第9話 ざっくり混ぜる
「あ、おはようゆーにぃ♡」
「夜中じゃ今」
「じゃあこんばんわゆーにぃ♡」
「とりあえずどけ」
「やだ」
だよね知ってた。素直に従うとは、はなから思ってない。言ってみただけってやつだ。
目を覚ますと姪が僕の上に乗っていた。夕飯の時に来ていた制服から着替えてないところから見て、風呂に入ったり日を跨いだりはしてないみたい。
昨日の反省を生かし、今日はホラー映画をループし、飲めないブラックコーヒーを夜に飲んでカフェインの力を借り乗り切ろうと思ったが、愛奈甘の方が一枚上手だった。
「本当はすぐにでも、玄関入ってすぐにでもこーゆー事したかったけど……、イイトコで邪魔が入るの嫌だから、確実性を求めてたら夜になっちゃった♡」
「何の確実性だよ」
「妊娠の確実性♡」
「…………………………」
頭逝ってるぞこいつ……。
「あぁ、安心してねゆーにぃ。みく姉には『2人で映画見るから』って言ったから、邪魔は入んないよ〜鍵も閉めたし」
「…………………………」
チラッと自室のドアノブを見ると、なぜか南京錠が付いてる……。犯人は分かってるけどさ。
帰宅後、珍しく僕を押し倒さなかったのは、つまりそう言う事。確実に長い時間が確保できて、確実に邪魔が入らず、確実に僕の抵抗ができないようにするため。
「大変だったんだよ?ご飯の時間と、薬の効果時間と、ゆーにぃがここに来る時間を計算して、お風呂後の一番リラックスする時間にピンポイントで効くようにするの、すっっっごい大変だったんだよ?褒めて褒めて♡」
「その能力を人様の役に立つように使って欲しかったね」
おそらくあの麦茶に入っていたんだろう。僕以外の家族には薬が効いていないのは、コップの底に薬を入れて、僕のコップのみ薬入り麦茶を完成させた。
他の料理(カレーや簡易サラダ)は目の前で取り分けていたから油断していた。爪が甘いのは僕のようだ。
「とりあえずキスをしましょう」
「断る」
「今のゆーにぃに拒否権はないよ」
「歯磨きたいんですけど」
「私が磨いてあげる」
「………自分でやるから手錠外してくれない?」
「ちゃんと水入りのペットボトルと
「日本語通じてる?」
「流石に寝たままは危ないから起きてゆーにぃ」
「……………………………」
起きてと言う割に、僕のへそ周りから退こうとしない愛奈甘に、2回目の「どけ」を発動し、愛奈甘は嫌そうな顔をして太ももあたりに座り直す。降りる気は無い様です。
腹筋を駆使して起き上がり、背中で潰されていた両腕に少し自由を与えるも、歯磨きができる口元までの可動域は与えられない。
「ゆーにぃはクリアク○ーンだよね?」
「待って、それ僕の歯ブラシじゃないんだけど」
「私の歯ブラシ」
「…………………………………」
本来なら目覚まし時計と照明が置いてあるはずのスタンドテーブルに、僕のじゃないピンクの歯ブラシと、棒メーカーの歯磨き粉が置いてある。
「あーん」
「…………………………………」
「素直でよろしい」
正直嫌だけど、すっごい嫌だけど、僕は口を開けた。赤の他人の歯ブラシではないし、一応身内だし、歯を磨いた後はみんな洗うし、多少は綺麗な筈だし、何より寝起きで口の中が気持ち悪いし………。
背に腹はかえられぬ。
と思った自分がバカだった。
「あはは〜……やっと気づいた?」
「………………………………」
「感じてる感じてる……ゆーにぃ、すっごく可愛いよ〜♡」
「………………………………」
「体の外側じゃなくて、内側からめちゃくちゃにされるの、とっても興奮するでしょ!?」
人に歯を磨かれるというのは、結構「来るもの」がある。
ブラシの一本一本が歯を擦り、奥まで入っていく。舌や歯茎の神経が通っているところはダイレクトに感じる。
こそばゆいと言うかなんと言うか、本来なら自分で手入れする場所だから、そこまで意識していなかったけど。
気持ち良さが尋常じゃない。
「自分の中に入れられる気持ちわかった?詰め込まれる気持ちわかった?女の子の気持ちわかった?」
皮膚で覆われていないデリケートな部分を、ブラシで遊ばれている。
舌は「舌磨き」という道具があるから、歯ブラシで磨くことの無い部分だが、愛奈甘は歯ブラシでそこも攻めてくる。
特に舌の裏側、食べ物すら当たらない場所を重点的に、「シャカシャカ」と擦ってくる。
キスした時の、絡み合う感じとはまた違う、感じたことの無い感覚に、思っても見なかった快楽に……、
「ぐっちゃぐちゃの、めちゃくちゃにされる気持ちよさ、ゆーにぃに教えてあげる………」
「…………………………おあい」
終わりと言って、終止符を打つ。
「………むむむ。さすがゆーにぃ、この程度では堕ちないか………」
頭がどうにかなりそうなのを堪えて、歯ブラシを噛み、これ以上好き勝手させる気はないと意思表示する。
愛奈甘は歯ブラシから手を離したので、そのまま歯ブラシを咥えて、水を要求。顎でペットボトルを「よこせ」とサインし、中の水を口に含んで、口を
「はい。ぐちゅぐちゅ〜、ぺっ」
「……………………………………」
「哺乳瓶でお乳飲んでるみたいで可愛い〜♡」
「……………………………………」
ペットボトルの水飲まされてる(口に入れさせられている)だけなのに心外だ。そして惨めだ。
「この水も本当なら飲みたいし持ち帰りたいとこだけど、今日は我慢してあげる」
「………そりゃどーも」
歯磨き粉と僕の唾液が混じったペットボトルの水を、うっとりと見つめる愛奈甘。
タオルで口を拭かれ、そのタオルを顔に埋める愛奈甘を見て、眉を
「だって……」
「んっ!?」
「ッ…………ン……………えへへ♡………だって、すぐ濃いの貰えるもん♪」
また、互いの口から糸が引かれる。
顔と顔が近づいてくっ付き、逃げようとする僕と、逃がすまいと押す愛奈甘のせいで、頭部はベットに押し付けられ、昨日のチョコを食わされた時のように、深いキスをした。
チョコは無かった。しかし、とても甘かった。
「昨日は不意打ちだったけど、今のは違うよ。歯を磨いてからっていう『ゆーにぃの要望』に応えてからだから、つまり無理矢理じゃないんだよ?」
「暴論だ」
「あれ?ゆーにぃは無理矢理の方が好きだっけ?」
「手錠外したがってる時点で気づけ」
「ドSなゆーにぃも興味あるな〜♡」
とろんとした瞳で僕を見る愛奈甘だが、
「でも今日はダメ」
その瞳には、本能に抗う意思があった。
いつもの無垢な笑顔も、欲望に染まった狂気な笑顔も、嫉妬や怒りを封じるための笑顔も、そこには無く、全く別の笑顔をしていた。
でもその笑顔は、どこかで見た気がする。
「少し強引だけど、今日しないとダメなの」
ブレザーを脱ぎ、カーディガンを脱ぎ、制服のリボンを解き、ボタンを上から順に外していく。
「『私に振り向いてからキス、その先は正式に付き合ってから』って決めてたけど、仕方ないの。あの女に取られるくらいなら…………」
ボタンを外し終え、スカートのチャックが「ジジッ」と開く。
「昨日も言ったけど、私、本気だし……前にも言ったかもだけど、高校中退したっていいの」
淫らな格好をした姪が、僕の腹部に座り直す。
今回はいつもと訳が違う。気づいた頃には時すでに遅い。
すらっとした、細くて白くて綺麗なその指が、舌先に触れて、僅かに糸を引く。
「ゆーにぃと一緒に居られるならね……♡」
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