第20話 王都最後の日常
次の日、ついに念願のイベント発生。
昨日、疲れたこともあってよく眠ってしまった。
「サンジョーさん?朝ですよ?」
「あ…。おはようございます。」
「やっと起こすことが出来ましたね。」
「はは、ありがとうございます。」
開眼一番で飛び込んでくるエルフ女性の、その素晴らしいことをどのように形容したものか。
そう、それはまるで果ての無い宇宙でブラックホールに万物が吸い込まれるように、恒星が発する光を全身に浴びて植物が伸び伸びと成長することのように当たり前で、尊いことなのだ。
あ、目が覚めました。おはようサラさん。その肩には蜘蛛さん。
「情けない姿を見せてしまいましたね。着替えますので先に降りていてください。」
「はーい!リンネさんを起こしますねー!」
そう言ってハーフエルフの彼女、サラさんは部屋を出る。
息子の起立を隠し通せたと思い込む童貞は服を着替える。かれこれこの世界に来て時間が経つが、転移時のジャケットはまだ無事だ。タンスの中で眠っている。
二階の廊下に出て一回へと降りる。
サラさんは朝食の準備をしている。
リビングのソファには朝に弱いリンネさん、ダメな行き倒れドラゴン、ミーナさんが座って寝ている。
リンネさんには綺麗な姿勢に似つかわしくない寝ぐせがある。今日も可愛いですね。
ミーナさんは大きく口を開けて、よだれと舌が垂れている。
あ、蛇みたいに先が2つに分かれているんですね。スプリットタンってやつですね。それで私の私を世話してもらいたいです。
そんな二人の姿を流れるように視姦した童貞は朝食の準備に加わる。
朝食が出来上がる頃には二人の意識は蜘蛛さんによって覚醒させられ、朝食となった。
今日の予定の確認。
「今日はおそらくスズリさんがこちらに来られます。爵位授与式の礼儀作法ですね。」
「少年ならそのままでもいいんじゃない?」
「そう思いますよ!」
そう返したサラさんとミーナさん。正直そこまで気にしなくてもいいとは思うけど、何か無礼があったらダメなんだよ。授与式の後にパーティがあるらしいし、そこで笑いものにされるのは嫌だからね。
「そういうわけにはいきません。何事も第一印象は大切です。」
「…うん。」
あ、リンネさん。リンネさんとの出会いは最悪でしたね。私は全裸でしたよね。
リンネさんがトマトを落とした。それを蜘蛛さんがキャッチ。良い反射神経ですね。
「皆さんは何か予定はありますか?」
「なーい!」「食材の買い出しに行きますね。」「無い。」
サラさんが外出の予定があるそうだ。あの件をお願いしておこう。
「分かりました。買い出しの前に緑人の風に寄ることはできますか?」
「はい!何かありました?」
「はい。バードック商会の従業員の皆さんにお酒をふるまう約束をしています。それを明日の夜に、緑人の風にて行いたいと思います。突然になって大変だとは思いますが、ダースさんが良ければお願いします。」
「分かりました!大丈夫です!何人くらいですか?」
「20人くらいですかね?多くなるかもしれません。リンネさん。」
そう言うと彼女は意識をこちらに向ける。
「サラさんのお手伝いをお願いできますか?」
「…うん。分かった。」
「ありがとうございます。」
ダースさんとリンネさんは面識がある。いろいろな話が出来るだろうし、リンネさんが色々な人と関わるきっかけを作ってあげたい。
そこでミーナさんが会話に乱入。
「え?私も行く~。」
「ミーナさんは私と礼儀作法の勉強ですかね。」
「えええ。嫌だ。」
「ミーナさんは竜王国の王女です。作法なども分かると思います。私にもいろいろ教えてもらえませんか?」
「少年に?じゃあいいよ!」
「ありがとうございます。」
ホントは目を離すのが不安。彼女は色々ガバガバだから悪い人に付いて行きそう。
この国の普通を知ってもらうまでは俺が傍に居たいし、竜王様とも約束をした。彼女を一人にしたくない。
「では、そのように。今日もお願いしますね。」
「はい!」「はーい。」「うん。」
よし、うまく話せたな。
Perfect communication!
朝食の片付けを終え、ソファでミーナさんと蜘蛛さんの襲撃を受けていた時、スズリさんが到着。タイミング良すぎかよ。この家を監視されてる?
彼女は今日も背筋を凛と伸ばし、綺麗にお辞儀をしている。
「おはようございます。今日はお願いします。」
「はい。よろしくお願いします。お祝いが遅れました。今回の爵位の授与、おめでとうございます。」
「いえ。ありがとうございます。」
と、そこでサラさん達が出発するらしい。
「お気をつけて。」
「はい!行ってきます!」「行ってきます。」
軽く手を振って見送る。
何事も無ければいいんだけどな。
「サンジョーさん、そちらは?」
そう言うスズリさんの視線の先にはミーナさん。あ、そうだった。初見か。
「彼女は竜王国の王女、ヴィルヘルミーナ・サバスン・ドラゴンロードさんです。例の呪い憑きの件のドラゴンです。」
「あは。死にかけてましたー!」
その紹介を聞いてスズリさんは跪く。
そんなことしても無駄だよ。この王女はダメな方だから。
「それは失礼致しました。竜王国の姫君とは…。私はスズリと申します。」
「スズリちゃんね?よろしくね。」
「よ、よろしくお願いします。」
挨拶を終えるとスズリさんは俺を外に引っ張って話す。
彼女の焦っている表情は久しぶりに見た。
「サンジョーさん、これはどういうことですか?」
「王城前広間でドラゴンが不法入国した件をご存じですか?」
「はい。」
「あの後私は竜王陛下に謁見しました。」
「っ!?聞いていませんよ?」
「言っていませんでしたね。ご存じのものかと思っていました。」
「これを知っているのは?」
「バードック商会の方と私の家の者だけですかね。」
「はぁ…。」
話を聞いてスズリさんは呆れ顔。なんかまずったかな…。
「竜王国の王族は逆鱗がよくわからないことでこの国では有名です。過去の件から触れることのできない問題でした。」
「そうなんですね…。」
貴族がやらかした件か。
「それで?どうしてこちらに王女が?」
「ミーナさんと呼んであげてください。いろいろとありまして、陛下に私の嫁にと送り込まれました。これは彼女の呪いも要因の一つですので、嫁という話は保留にしていますが、こちらで過ごしてもらっています。」
「それ、エメリーが聞いたらどうなるか分かりませんよ?」
「どうにかしようと思います。」
スズリさんの会話の隅に隠れたエメリーとの仲の良さが見えてうれちい。
「はあ、とりあえず始めましょうか。」
「はい。お願いします。」
そう話して家の中に入る。それから昼後までみっちりと教えて戴いた。
基本は元の世界の礼儀作法とは変わらない。土下座というものはなかったが、新しい知識を沢山覚えることにはならずに済んだ。
途中からミーナさんは寝ていた。寝る子は育つというのは彼女の胸が物語っている。
そして、明後日の授与式後のパーティではクラフト伯の派閥の方が来られるとのこと。
クラフト伯は第一王子派閥だが、エメリーが王位継承戦から降りるということが陛下より伝えられ、俺の移住の件を飲んでくれたようだ。クラフト伯の領地はここからそこまでは遠くない。プレウラ王国の王都ほどではないが、なかなかの規模の町だそうだ。
俺の男爵化はなぜか第一王子派と第二王子派の両方から支持されたようで、エメリー擁立派の少数が反対している状況だそうだ。
権力関係の知識は乏しいので、深く考えることはやめた。分からん。
サラさん達は昼頃に帰ってきた。ダースさんの返答はOKとのことだ。いい飲み会になるぞ。
スズリさんはミーナさんの一件をエメリーにチクると言って家を後にした。
こわいよう。
その後俺は昼食をとり、町に出る。
バードック商会では従業員の方達に飲み会の情報を伝えた。
飲みたいだけのめ、奥さんも来てもいいよと伝えると彼らは大盛り上がりしていた。
ノリのいい奴らだ。
サザビアでは近況の報告をし、魔道具の件はもう少し先になるだろうと謝罪した。
アイリちゃんが少しがっかりしていたのが胸に刺さった。俺の行動が原因でこのような結果になったのは本当に申し訳ない。
現在の情報を共有して店を後にした。
その後、冒険者ギルドへと向かう。ロッドに話がある。
そこで見かけたロッドは依頼から帰ってきたばかりのようで、奥さんたちと居た。
「ロッドさん。」
「おお、サンジョーさんか。」
「帰ってきたところをすみません。少し話があります。奥さんたちも一緒で。」
「おう、良いぜ。」
そう伝えると彼は奥さんと共にテーブルにつく。ここに来たのは彼のスカウトのためだ。
「さて、まず、ここのところ忙しくしておりまして、報告が遅れました。明後日、陛下に男爵の地位を賜ることになりました。」
「はあ!?だ、男爵か?」
「ええ。」
「そ、それは…おめでとう、ございます?」
その報告を聞いて彼は驚く。だろうね。俺も信じられんもん。
ロッドは友達だから敬語はやめてね。
「敬語はやめてください。私はロッドさんの同志ですよ?」
「あ、ああ。そうだな?」
「はい。そこで、私はクラフト伯の領地にて暮らすことになりました。屋敷にて暮らすことになります。」
「はあ、そりゃすげえな。」
「で、ロッドさんも一緒に来ませんか?」
「は!?」
「私はクラフト領に行くとなると知り合いがいません。私の家の者たちの安全を信頼して任せることのできる人がいないのです。なのでロッドさん達に警備をお願いしたいのです。」
「はあ…。」
「…というのは建前で、私はロッドさん達と一緒に居たいのです。ロッドさん達にはお世話になりました。なので恩返しがしたいのです。奥様方と安心して暮らせる家で、私のお手伝いをお願いできませんか?」
「ふむ…。ちょっとこいつらと話してもいいか?」
「はい。」
そう言うと彼は嫁たちと話し合いを始めた。邪魔にならないようにテーブルを離れてカウンター席に行く。そこでウィスキーらしきお酒を頼んでストレートで頂く。うまい。
10分ほどするとロッドに呼ばれた。
戻ると奥様方にボコボコにされていた。
「えっと…どうされました?」
「サンジョーさん、あのな…。」
「黙ってて。」
そう言ってロッドの話を遮ったのは初めにシェフィと紹介された女性。エルフの奥さんだ。
「私たちはサンジョーさんに付いて行くよ。」
「良かったのですか?」
「ええ。ロッドったら、サンジョーさんの必要とする力に及ばないとか言い出してさ、辞退するつもりだったんだよ。」
「それは…。」
「ロッドは肝心なところで弱腰だからね。だからあたし達がボコった。」
勝気な奥さんだこと。
「それはまあ、なんとも。」
「あたしたちはサンジョーさんに恩を感じてるんだ。ロッドとも仲良くしてくれてるしね。何よりロッドと同志?でしょ?」
「はい。」
「じゃあ付いて行くよ。あたし達もクラフト領で力を磨くよ。これは妻たちの総意ね。ロッドは勝手についてくる。」
「あ、ありがとうございます。」
ロッド…お前尻に敷かれるタイプだったんだな。なんかごめんね。
「ロッドさん、よかったですか?」
「ああ。俺が尻込みしちまってた。こういう時に助けてくれるのがうちの嫁だ。俺たちはサンジョーさんの力になるぜ!」
「ありがとうございます。」
やった。仲間と一緒に心機一転だ。
彼らには自分の家が無いと聞いて、一緒にどう?くらいの気持ちで誘ったのだが、ここまで信頼してもらっているとは嬉しい限りだ。
その心を裏切らないように精進しよう。
その後、現在の情報を共有して冒険者ギルドを後にした。
家に帰ってロッド達の同行を皆に報告。
ミーナさんは初見だが、簡単に説明すると理解したようで、みんなは二つ返事で了承してくれた。
次の日は忙しい始まりとなった。
飲み会は昼からの開催となるために、サラさんが手伝いに朝から緑人の風へ向かった。
そのため、童貞は朝食を作って二人を起こす作業にかかる。
リンネさんの部屋の扉をノックする。起きてないなあ。これは中に入らないとなぁ。
ニチャア…。
ガチャリとドアを開けて入る。寝てる。
いい香りがする。胸いっぱい吸い込んで世界に感謝する。
彼女をゆすって起こす。
「リンネさん?」
「…んんん」
髪がえぐいことになってますよ。あ、どえらい胸が見える。やはりいつも服で締め付けて、隠していたんですね。でも童貞の眼は欺けません。
息子が臨戦態勢。
「リンネさん?早く起きないと色々してしまいますよ?」
「……。?」
呪いのせいで出来ないけどね。
あ、起きた。目が合いましたね。おはよう。今日も綺麗ですね。早く起きないとねっとりとしたキスで起こしますよ。
とセクハラをしようにも彼女の眼が少しずつ閉じていく。
「今日はサラさんがいないので私が来ました。」
「…分かった。…起き…る…。」
と言って眠る。このねぼすけちゃんめ。
このままでは起きないと踏んだ童貞は彼女を抱えて2階を下る。息子の主張が激しい。前かがみで運ぶ。いい香りだ。リンネさんは少し体温が高い。きもちいい。
俺のステータスの筋力を総動員して彼女を運び、ソファに降ろす。
「はあ…はあ…。」
「重くない。」
「そうですね。リンゴくらいの重さでした。」
「うるさい。」
その言葉をスルーして次の標的に向かう。ミーナさん。
サラさんの部屋に入る。2回の部屋よりも大きい。
リンネさんとはまた違ったいい香りがする。世界に2度目の感謝。
ベッドの上で腹を出して寝ているミーナさん。竜王族の威厳はどこに?
そんな彼女をゆすってみる。
「ミーナさん。ミーナさん。」
「あああー。少年~。」
「目が明いてませんよ?起きてください。」
「夜這い?」
「朝です。」
こいつ実はちゃっかり起きてるんじゃないか?
「起こして~…。」
「はい…。」
彼女の手を引っ張って上半身を起こす。
「起きました?」
「うん。」
よし。と思って部屋を出ようとすると背中に思いっきり組み付かれた。
「やはー!騙されたな少年!」
「ちょ、ちょっと!」
「少年が来たからすぐに起きたよ~。ほめて!」
「え、えらいですね。」
そして背中に押し付けているその胸はエロいですね。
がっちりと組み付かれたその体勢はおんぶ状態。そして彼女は太い尻尾を俺の腰に巻き付けている。動きづらっ。
息子を押さえつけないで。絶対わざとやっているでしょう。
サラさんはこんな大変なことを毎日やっているのか。さすがだ。
ミーナさんを背負ったままリビングに行く。
完全に大きな子供が二人できてしまった。世のパパさんはこんな気持ちなのか。
「朝食ですよ。」
と、降ろそうとしても降りてくれない。朝食は温め直しだな。
諦めてリンネさんの座りながら寝ている横に腰を下ろす。
背中に大きな女性が引っ付いた状態で座るソファは柔らかい。
「リンネさん、助けてください。」
「…んん?」
と、目が明く。
この後ろの大きな子供をどうにかして。助けて。
その心を読んでリンネさんは助けてくれる。こともなく俺の膝を枕にして寝る。
ほっぺにあれを当てますよ。
それを見届けると、後頭部からもいびきが聞こえる。うわ、舌が垂れてきた。今は嬉しくない。
誰か助けて…。サラさん…。あっ、蜘蛛さん!?見て見ぬ振りしないで?
朝から大きな子供たちの相手をして無理やり朝食を食べさせた。
目を完全に覚ました二人は、恥ずかしそうにしているリンネさんと、していないのがミーナさん。
「いやー、変温の生き物は朝が弱くてねぇ、少年ごめんね。」
「あれ、蝙蝠って変温でしたか?」
「いや、リンちゃんは普通に朝に弱いだけじゃない?」
「で、ですね…。」
それを聞いてリンネさんは顔が真っ赤。
眼でやめてと訴えてくる。
顔が真っ赤で可愛いですね。朝に弱いということは夜には強いのでしょう。ぜひとも襲ってもらいたい。一緒に種族復興しませんか?
マインドセクハラを繰り返すと、彼女は自分の部屋に逃げていった。
ミーナさんに話す。
「さて、今日は昼から緑人の風に行きますよ。私は明日があるのであまり飲みませんが、ミーナさんは楽しんでくださいね?」
「え?うん!」
そんなやり取りをして昼を迎えた。
緑人の風に集まったのはたぶん30人くらい。当初の予定よりも多くなってしまった。
酒場は人で埋まり、少し手狭。
リンネさんとミーナさんはすぐ横にいる。安全上の理由で今回はエメリーを呼んでいない。ごめんよ。
ダースさんに感謝を告げる。
「ダースさん、本日はありがとうございます。大勢になってしまいましたが、よろしくお願いします。」
「なに、兄さんのお願いだぜ?楽しんできな。」
「ありがとうございます。」
テーブルには料理が並び、お酒もたくさん。もうすでに飲み始めている人もいる。ここは開始の合図をしておこうか。
「えー、皆様、本日はお集まりありがとうございます。」
その言葉で酒場が静まる。
「今日は飲んでいってくださいね。すべて私が持ちますので、楽しんでください!」
うおおお!と男衆が叫んでいる。そこからは飲めや歌えやの祭りとなった。
俺も昼からお酒を飲む。サラさんはちびちびと果実酒を飲み、ミーナさんはエールをがぶ飲みしている。
俺のところにはいろんな人が挨拶に来てくれた。ガルドさんも来てくれて、嬉しかった。アイリちゃんは今日は留守番らしい。
酔って早くからつぶれた人たちにヒールを掛けて回る。
リンネさんが俺にピッタリついてくる。
「リンネさん、ここは人が多いですが大丈夫ですか?」
「うん。まだ大丈夫。」
「目を閉じたくなったら言ってくださいね。サポートします。」
「うん。」
こういう場所が彼女は苦手だ。でも付いて来てくれた。その心に報いたい。
ロッドも奥さんたちと楽しそうに飲んでいる。嬉しいね。
サラさんが忙しそうに走り回っている。また後で声をかけようかな。
多くの人がつぶれていく中で諸悪の元凶を発見。ミーナさん。
飲み比べで多くの人に勝利している。頼むからつぶれないで。介抱する側の辛さは元の世界で嫌というほど体験している。
行きたくもない飲み会で幹事をさせられ、飲みつぶれた人たちのゲロを手で受け止める。そんなことは嫌だ。
そんな彼女に声をかける。
「ミーナさん、かなり飲まれているようですが、大丈夫ですか?」
「え?うん。私はお酒くらいじゃ酔えないから。」
「え?そうなんですか?」
「うん。私、厄疫の竜だよ?」
「本当ですか?」
「うん。でも、呪い憑きの毒は中和できなかったんだ~。えへ。」
「それは…。不運ですね。」
ミーナさんってば、厄と病のドラゴンかよ。確かに運は悪いよ。
ドラゴンらしいところを飲みの席で初めて体験した。
その後も彼女は数多の人たちをつぶし、会場の人間はどんどん数を減らしていった。
酔いを解除されて帰宅していく人たち。今日はよく寝れるでしょうね。
飲み会も落ち着き、会場に残る人も少なくなっていった。
そうなると俺はサラさんの手伝いに回る。リンネさんも手伝ってくれた。
ミーナさんは酔いとは別で疲れて眠っている。二階の部屋を借りてそこに寝かせた。
サラさんと食器を洗いながら話す。
「今日は大変でしたね。」
「ええ!でも楽しかったですよ?」
「そうですね。」
「今日の売り上げはこの宿立ち上げ以来、最高になるってダースさんが大喜びですよ。」
「はは…それはよかったです。」
乾いた笑いが出る。一体どれだけ飲んだのだろうか、あの貪食なドラゴンは。
童貞はサラさんに続ける。
「今日、サラさんがどれほど大変かを体験できました。」
「え?朝ですか?」
「ええ。彼女たちを起こすのは大変でした。」
「ああ…。でも私の時は素直に起きてくれますよ?」
「はは。私は遊ばれていたのかもしれませんね。」
「そうですね。」
その会話はリンネさんに聞かれていたのであろう。会場の片づけをしている彼女の視線が来る。
リンネさん?俺で遊ぶのは楽しいかい?はは、冗談です。
「今日はありがとうございます。」
そんな会話をしながら飲み会はお開きになった。
早めに始めたこともあって、夜遅くなる前に家に帰ることが出来た。支払いは驚く金額だったが、ミーナさんの嫁入り道具もあってか、そこまでの負担にはならなかった。貯蓄は多くある。使う時は使おう。
なお、ミーナさんはその後も寝続け、童貞が背中に背負って帰った。相も変わらず尻尾は腰に巻き付き、動きにくい帰宅になった。
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