「欲しいと思えば何でも手に入れる!それが強欲だ!」「はいっ、師匠!」
「さぁ、強欲を満たすための魔法のお時間だ! 準備はいいか、我が弟子?」
「はいっ! 今日もよろしくお願いします、師匠!」
この世界では、魔法を扱うためには己の中で『テーマ』を決めなくてはならない。
願望、欲求、理念、追い求める思想、価値、憧れ。テーマにすることはなんでもいい。
ただ、己の中で『渇望している』ことをテーマにすれば、魔法は事象として現世に影響を与えることができる。
ただし、テーマは魔刻《ララ》と呼ばれる刻印によって己の体内に刻み込む。
それは、一人に対して一回。つまり、テーマは一度決めてしまえば覆すことはできないのだ。
それを極めた者────一定の基準値に達した者を『魔法士』といい、その者達は世界からは尊敬の眼差しを向けられる。
故に彼らを称え、皆は魔法士になった者に『者』という称号を与えた。
『正義者』、『慈愛者』、『調律者』、『平等者』、『采配者』など。
その存在は、テーマの数だけ存在している。
そんな魔法士の中で、欲望を追い求めた一人の魔法士の男が存在していた。
その男は────
「『強欲者』、サク・ガーネット」
欲の象徴ともいえる『強欲』をテーマに魔法を極め、魔法士として生きてきた男。
常に自堕落な生活を送り、あらゆる物を欲する欲に満ちた性格をしている男は、少しばかり外れた存在であった。
そんなサクの下に、一人の少女が弟子入りを志願してきた。
「アンナですっ! 私を、弟子にしてください!」
ミスリルのような銀髪に、愛嬌のある顔立ち、小柄な体躯に少しばかり発育した姿。
一言で言えば、少女の姿は正しく『天使』のようであった。
そんな少女が弟子入りを志願した時、サクは驚いた。
何せ、この世界の魔法はテーマによって魔法が違ってくる。
誰かに師事しようとしても、テーマが違えば扱う魔法も違い、教えることも教わることもできないからだ。
つまり、師事してきたということは────
「……お前、強欲をテーマにしてんの?」
「はいっ! 師匠と同じ強欲です!」
こんな可愛らしい子がどうして、などと思いつつも、サクは弟子入りを断る。
だが、アンナは何度もサクに弟子入りを希望し、アンナが過去に助けた少女だと知り、サクは諦めて弟子にする。
それから、サクの魔法を教わりながら徐々に距離を縮めていき、楽しい日々が続いていくのであった。
アンナは魔法士になりたい。
その理由は────
「私の親を殺した盗賊を見つけ出すんです……」
これは、欲をテーマに二人が送る、師弟関係という少し甘い物語。
「さぁ、魔法士の俺が本当の強欲を教えてやる。それが、俺の《《テーマ》》だからだ」