街に到着

 それから一悶着こそあったものの、今までの行程を同じように歩き、ようやく初めの街まで辿り着くことができた。

 サクが歩きながら排出リソースの魔法の成り立ちとイメージをアイラに教えていたり、ソフィアはゆっくり馬車の中でくつろいでいたりと、魔獣に出会うことなく何も問題は起こらなかった。


 しいて問題を挙げるのであれば、騎士達がサク達のことを何も言わなくなったことだろう。

 唖然としていた面々。騎士は、剣を武器に戦うことが多く、自然と接近戦が多くなる。


 だからこそ、サクが遠距離で仕留めたしまったことにより活躍の場面はなかったのだが、いかんせんサクの魔法が強烈すぎた。

 事が終わった後の騎士達の頭に浮かんだのは「あれに対抗できるか?」ということ。


 息を着く間もなく排出される槍の雨に、自分達が適う姿が想像できなかった。

 故に、実力差と恐れを抱いてしまったことによって何も言えなくなってしまったのだ。


 その様子を見て、アイラが自慢げに胸を張っていたのは、また別の話。


「師匠、魔法士って厳しい世界なんですね」


「いきなりどうした、我が弟子?」


 初めの街────サク達が拠点としているセレスタ領。

 その領地に入る前の検問の最中、サクの隣にいるアイラが何故か遠い目を向けていた。


「私、明日筋肉痛になるビジョンが見えますよ。誰ですか、隣町まで歩かせたのは? 訴えてやりましょうか?」


「訴える相手なら馬車の中でくつろいでいるだろうな」


「友達の縁を切ってきます」


「待て待て、早すぎるしソフィアが号泣する」


 アイラが嘆いてしまうのも仕方ない。

 セレスタから王都までは一日もかからず辿り着ける距離ではあるものの、歩いてみれば結構長い距離にある。

 それを馬車を使わずに来たとなれば疲労も溜まる。アイラはついこの前までは普通の女の子だったので、訓練を受けていたわけでもなく体は貧弱。


 サクと王都に来た時は強欲の魔法────搾取スペイアを応用してここまで来た。

 応用というのは、対象物を引き寄せるのではなく対象物に自分を移動させるというもの。

 これによって、サク達は歩くことなく引き寄せられることによって距離を稼いでいたのだが、これは別の話。


 というわけで、ここまでしっかりと歩いたのが初めてなアイラは、既に限界値に達していたのだ。


「依頼によっては変わるが、魔法士でも体力と筋力は必要だぞ? そんなのでへこたれていたら魔法士になんてなれん」


「ぶー、師匠にそう言われたら頑張るしかないじゃないですかー」


 サクの肩に体を預けながらも、前向きな姿勢を見せるアイラ。

 愚痴だけで済んでいるのが、きっと魔法士になりたいという願望が強いからだろう。


「ちなみに、この後はどうするんですか?」


「それは後でソフィアから話があるだろう────とりあえず、検問が終わったっぽいし、置いていかれる前に早く行くぞ」


「はーい、師匠」


 中に入っていく馬車の後ろをついていくサク達。

 先日までここの街にいたのにもかかわらず、どこか遠方に訪れたような感覚を覚えたアイラであった。


 ♦♦♦


「というわけで、ここからはカーミラ様にも同伴してもらうから!」


 街に入り、入口付近で馬車から降りたソフィアが満面の笑みを浮かべてそう口にした。

 騎士達はソフィアの後ろに控え、統率された直立不動の姿勢でソフィアの声に耳を傾ける。


 その一方で、サク達は────


「……何故?」


「何故ですかね?」


 真面目に疑問符を浮かべていた。

 突然に聞こえたその言葉。そして、出てきた名前。

 依頼では魔法士はサクだけと聞いていたはずなのに、他の魔法士────それも、多忙な支部長を呼んだとなると、疑問符しか湧かない。


「むふんっ!」


 その様子を見て、ソフィアは「してやったり!」といった顔で胸を張る。

 周囲の目がある時は威厳を持とうと堂々としていたのだが、今では普通のサプライズに成功した少女の様子そのもの。

 加え、その横には少しやつれた顔をしているカーミラの姿があった。


 だからこそ、ソフィアが悦に浸っている間に、サクは手招きでカーミラを呼んだ。


「(おい、どうしてお前がいるんだよ?)」


「(仕方ないのよ……ちょうど魔法士ではなくて跡取り領主としての仕事がちょうど検問所にあって────そこでソフィア様に出会っちゃったのよ)」


「(……要するに、無理やり?)」


「(……まぁ、そういうことよ)」


 カーミラの姿と話を聞いて、どこか納得してしまったサク。

 横にいるアイラは、未だに納得できていない顔で首を傾げていた。


「(どういうことですか、師匠?)」


「(つまり、たまたまカーミラがソフィアと出会ってしまって、そこで捕まったんだよ。ソフィアの方は領主の娘であるカーミラと一緒に視察すれば解説&案内役としてここの視察を完璧にできると踏んだ。一方で、カーミラは王女のお願いは貴族としても魔法士協会の支部長としても断れなかった────説明以上)」


「(な、なるほど……なんかカーミラさんも苦労してますね)」


「(本当よ……)」


 カーミラは頭を押さえる。

 公爵家の娘、領主の娘、魔法士協会の支部長、などなど色々肩書きのあるカーミラは、色々な方面での仕事が山ほど溜まっている。

 例えば魔法士協会の支部長としての雑務や取り締まり、ゆくゆくは領主の座に就くために勉強と執務など。


 文字通り、寝る間もないという量をこなさなければならない。

 そんな時に、突然加わった新たな仕事。王女のお願いとなれば断ることもできないし、何より視察がすぐに終わるわけではないため時間を費やす羽目になってしまう。


 故に、他の仕事が遅れてしまう────これだけいれば、カーミラの心情は察せられるだろう。


「護衛騎士の皆は巡回警備という名の、市民の様子を見て回って。私だけじゃきっと全部は回れないから、後で様子を教えてほしいな」


「「「はっ!!!」」」


「それで、カーミラ様とサク達は私の身辺警護しながら共に視察してもらうから」


「「かしこまりました」」


「か、かしこまりましたっ!」


 ソフィア言葉に頭を垂れて承るサクとカーミラ。それに付随して、慌てて頭を下げたアイラ。


 その様子を見て満足そうに頷くソフィアであったが、頭を垂れたカーミラとサクの顔にやつれたものが浮かんでいることには……残念なことに気が付かなかった。

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