少女と青年の回想①
サクの家は近くの街から離れた草原のど真ん中にある。
ここ近辺は魔獣が苦手とする山菜や薬草が豊富に生息している場所であり、街から離れていても魔獣の心配はない。
だからこそ、サクはこの場所に有り金全部を叩き、大工を雇ってマイホームを建てたのだ。
おだやか、のんびり、静けさというベストマッチは正に快適空間。
食料さえ買い込んでしまえば、自堕落な生活を謳歌することは可能。
更に、街から離れているとはいえ、サクには取っておきの移動手段が存在するため、距離も苦痛ではない。
故に、不憫に思うことはなかった。
「すみませーん!」
────五ヶ月ほど前。
そんな場所にあるサクの家に、一人の少女が訪れた。
玄関扉を叩くその姿は少し強ばっている。
きっと緊張しているのだろうが、同時に浮ついた足が楽しみにしているとも物語っていた。
「すみませーん! サクさん、いませんかー?」
だけど、扉を叩いても一向に返事が来る気配はない。
そのことに、首を傾げる少女であった。
「あれ? おかしいなぁ……この時間ならいるってカーミラさんから聞いたのに」
地図を広げ、小さなリュックを背負いながら睨めっこをする。
場所は間違っていないし、聞いた時間にも訪れた。それなのにいないということは、どこか出かけているのだろうか? そんな疑問が浮かび上がる。
「せっかく会えると思ったのになぁ……」
しょんぼりと肩を落とす。
このまま待っていてもいいのだが、いつ帰るかも分からない現状、居座ってしまえば帰る時間を見失ってしまう可能性もある。
「帰ろうかなぁ……」
いつまでもいてしまえば迷惑をかけてしまうかもしれない。
そう思い、少女は回れ右をして来た道を戻ろうとした。
その時────
「おっきな……木?」
視界の端に、一際目立つ大木を発見した。
目立つぐらいの大きさだからなのか、その存在感は半端ではなく、思わず立ちど待ってしまうほど。
「どうせ来たんだし、行ってみてもいいよね」
そよ風が少女の銀髪を靡かせる中、少女は大木に向かって歩き始めた。
♦♦♦
(……いたっ!)
少女は目を輝かせる。
それは間近まで辿り着き、圧巻と思わせる大木の姿にではなく、その大きくて太い枝を見てであった。
何の変哲もないただの一本の枝。
だけど、そこには器用に横になって寝息を立てる一人の青年がいたのだ。
その青年こそ、少女の探していた相手。心の中で確信が生まれる。
「あのー! すいませーん!」
少女は大声で叫ぶ。先程まで緊張感が顔に張り付いていたのだが、今となっては嬉しさによって掻き消されている。
「んむ……ぁ?」
青年は声に気づき、変な声を上げて声のする方を向く。
(間違いない! サクさんだ!)
顔を見て確信に至る。
何度も顔を合わせているわけではない。一度だけ……ほんの一度だけ、顔を合わせたことがあるぐらい。
だけど、その一度がとても印象深くて────
「サク・ガーネットさんですよね!? 合ってますよね!? 間違いないですよね!?」
「ん……あ、あぁ……そうだが?」
青年は、半朧気な意識でかろうじて返事をする。
青年の中に、「誰だ、こいつ?」という疑問が浮かび上がるが、少女のテンションによって遮られる。
「やっぱり! 私の目と記憶に狂いはありませんでしたっ!」
明るい子だなぁ、というのが青年の第一印象であった。
それと同時に────
(すっげぇ美少女じゃん……)
その姿は、圧倒的までの美少女と呼べるもの。
はて、こんな可愛い子知り合いにいたかと、首を傾げる青年である。
「サクさん! 私を弟子にしてください!」
だが、少女の発する言葉によって、疑問は完全に掻き消されてしまった。
(何言ってんだ、こいつ?)
考える必要もない。青年の出す答えは────
「断る」
「どうしてですかっ!?」
青年の言葉に、少女は驚く。
「いや、だって弟子って何に対してだよ? 俺は言うが『魔法』以外取り柄のない男だぞ? そんな男に教えられるものがあると思うか?」
「魔法を教えられると思います!」
「おいコラ、魔法は論外だろうが」
このご時世で本当に何を言っているんだと、青年の少女を見る目が残念な子に変わっていく。
「大丈夫ですよ、サクさん! これを見てください────」
少女は腕を捲る。
そこには
「私のテーマは『強欲』です! これなら、サクさん────いえ、師匠に教えてもらうことも可能ですよ!」
「誰が師匠じゃ、やめんかボケ」
もー、なんでですかー! と可愛らしく怒る少女を見て、青年は目を細める。
(強欲ねぇ……? こんな可愛い子が本格的に残念な方向に走ってしまったか……)
強欲とは、人の罪の象徴。欲にまみれた証である。
そんな言葉をテーマ定めてしまえば、彼女はそんな道を歩むということになる。
可愛らしい見た目をしているからこそ、真っ当な道でも十分幸せになれただろうに────そう思わずにはいられなかった。
「たとえお前が俺と同じテーマであろうが、俺は弟子にする気はねぇよ」
「そんな!?」
青年の言葉に、少女は明らかなショックを受ける。
明るかった雰囲気も、今の一言で沈んだものになってしまう。
「(い、いや……ここで諦めたら魔法士になんてなれない! 私は魔法士になって、お母さん達の仇をとるって決めたんだから!)」
しかし、少女は頬を思いっきり叩くと、落ち込んだ表情を戻す。
(それに、サクさんだから……私の恩人の人だから、絶対に協力してくれるはず! っていうか、私はサクさんから教わりたいんだもん!)
だから、少女はありったけの声で青年に向かって叫んだ。
「私、師匠が弟子にしてくれるまで、ずーっと居座りますからねぇ!!!」
「おいコラ、それはやめろ! 誰の許可があって俺の自由時間を奪うんだ!?」
────これが、少女と青年の二度目の出会いであった。
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