護衛任務
そして時は過ぎ、サク達の受ける依頼の当日となった。
おさらいをするが、今回の依頼は『第二王女の護衛』である。
視察期間は四日間。国内全てとはいかないが、要所要所を見て回り、見聞を広めると同時に関係値を築き、国内の様子を認知するのが目的である。
護衛任務といっても、サク達と第二王女の三人で向かうことはない。
馬車移動のための御者、何人かの第二王女護衛騎士や使用人も同伴し、道中旅をして回る。
護衛は騎士だけでも問題はない────と思うかもしれないが、前も述べた通り魔法士に依頼を振らなければならないという理由と、万全には万全をという理由が組み込まれているのだ。
それはそれ。そういった事情はもちろん知らない人間も多い。
特に、御者や隊長クラスではない騎士達はそういった裏の事情は知るはずもないし教えてしまう理由もない。
だからこそ、そういった弊害もあるわけで────
『ちっ、魔法士が一緒かよ……』
『しかもあいつ、強欲者の男じゃねぇか』
『姫様も、よくあいつを同伴させたよな……』
草原の一本道を走る馬車の横、ゆったりとしたスピードに合わせて並走する騎士達が小声で話す。
第二王女であるソフィアは王家の紋章が描かれた馬車で使用人と共にいる。
壁に隔たれている状態といっても過言ではない状況のため、多分騎士達が何を話しているか聞こえていないだろう。
しかし────
「……師匠、めちゃくちゃ言われてますね」
「仕方ない、これも魔法士になったら言われることだから今のうちに体験しとけ」
騎士達の後ろを歩いているサク達には聞こえてしまっていた。
居心地の悪さを感じてしまっているアイラはサクの背中の後ろに隠れ、サクにかんしては飄々とした態度を見せている。
多分、それが余計にもサクの悪口を言われてしまう原因なのだろう。
「騎士という職は主に『守る』ことを目的として作られた役割だ。そこに配属される人間もその目的を誇りにしていて、誰もがプライドを持っている。だからこそ、守るという仕事は騎士だけで十分なはずなのに『魔法士』という人間を同伴させたことに不満を持っているんだろうさ」
「……不満、ですか?」
「そりゃそうだ。だって、自分達がいるのに魔法士を呼んだってことは「自分達だけでは頼りない」と言ってるもんだからな。そりゃプライドも誇りも傷つくだろうよ」
加え、サク達は『強欲』という罪にかんする魔法をテーマにしている。
それに誇りもプライドも崇高さの欠片も存在せず、聞いただけだと「悪人」と思われても仕方ない。
だからこうして愚痴を言われるんだと、サクは気にせず口にする。
その言葉を受けてアイラは顔を顰めるが、納得はできたようで小さく頷いた。
「まぁ、これも魔法士になれば避けては通れない道────というより、強欲をテーマにしている以上、必ず騎士だけでなくどこでも言われることだ。カーミラ達みたいに理解してくれる人間もいるが、そうでない人間の方が多い。こればかりは授業だけじゃ実感湧かないだろうし、今のうちに頭に叩き込んでおけ」
「分かりました……でも、師匠はいい人です。そう言われるのは納得しません。そこだけは……納得しませんから」
「そう思ってくれる人間だけがいればいいんだよ、俺は」
サクは後ろにいるアイラの頭を優しく撫でる。
それでも、アイラは少しだけふくれっ面であった。
その時────
「魔獣が出たぞ!!!」
一人の騎士が、大きな声でそう叫んだ。
騎士達はその声を聞いて一斉に抜刀し、警戒心を強めて視線を横に向けた。
馬車も声に合わせて急停車し、下手に動かないように御者が馬を諌めている。
「魔獣、ですか……」
「そうみたいだなー」
騎士達の張り詰めた空気の中、サクとアイラだけは緊張感もなく他人事のように話す。
アイラが騎士達の視線に合わせて顔を動かすと、草陰から少し大きな獣の姿をした魔獣が何匹も現れているのを発見する。
加えて、ゆっくりと────獣の姿をした魔獣の後ろから歩いてくる、棍棒を持った大きな巨体の姿も視界に捉えた。
魔獣との距離は離れている。故に、行動を共にしていたわけではなく、偶然居合わせてしまっただけなのだろう。
「姫様!? 馬車にお戻りくださいっ!」
「私は大丈夫だから、ね?」
そして、馬車から使用人達声など気にせず現れる人影が。
もちろん、現れたのは声の主であるソフィアであり、騎士達もその登場に動揺を隠しきれていなかった。
「皆、私のことは気にしなくていいよ。ちょっと久しぶりに見てみたいなーって思っただけだから」
そう言って、ソフィアはチラりとサクの姿を見た。
その視線に気が付かないわけがなく、サクは小さくため息を吐いてしまう。
「意外とお転婆なんですね、ソフィアって」
「本当になぁ……前の反省を活かせれてないというか」
仕方ないと、サクは頭を搔く。
そして、魔獣とその先にいる巨体に視線を移すと、一歩前へと踏み込んだ。
「やるんですか、師匠?」
「まぁ、ソフィアが期待しているみたいだし、俺が引き受けた理由の中にはアイラに魔法士の依頼はなんなのかって教えるためだったから────ここは俺がやってもいいだろ」
そして、サクは片手を胸の辺りまで上げる。
すると、手の下────そこから、小さな渦が巻き起こった。
「とりあえず、ちゃんと見とけよアイラ? 前にも見せたが、強欲の魔法をちゃんと見せてやる」
「分かりました!」
「元気があってよろしい────それじゃあ、一蹴しますかね」
サクは弟子とソフィアの視線を受ける中、その魔法の文言を口にした。
「
すると、小さな渦の中から幾本もの槍が現れ、魔獣に向かって放たれる。
その槍は止まることなく、本数が減ることなく何本も魔獣や後ろにいた巨体に突き刺さり、激しい血飛沫を見せた。
やがて槍の放出は止まり、大きな砂煙と静寂を引き起こす。
その光景は一瞬であり、騎士達や御者、使用人も肉塊になってしまった魔獣を見て唖然としてしまっている。
そんな静寂の中、口を開いたのは────
「これが、好きな時にほしい物を取り出す魔法────
魔法士である、サクであった。
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