第4話 初めての打ち明け話
リエルは暫く抱きついていると、満足したのか、リンから離れて、ふと気になったことを尋ねた。
「そう言えば、リン、さっき言ってた探検家パートナーって何?」
「あれ、言ってなかったっけ。私も大洞窟に潜る探検家を目指しているの」
「そうなの!」
そうしてリンは、探検家のシステム、国による資格制度、モンスター討伐や岩石の採掘、洞窟内の探検・調査で一定の収入が得られること、今度の土曜日に資格試験を受けること等を説明した。
説明が終わると、リエルは当然のことながら「私もその土曜日の試験を受けたいです」と言い出した。元の世界に戻るヒントを得るためだけでなく、一定の収入になることもリエルにとってはありがたいようだった。
「受験者が定員オーバーになることは無いし、まぁ大丈夫でしょ。半年前から予約しておく変人は多分私くらいだと思うから……」
「半年前!?」
「……、まぁ探検家は私の憧れだから……」
と恥ずかしそうにリンは言った。
「で、探検家は大洞窟に潜る時に、数人でチームを組むんだけど、リエル、一緒に探検しようよ」
「良いの!? こっちからお願いしたいくらいなのに……、いつもありがとうね、リン」
「宜しく頼むよ、パートナー」
そんな会話をしつつ、再度街中を色々と説明をしつつ二人で歩き回る。
あれは何?――タピオカミルクティーだね
あれは何?――観光客向けのお土産物屋だね
あれは何?――寺院だね。仏教っていう宗教の施設かな
あれは何?――コンビニっていう何でも揃う便利なお店だね
あれは何?――あれは……T・U・Cって何なんだろうか……?
「そう言えば、リエル、最初に会ったとき、王族とか何とか言ってたよね? リエルってもしかしてめっちゃ偉い人だったりするの? もしそうだったらこんな一般人と一緒に街中を歩くとか、急に申し訳なくなってきたんだけど……」
「ああ……、一応、元の世界では現国王の第三王女ですが……、この世界で生活していく以上あまりそういう王族とか関係無いですし、それでリンに急に距離を取られても、むしろ私が困ってしまいます……」
「そう……? それなら良いけど……」
「はい、だからあまり気にしないでください」
「わかったよ、リエル。それにしても、お姫様なんだねぇ、凄いや。だから言葉遣いが丁寧なんだね。そんな凄い人と友達になれるとは思わなかったなぁ……」
「そんなそんな……。やめて下さい」
「良いじゃん良いじゃん。向こうではどんな生活をしてたの? 向こうの世界のことも色々と教えてよ!」
「そうですねぇ……、今こうして思えば結構窮屈な生活をしてましたねぇ。あまりこうして街中を出歩くこともなかったですし……、友達と呼べる人もいたのかどうか……。向こうからしたらお姫様ですから、本心を隠して付き合っていたようにも思います」
リエルは遠い目をしつつ、元の世界のことに思いを巡らせているように見えた。
「だから、こうしてこの世界でリンと出会えて友達になれて、本当に本当に嬉しいのです」
リエルの屈託の無い素敵な笑顔が最高に可愛かった。
そんなことを話していると、放課後になったのか、クラスメイトのミキから携帯に電話がかかってきた。
「もしもし、リン? 大丈夫? 体調不良って聞いたけど……、って今どこにいるの? 周りがうるさい感じだけど……、家じゃないよね?」
「やっほーミキ。家じゃないし、……まぁぶっちゃけ仮病なんだけど……」
とここで、リンはあることを思いつき、電話口を左手で塞いで、リエルに話を振る。
「リエル、私の幼馴染で親友のミキにも、あなたのことを話しておきたいんだけど……良いかな。ミキは口が固いし、絶対親身になってくれると思うんだ。もちろん、嫌だったらいいんだけど……」
「……リンが信頼している人なら、大丈夫。私もリンを信頼しているから」
「ありがとう、リエル」
「あのさ、ミキ……、もしこれから暇だったら、うちに来ない? ちょっと相談があるんだ……」
***
羽衣リンの自室で、リンとリエルがミキに昨日の出来事を説明した。
「……つまり、この子が、どこか別の世界からやってきた魔法使いだと? 普通はそんな話、信じられないけど、リンが嘘をつくとは考えられないし、私を騙してるとも思えないから、信じるしかないでしょうねぇ……。まぁリンみたいに一緒に住むわけじゃないから、あまり手助け出来ないかもだけど、できる限りは協力するわ」
「ありがと、ミキ!」
「ありがとうございます!」
「何というか……相変わらずリンはおひとよしなんだから……。ま、でもそれでこそリンって感じよねー。昔から変わらない」
「あはは……、これは褒められてるのかな?」
と言いつつ、リンとミキは笑顔になっていた。
「それはそうと、ゴブリンが異世界から来たモンスターとはねぇ。『大洞窟』のモンスターの起源というか、どこから出現してるのかについては調査対象の1つで、諸説あったはずだけど……あれ、ってちょっと待って……?」
急に何やら悩み始めたミキに、リンとリエルは顔を見合わせた。
「……えーっと、上手く言えないけど、どうして、あのモンスターはゴブリンって名前なんだろう?」
リンとリエルは、ミキが何を言いたいのかわからず、再度顔を見合わせた。
「うーん、何て説明したら良いかな。異世界ではゴブリンは一般的なモンスターなんだよね? 一方でこの世界ではそちらの異世界からやってきたゴブリンが大洞窟に出没して、その醜い小男みたいなモンスターを『ゴブリン』と名付けられて討伐されている。でも、どうしてそのモンスターに異世界と全く同じ名前が付けられたんだろう、って思ったのよ」
「ゴブリンっていう名前自体は、この世界でも結構昔から使われていたと思うけど」
「そうだとしても、大洞窟に『ゴブリン』が出現する以前に、その空想上の醜い小男を『ゴブリーヌ』とか『ゴブリヌス』でもなく、『ゴブリン』って最初に名付けた人がどこかの時点でいるはずだよね。まぁヨーロッパの人だとは思うけど。でも、どうしてその名前が異世界の呼び方と一致したんだろうね」
リンとリエルはようやくミキの言いたいことが理解できた。
ミキは続けた。
「偶然の一致? あるいは……?」
リンはミキの言葉を引き取った。
「異世界の『ゴブリン』を知っている人が、かつてヨーロッパに転移してきた……?」
ミキは説明を続ける。
「そう。その可能性が割と高いんじゃないかな。つまりこの世界の空想上のモンスターは、かつてリエルと同じように、異世界からやってきた魔法使いによってもたらされた、異世界のリアルな情報だったってこと。だからこそ、異世界の『ゴブリン』という名前とこの世界の『ゴブリン』という名前が一致したって考えるのが自然じゃないかな。」
「なるほど! ミキさん凄いです! 天才です!」
リエルは灰色の目を見開いて、両手を前に組みつつ歓声を上げた。
「あーでも勘違いしないで欲しいんだけど、そのモンスターの情報を異世界からもたらした人がいたとしても、ずっと昔の話だし、元の世界に帰れたのかもわからないし、リエルにとって意味のある情報かどうかは微妙だと思うぞ」
「それでも、私と同じような境遇の人がいたかもしれないと思うと、何だか不思議と勇気が出てきます。ありがとうございます、ミキさん!」
「やっぱりお前に話して正解だったよ、ミキ。ありがとうな」
その後はリンとミキの小さい頃の話やリエルの元の世界の話をしているうちに夕食の時間となった。
ミキは自宅で両親が待っているということで、帰ることとなった。
「じゃ、二人とも、探検家資格試験、頑張れよ。結構キツいらしいけど心の中でめっちゃ応援しておくよ。あと、リエル、何か困ったことがあったら、いつでも相談してくれよな。できる限りのことはするよ。遠慮せずにちゃんと頼ってくれよー」
ミキを見送ると、リエルはリンに話しかけた。
「ミキさん、とても素敵な方でした。本当に私のことを話せて良かったです……」
「そうだろ、ミキは私の自慢の親友なんだ」
「はい、本当に」
「ま、それはそうと、大洞窟の資格試験、頑張ろうな、リエル」
「はい!」
リエルは明るくいった。
リエルの昨日のような暗い表情は、リンとミキによって完全に洗い流されていった。
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