ダークビターホワイトチョコレート

自立したアホ毛

第1話 苦過ぎる砂糖

 自慢じゃないが、僕「栗花落つゆり 佑暉ゆうき」は童貞だ。


 愛した人に捧げたいとか、恋愛に興味がないとか、幼い頃の夢を叶えるべく「30を超えて魔法使いになりたい」とか、そう言った話じゃなく、本当に、笑い話じゃなく、童貞である。いっそ笑い話で片付けてもらえたら、なんて思うが。


 そして彼女いない歴=年齢の、女の子と手を繋いだことすらない重傷な高校三年生だ。「まだ若いだけマシ」と言われるかもしれないが、このままだと今後一生、僕は独身で終わることになる。


 別にそれ自体はいい。最悪、一生独身でも構わない。


 最悪なのは……、


「ねぇねぇ、今年は何がいいと思う?」

「黙れ。何もないのがいいに決まってんだろ」


 廊下を走るなというルールに従い、競歩並みの早歩きで廊下を歩き階段を降り、貴重な昼休みを割いて振り払おうにも、粘着質なストーカーはなかなか逃してくれない。


「みんなにも『ゆーにぃ』は私の物だってアピールしたいし〜、いつもより派手で目立つチョコにしたいんだよね〜」

「知らん。てか要らん」

「あっ!私の体液入りとかどうかな?インパクト抜群で、めっちゃいいと思うんだけど!?」

「『どうかな?』じゃねぇ!お前何言ってるかわかってんのか!?」

「何って、誘惑兼…………プロポーズ?」

「こんな求婚あってたまるか」


 むしろ嫌がらせの類だ。


 最悪なのは、こいつに今後一生永遠と付き纏われる事。


 先程、彼女いない歴=年齢の童貞と説明したが、不特定多数にモテないだけで、好いてくれる人はいる。


 それはもう「好いてる」のレベルに留まらず、恋や愛とかの次元じゃなく、倫理とか世間体とかガン無視して好いてくる、言ってしまえば頭のイカれた自称僕の彼女がいる。


「それにさそれにさ、私たちもう結婚できる年齢なんだよ?私16でゆーにぃが18。ね?昔の口約束じゃなくて、国の法律の下で、正式に、S○Xしたり赤ちゃん作ったりしていいんだよ?何が問題なの?」


「問題しかねぇんだよ!もう16なんだから、僕のことを『佑兄ゆうにい』って呼ぶのやめろ!」


「ゆーにぃはゆーにぃだよ?あっ、これからは『旦那さん』って呼べって事か〜!も〜、恥ずかしがり屋なんだから〜…………きゃっ♡」


 一人でデレデレし、有頂天になりながらも、早歩きで廊下を走る僕の後ろにぴったりくっつき、挙げ句の果てトイレに逃げ込もうとしても、カップルの腕組のように僕の腕をガッチリホールドし、「逃がさないよ〜♡」と言う少女。


 カーディガンとワイシャツ越しに、少女の体温と、女性特有の柔らかさが伝わるも、僕が感じ取ったのは、身の毛がよだつ嫌悪感と、おぞましさが混ざった恐怖感。


「手を、腕を離せ…………。さもなくばトイレ前で漏らす事になる」


 花を積むのではなく、こいつを引き剥がす為に入るトイレだが。


「大丈夫。ゆーにぃのおしっこなら飲める!」

「何が……どう……大丈夫なんだよ!」

「何だったら男子トイレぐらい入ってもいいよ?個室なら中でナニしてもバレないし」

「何もナニもねぇよ!今後一生、どんな事があろうとな!!」

「むしろ私としては願ったり叶ったりかな〜。ゆーにぃの愛を感じて、既成事実も出来て赤ちゃんも出来て、最高だね!」

「誰がお前みたいなガキとヤるかっ!?」


 男子トイレの前でなんて事言ってんだ。なんて事言わせんだ。


 そもそも、僕はこの少女の兄では無い。


 少女の名前は「紗藤さとう 愛奈甘まなか」。高校一年生のくせに生意気なスタイルをしていて、発育の遅い女子生徒に妬まれ発情期の男子生徒に追われ、校内では良くも悪くも有名人。


 頭脳明晰、博学多才、才色兼備。唯一の欠点を除けば完璧超人だ。


 そんな少女にとって、僕との関係は兄ではなく、そもそも兄弟姉妹、従兄弟やはとこ、ましてや旦那さんでもない。


 「伯父」だ。


 この女から見て、僕は「伯父さん」で、


 僕から見たら、この女は「姪」だ。

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