魔法士試験

 それから、サクとアイラは適当に街をぶらつき、途中に訪れた出店で軽い昼食を取った後、再び魔法士協会に訪れていた。

 といっても、今度は協会支部の裏手────大きくドーム状に広がった訓練所である。


「師匠が働く姿が見っれる〜♪」


 アイラは一人、訓練所の上にある客席で紙とペンを片手に浮ついていた。

 アイラが座る場所からは、訓練所が一望でき、そこには二人の青年とカーミラ、修道服を来た女性が距離を空けて立っている。


 そこに、アイラの師であるサクの姿は見えない。

 だけど、やがてはやってくるだろう……何故なら、さっきまで一緒にここに来たのだからと、そこの心配はしていない。


 それどころか、今はサクの姿を見られることだけに浮かれていた。


「いやいや、しっかりする私! これはお勉強……いつか私も試験を受けるんだから、そのためのお勉強なの!」


 首を振り、邪念を払う。

 あくまで、ここにいるのは『お勉強』という項目があるからに過ぎない。

 だからこそ、ここは真面目に聞かなくてはならないのだが────


(師匠がかっこよすぎるのがいけないっ!)


 そう思わずにはいられないアイラであった。

 そんな時、ようやくと言っていいべきか、訓練所にようやく一人の青年が気だるそうに現れた。


「遅い」


「そうは言うが、まだ十分前だろ? お前らが早すぎるんだって」


 現れたサクに対し、カーミラが少しキツめな言葉を投げる。

 だけど、サクはそれに対して臆した様子もない。


「あらあら、お久しぶりですね。サク様」


 一人の修道服を来た女がサクに視線を向けた。

 艶やかな金髪が修道服から見え、どこか柔らかい笑みを見せている。少し身長が高く、落ち着いた雰囲気は年上のソレを感じさせてしまう。


「よ、久しぶりだなアーシャ」


「えぇ、お久しぶりでございます。いつぶりでしょうか? 一年は顔を合わせていなかったような……」


「魔獣討伐の遠征以来だろ? そんぐらいで合ってるんじゃね?」


『慈愛者』────アーシャ・ネクロン。

 修道服を来ている彼女も、サクとカーミラと同じ魔法士の一人である。


「とりあえず、全員揃ったことだし……早いけど始めちゃいましょ。いつまでも待たせるわけにはいかないからね」


 そう言って、カーミラがサクとアーシャを促す。

 それに合わせて、二人はカーミラの後ろに並び、目の前にいる少年二人を見据えた。


 目の前にいる少年達は二人共が腰に剣を携えている。

 ということから、魔法のみに頼っているわけではないということが窺えた。

 もしくは、剣ありきの魔法を使うのか……そのどちらかだろう。


「改めて────二半期の試験監督を務める『平等者』のカーミラよ。後ろいるのが『強欲者』のサクと、『慈愛者』のアーシャ。今日はよろしくね」


「よ、よろしくお願いいたしますっ!」


「ふんっ! この俺を待たせやがって……」


 一人は緊張の色を見せ、もう一人は傲慢にふんぞり返っている。

 それだけで二人の性格が何となく分かってしまうのが悲しいところだった。


(一人はいいところのお坊ちゃんってところか……?)


 髪を短髪に切り揃えた少年を見て、サクは頬を引き攣らせる。

 おそらく貴族だろうと予想しながらも、貴族の中でも上に立つ公爵の娘であるカーミラによくもまぁそんな言葉が言えるものだと、サクは呆れてしまった。


「……とりあえず、名前とテーマを教えてちょうだい。一応は知っているのだけれど」


「ライアン・クレスタだ! クレスタ家の人間であり、『最強』をテーマにしている!」


 短髪に切り揃えた少年が先に口にする。

 続いて、緊張の顔色を見せる少年が口を開いた。


「ロ、ロイスです! テーマは『平和』です!」


「……そう、ありがと。これで名前と顔は一致したわ」


 カーミラが資料を一瞥して、懐にしまう。

 どうやら、これで一応の本人確認は終わらせたようだ。


「では、試験の内容を言うわ────あなた達には、こいつと戦ってもらう。それで私達はあなた達が魔法士に足る存在か見させてもらう、それだけよ」


 そして、後ろにいるサクを指さした。


「待て待て待て。ここで俺を使うかね? お前がやれよ」


「ここで立場が上の人間を動かそうって言うの? 立場的に考えればサクがやるのは道理でしょ?」


「そ、そりゃそうだが……」


「アーシャは戦闘員ではなく回復師ヒーラーだもの。消去法で考えれば当然の判断だわ」


「ふふっ、ごめんなさいね」


 カーミラの発言に、サクは押し黙る。

 集団という場所にいる時点で上下関係は常に存在する。

 上司という立場にいるカーミラが動くのであれば、その前に動くのは当然部下がやるべき。


 そこの分別とアーシャが出ない理由はしっかりと分かっているからこそ、サクはこれ以上何も言えなかった。


「それに、サクの可愛い可愛いお弟子さんはあんたの勇姿を見たがっているわよ」


 カーミラは客席を指さした。

 そこには、目を輝かして『頑張ってください!』と大きくメモ用紙に書いて掲げているアイラの姿があった。


「はぁ……まぁ、いっか。これも勉強させるって考えれば」


 大きなため息を吐き、サクはゆっくりと前に踏み出した。

 そして、客席にいるアイラに向かって大きく叫ぶ。


「アイラー! 今から俺の魔法を見せてやるから、ちゃんと勉強しとけよー!」


「はいっ! 師匠!」


「そんで、後でちゃんとテストするからなー!」


「……はい、師匠」


 どうやら、テストは少し嫌なようだ。

 相変わらず反応が可愛いなと頬を緩ませ、サクは視線を二人の少年に戻した。


「えー、とりあえずお前らの相手をすることになったサクだ。勝たなくても結構。負けてもいいから全力を見せればオーケー……という感じでやるからよろしく」


「ふんっ! 平民風情に負けるはずなどない!」


「よ、よろしくお願いいたします!」


 三人の態度は正しく三者三葉。

 自信を見せ、余裕を見せ、緊張を見せ、それぞれが準備をしていく。


(さて……どういう魔法を使うのかね?)


 だるそうにしながらも、少しだけ楽しみにするサク。

 好奇心だけは、一丁前に存在するのだ。


「改めて、一応名乗っとく────」


 サクは表情に笑みを浮かばせながら、二人に向かって口にする。


「『強欲者』のサク。お前ら目指す魔法士とい存在を……その目で焼き付けてくれ」


「それでは────試験開始!」


 カーミラの合図によって、試験が開始される。

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