第十三話 旧友の指令

 兵士の誘導で、ドーズは村のなかに張られた無数の天幕のひとつに足を踏み入れた。まさか、という気持ちが胸のなかで揺れている。だが、天幕の中央に立っている、位の高い軍装を纏った男の顔を見たとき、ドーズは自分の予想が当たったことを知った。


「アルム……」

「ドーズ、まさかこんな所で顔を合わせることになるとはな」

 そう言いながら、アルムは兵士に天幕から出るよう、手で示す。やがて、ふたりきりになった空間で、ドーズとアルムは固い握手を交わした。


「元気だったか、アルム……! まさか、救援部隊の指揮官がお前だとは」

「俺も驚いたよ。お前が国境警備隊に入隊したと聞いて、もう生涯において二度と会えぬとばかり思っていたんだ……」

「俺もだ。アルム」

 ドーズは、震える声で、かつての親友との思わぬ再会に心を躍らせる。

「老けたな。お互い」

「ああ、お前と別れて、もう、5年だからな」

 そこで会話は一旦途切れた。やがて、少しの間を置いて、アルムがぼそりと呟く。

「このたびの部隊の全滅は、さぞかし辛かっただろう」

「……まあな」

「……だが、たったひとりの、生き残りがお前で良かった」

「……生き残ってしまったよ、また」

 ドーズは目を伏せながら、囁くように語を継いだ。天幕の中をそよぐ風に吹き飛ばされてしまいそうな、小さな声で。


 それを耳にして、アルムはひとつ咳をすると、改めてドーズに向き直った。

「過去の話はまた後にしよう。俺は、救援部隊の指揮官として、お前にいろいろ今回の敵襲について聞かねばならぬことが沢山ある。話してくれるか」


 ……ドーズが今回の襲撃の一部始終をアルムに語り終わったとき、天幕に差す光は夕暮れの色を帯びていた。

「なんとも、信じがたい話だな……なんだ、その画力、とやらを使う女は」

 アルムがその話の中で一番食い付いたのは、当然というべきか、やはり、ザキナと、その異能についてであった。

 ドーズはザキナのことを洗いざらい話すことに、どこかザキナに罪悪感を感じずにはいられなかったが、それを語らずには今回の件について説明ができない。よって、ドーズはザキナについても、分かるだけのことをアルムに報告せざるを得なかった。


「そして、その女の話によれば、敵にも同じ一族の者が居るということか」

「ああ、そういうことになるな」

「脅威だな、それは」

 ドーズのその言葉に、アルムは眉を寄せた。そして、暫く黙りこくってなにかを考えていたが、やがてドーズに顔を向け、言った。

「この件については、王都の判断を仰がねばならん。至急報告することとする。そして、指揮官の権限で俺は、ドーズ、お前に命令する」

 アルムの目が、険しい色を帯びた。

「ドーズ、お前をそのザキナとやらの監視役に命ずる」

「監視?」

「言い換えるなら護衛でもいい。とにかく、彼女の一挙一動から目を離すな」

 日が草原の地平に沈んだ気配がし、冷たい風がゆらりと天幕を揺らす。

「……彼女は危険人物だ。敵にとっても、そして俺たちにとっても」

 ドーズは頷いた。そのアルムの命令に逆らうことはできなかった。それは、ドーズが軍人であるからというより、アルムの言葉に異議を挟めなかったからである。

 

 ……ザキナは、危険だ。

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