?」
そう来たか。
正直に言うと俺の男爵として出来ることをしたいというエゴだ。
理由を付けるとしたら、人口の増加による産業と種族の幅を広げ、領地の評判を上げるということくらいだろうか。
未来への投資かな?
「あなた方の未来への投資ですかね。あなた方と協力して何かをするときのために、友達になっておきたいのです。」
「友達ね…。」
「深く考えなくても大丈夫ですよ。私もあまり深く考えていません。ただの友達を増やしたいというだけです。」
やっべ、本音が出た。ただ、知り合いを増やしたいだけ。
「……。」
「無理にとは言いません。」
じっと考えるゴルさん。
それを見る俺。
お願いは何にするか考えているミーナさん。
「はっ!いいだろう。俺とあんたはこれから友達だな。」
「良かったです。友達が増えるのは嬉しいですね。」
よかった。これでこの国に対する潜在的な脅威が減り、友達が増えた。
彼らの行く末に幸あれ。
「では、買い込みと行きましょう。輸送の準備をしますので、商会の方と買い込みをお願いします。大きなコンテナ程度なら運べるかと。」
ミーナさんの方を見る。
「どうですか?」
「行けるよ~。最悪、飛行魔法使う!」
え、飛行魔法使えるの。ミーナさんて実はすごいかも。
ありがとうと、お礼を言ってバードック商会の人を呼ぶ。
出来るだけ詰めないかな?たくさん買うので単価下げれない?みたいな、お願いをして、買い込みをお願いした。
リンネさんにはその場を見てもらうことをお願いした。彼女が居れば安心できる。
何か起きたら嫌だ。
俺とミーナさんが向かった先は一目鬼の工房。
標準的なコンテナのサイズに合い、ミーナさんが運びやすいように輸送用の道具を作ってもらう。
頑丈な皮と繊維を加工したベルト状のものがすぐに出来上がった。
早急な対応、いつも感謝しております。
出来上がったものを持ってバードック商会に戻る。
戻ると梱包の真っ最中のようで、木のコンテナで丁寧に梱包中だった。
リンネさんに何かあったかと聞くが、特に無し、とのこと。
運ぶコンテナは二つ。2往復あればいいだろう。
ミーナさんはコンテナ、俺はゴルさん達を運ぶ役回りとなった。
ゴルさんの脇に手を入れ、吊るすように運ぶ。ゴツゴツしてますね。
ミーナさんが竜化する。服が破ける仕様だったらよかったのに。
竜化した彼女を見るのは呪い憑きの件ぶり。大きく翼を広げるその姿は堂々たるワイバーン。
かっこいい。
「やはり格好いいですね。」
「えー、可愛いって言ってよ。」
「そうですね。」
竜化したまま普通の言葉を喋られるとシュールで笑えてくる。
そのすぐ後に離陸。
彼女のコンテナを運ぶその姿は、なんだかシュール。モンスターを狩るゲームでも見たような構図だ。
ミーナさんの安定する速度で飛び、ゴルさんの案内で彼らの集落に向かった。
竜王国手前の山脈地帯の開けた場所、そこに集落はあった。
お世辞にも豊かとは言えない。
少し離れた場所に降り、コンテナを降ろす。急に竜種と人類族が来るのは怖いだろう。ゴルさんを降ろし、2往復目のために町に帰った。
「少年!競争でもどう?」
「本気でも?」
ミーナさんからの空中散歩のお誘い。
全力でお答えしましょうとも。
「いいよー!」
「分かりました。」
分かりまし「た」の部分で出発したミーナさん。それはずるくないですか?
彼女の飛んだ後には爆風の衝撃波。こらー。ゴーレムの皆様がびっくりしてるでしょうが。
急いで追いかける。
俺の飛行魔法は初めからトップスピード。爆風が出ないように風魔法で緩和。
ミーナさんに追いつきそうになるが、それに気づいた彼女はまだ速度を上げる。
飛行できる彼女が飛行魔法を使うと異常に早い。
すぐにヒューニアが見えてくる。
結果としては惜敗。
馬身ならぬ1竜身で負けた。
先に着地した彼女に言う。
「はあ…、はあ…、早いですね…。」
「はあっはあっ。少年も早いね!ほんとに人類族?」
童貞もミーナさんも互いに息が上がっている。
「…人類のつもりです。」
「ほっ、ほんとかなぁ?はあっ。」
その様子を見ていたリンネさんは二人に飲み物をくれる。気が利くお方だ。
その後もコンテナをミーナさんに装着し、俺はゴーレムの二人を片手ずつで運んだ。
集落に着くころには俺の握力はぎりぎり。プルプルと震える筋肉がプロテインを欲している。
コンテナを運び終えるとゴルさんがこちらに来て跪く。
それを見守る集落のみんな。
「本当に助かった。ありがとう。」
「立ってください。子供の前で跪くものではありません。何より、私たちは友達でしょう?」
その言葉を聞いて、ゴルさんは大きく笑って答える。
「そうだな!俺たちは友達だ。何かあったらいつでも力になるぜ!」
「ええ。お仕事をヒューニアで探すのもいいでしょう。もう盗賊はやめてくださいね?」
「ああ。また会おうぜ。」
そう言葉を交わして握手をする。
俺を怖がって隠れていた皆さんも俺に挨拶をしてくれる。そこで、ゴーレムのお子さんだろうか、小さなゴーレムさんが寄ってくる。
そして言う。
「ありがとう!おじちゃん!」
うっ…。お、おじちゃ…おにいさんだよ?
苦笑いの童貞を不思議がるその子。無垢な笑顔がとてもきつい。
「いえ。いつでも遊びに来てくださいね?」
「?…うん!」
取り繕って笑顔で対応。おお、営業の成果が出た。あれ、嬉しいはずなのに。
心の涙が。
ゴルさんと少しだけ話してその場を後にした。
コンテナ用のベルトは、彼らが使いたいと言っていたので譲った。次に使うことがあれば、また取りに来るか、新しいのを作ろう。
竜王国に商品として流せるかもしれない。
ミーナさんと空に飛ぶ。彼女の銀色の体は夕日を反射して素晴らしく美しい。
しかし彼女は人型に戻る。
「少年!お願い聞いてぇ!」
あ、結構早い段階でお願いが来た。
何でも聞きましょうとも。
「ええ。」
「私を抱えて飛べる?」
なんだ、そんなことか。
「ええ。どうぞ、こちらへ。」
「わーい。」
飛んで童貞の元に来る彼女。
翼を一瞬で消して俺の腕の中に飛び込んでくる。
彼女をお姫様だっこ。結構恥ずかしい。
そのまま飛ぶ。
ここで気づいたのが、お姫様抱っこはいいものだ。右手は太ももに触れ、左手は彼女の脇から脇腹に触れる。
彼女の下乳がやばい。これ本当にブラしてるんですか?柔らかすぎでしょう。
あ、尻尾プラプラするのやめてください。息子が戦闘態勢なので、当たるとバレてしまいます。
同様に気付いたのか、腕の中で彼女は見上げる。
「少年?」
「どうされました?」
とぼけて返事をする。その姿が面白かったのかわからないが、彼女は笑う。
「んーん。ぎゅ~!」
急に抱き着いてきた彼女。満面の笑みだ。
体は大きいが、無邪気だ。
彼女が何を想ってこれを望んだのかは分からない。何故俺を慕ってくれるのか、も。
けれど、夕日が照らした彼女の笑顔が、先ほどの姿よりも何倍も美しく心に残ったことは、よく分かった。
ヒューニアに戻ってきた俺たち。
それを待ってくれていたリンネさん。お疲れ様です。
ミーナさんを降ろして彼女に話しかける。
「お疲れ様です。わざわざ待っていてくれたんですね。」
「…うん。」
彼女の目はなんだかいつも以上にジト目だ。
あ、さっき後で話があるって言ってましたね?今でもいいですか?
「いや。後で部屋に行く。」
「あ、分かりました。」
何か深刻な話だろうか。新しい街を作るにあたっての助言とか?
彼女と共にミーナさんを連れて家に帰る。
今日の疲れを部屋で癒す。先ほど風呂に入ってぽかぽかだ。
馬車での移動と面談会。エメリーイベントにゴルさんの輸送に奔走した。
そこで部屋の外からノック。おそらくリンネさんだろう。
「どうぞ。」
そう言うと彼女は部屋に入ってきた。
彼女はいつも通りのクールな顔つきで、俺の目を見ている。
いつもよりも真剣な、そんな雰囲気を俺は感じた。
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