お友達
「────といった経緯があって、私はサクのことが大好きなんだ!」
それから少しして。サクとアイラは地面に腰を下ろし、ソフィアはベッドに座り少しの間の談笑を楽しんでいた。
「師匠、この子めちゃくちゃ内容端折りましたよ? 本気で説明する気ありませんでしたよ?」
「言うな、アイラ。こいつは少し頭が残念な子なんだ」
胸を張り、鼻息を鳴らして自慢げにするソフィア。
しかし、あまり内容という内容を語られなかったため、いまいち理解し難いと頬を引き攣らせる二人。
そして、徐々にソフィアを見るアイラの目が残念な子に向ける眼差しになっていってしまった。
「……要するに、師匠と子供の時同じように視察に行って、その時助けてもらったから好きになったってことですか?」
「いぐざくとりー!」
「師匠、この子ちょっとムカつきます」
「お前も王女相手に言うようになったなー」
果たしてそれはそれは成長の部類に入るのだろうか? そこが少し疑問に思ってしまうサクであった。
「だって、この子私と同じような展開ですよ? いきなりライバルキャラの登場って感じで敵対心が湧いてくるんです。ダメです、師匠は私のものです」
「そうやって独り占めってよくないと思うんだよ、お弟子さん! お弟子さんはサクといつも一緒にいるんだし、今日ぐらい譲ってくれてもいいじゃん!」
「お断りですね。師匠はこの私のもの────師匠の全ては私のものです」
「素晴らしい強欲だ。だが……俺は誰のものでもねぇよ」
サクは思う。どうして自分の好感度がここまで高いのか、と。
二人に共通するのは「過去に助けたことがある」ことぐらい。それなら、他の人間でも助けてられた時に惚れはしないものか。
どうして自分の時にだけこんな現象が起きてしまうのか? 可愛い女の子故、正直な話を言ってしまえば満更でもないが……少し困ってしまうサクであった。
「それで、師匠? 結構ダラダラとここで話してますけど、実際どういう要件でここに来たんですか?」
ここに来て何もしていないことに疑問に思ったアイラ。
しかし、サクはベッドから下り、抱きつこうとするソフィアを両手で阻みながら答えた。
「……ぶっちゃけ、特に理由なんてないんだわ」
「……マジですか」
サクの発言に、アイラは衝撃を受けてしまう。
本気で何をさせたいのかと、そう思ってしまったからだ。
だけど、ソフィアはそんな二人を見て少しだけ寂しそうな表情を浮かべた。
「私、王族だしあまり友達いないんだよ……」
ペタリと、サクに抱きつくことを諦め、同じように地面に腰を下ろす。
「お姉ちゃんもお兄ちゃん達も忙しいし、王城の人達って基本私と距離を置こうとするんだよ。だから、なんか寂しくて……サクが来たら、こうして話の後に呼んじゃうんだ。お弟子さんも来てくれたら楽しいかなーって」
項垂れるその姿は、見た目より少し幼い子供のように映ってしまった。
先程、皆の前で見せたソフィアの姿は見た目以上にしっかりと、凛々しく映っていたのに、まるでチグハグだと思ってしまう。
もしかすれば、王族という特別な立場にいるからこそ、こういうチグハグが生まれてしまうのかもしれない。
「……まぁ、そういうことだ我が弟子」
「……理解しました」
サクはソフィアの体を引き寄せ、そっと項垂れる頭を撫でる。
「ちょっと本音で話すが、俺はソフィアが嫌いじゃない。ちょっと特殊な立場だから、子供らしいことも制限されて我儘に振る舞えなく、自分を押し殺してしまうこともある。多分、今のソフィアに友達らしい友達がいねぇんだよ」
その言葉は、どこかアイラの胸にも突き刺さってしまう。
「だから、欲を言えば経験を積ませたいっていうのもあったけど、ソフィアの友達になってくれると思ったんだ。お前も、昔の話があったから友達っていう友達はいないだろ? だからまぁ……子供らしいところも見せてくれ」
アイラは、その昔家族を……友達を失った。
奪われ、焼かれ、自分もそこで少しの運がなければ助けてもらうことすら叶わなかった。
それからは、カーミラの下で庇護を受けていたが、同年代の子供達と遊んだか? そう言われてしまえば、全く頷けない。
故に、友達らしい友達と言われれば、アイラは存在がいない。
それはサクにも分かっていて、サクも『魔法の授業ばかりでは、真っ当な人生を歩めないのではないか?』と常々疑問に思っていた。
そこでこの依頼を発見し、「もしかしたら」という気持ちがあったのだ。
「……師匠、ズルいです。そう言われたら、断れないじゃないですか」
ペチペチと、少しだけ頬を赤く染めたアイラがそっぽを向きながらサクの背中を叩く。
「ねぇー、サクってこういうところがあるからズルいよねー」
「気が合いますね、第二王女様。本当に、師匠ってばズルいんです」
「そこがいいというかなんというか……あ、私のことはソフィアでいいよ!」
「では、ソフィアで。私のこともアイラで大丈夫です」
「おっけー、アイラちゃん!」
笑みを浮かべながら、仲睦まじくサクを叩きながら笑顔を浮かべるアイラとソフィア。
ちょっと馬鹿にされているなとも思うが、サクの瞳には微笑ましさが浮かんでいた。
(まぁ、これぐらいなら許してやるか……)
境遇は違えど、互いに年相応の生活を送ってこられなかった二人。
それが互いにいい友人になれることを、少しだけ大人なサクは願わずにはいられなかった。
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