第二話 駐屯地、司令部にて

「で? ここに女を連れ帰ってきただと?」

 国境警備隊長のマトウの顔は険しげだ。ドーズは予測していたこととはいえ、肝が冷える思いで、マトウの前に立って、事の次第を報告し終わったところであった。

「どうする気だ? この部隊は、女に飢えた野郎どもで満ちているんだ。そこに、まだ子どもとはいえ、女を連れて帰ってきて、どうするんだ。処遇に困るとはこのことだ」

「とはいえ、廃坑に見捨てて来たら野垂れ死してしまうのは明瞭でして……」

「それはわかってる」

 マトウは唸りながら顎髭をさすった。マトウの困った時の癖だ。国境警備隊に入って5年、マトウとの付き合いは更にその倍以上にわたるドーズにはわかりすぎるほどわかった。

 やがて、マトウは顎から手を離すと、やや表情を和らげながら、ドーズにあらためて向き合った。

「ドーズ、お前は優しい奴だ。そんなお前を敵兵の探索に出した俺が間違いだったな。お前は敵に遭遇すれば容赦しない優秀な軍人だが、目の前に少女が転がっていたとなれば、放っておけない性格だからな」

「お褒めに預かり光栄です」

「咎めてはいないが、褒めてもいない。お前は甘い、と言ってるんだよ」

 いつのまにかに激しい雨は止み、いまは司令室の窓から差す日の光が眩しい。

 その光の中、ドーズは自分が所属する部隊に、これ以上ない厄介事を持ち込んでしまったことを、マトウの皮肉めいた声を耳にして、再度自覚せずには居られなかった。

「……仕方ない。最寄りの村に預けることにしよう」

「グャーシャ村ですか」

「ああ、ここから1番近い村といえばそこだからな。馬で2日の距離だが。まあ、女連れとなれば、もう少し時間がかかるかもしれぬな」

 暫しの間をおいて、マトウは決めた、とばかりに頷き、ドーズに告げた。

「お前に6日の休暇をやる。連れ帰ってきた責任を持って、その女をグャーシャに届けてこい」

「……拝命いたしました」

 ドーズはマトウに一礼した。視線を投げた床に、自分とマトウの影が長く伸びている。いつしか日は傾き、時刻は夕暮れを迎えていた。

「出発は明日の朝一でゆけ。用事が終わったらすぐに帰隊しろよ。いつまた隣国が攻めてくるかわからぬ時勢ゆえ、人員に余裕などないのだからな……それと」

 マトウは夕暮れの光のなか、ドーズの顔を覗き込んで言った。

「村に預けるまでは、女の身柄はお前の自由だ。だが、下手に抱いたりして、別れが惜しくなるなぞせぬようにな」

「ご冗談を。あんな子どもを、など」

「冗談じゃないさ。お前がどんな女が好きか、俺は覚えているぞ。あの女は、彼女に似ていなくもない」

 マトウの訝るような声音にドーズは一瞬眉をしかめたが、なにも言葉には出さず、マトウに一礼すると、司令室を足早に出ていった。

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