第20話 初めての薙刀使い
筑紫は大学の研究室の予定がある都合上、決まった隊には所属しておらず、適宜『大洞窟』に来られる日ごとに予定の空いている人と隊を組んで潜ると言うスタイルだった。
それでも毎回『大洞窟』に来ると必ず一緒に探検してくれる人が見つかるというのは、やはり筑紫の術士としての能力の高さを示していた。
特に術士として攻撃も補助も出来るという点は、隊にとって非常に重宝されることが多い。
そんな筑紫に、地下2層にある転移先へ隊を組んで探検をするように、探検家組合として依頼が舞い込んできた。
目的地はリン達が発見した『地下温泉』とは別の、もう1箇所の地下2層の転移先である。
というのも、別の隊がそこを目指して探検を何度か行ったが、どうにもそこに繋がる道を発見できなかったということだった。
そこで『リエルの小部屋』の魔法陣に最も詳しい筑紫に、その転移先について調べて欲しいとのことだった。
――確かに魔法陣はめっちゃ調べたけど、だからといって、転移先がどこにあるかまではおおよその方角でしか分からないからなぁ……。もし地殻変動とかで地形がずれてしまってたら、それはそれで転移先は地中になってしまって見つからないだろうし……。
というのが、依頼を受けた筑紫の最初の感想だったが、探検家組合理事長の神林から直接「頼む」と言われてしまったため、仕方なく引き受けることにした。もちろん依頼報酬も交渉でたっぷり出させてある。
――でも、誰と隊を組もうかな……。全然その気もないのに、私が誘って下手に『筑紫隊結成!?』って噂が立てられても困るし……、これが意外と難しいんだよねぇ……。
『大洞窟』内部の道を詳しく調べる必要があるため、技量のある術士が必要だが、それだけでなく、モンスターに的確に対処出来る剣士も必要である。
さらに探検家の人間関係も考慮しなければならないとなると、意外と選択肢は狭まってしまうのであった。
そんなことを筑紫は考えながら誘える人がいないか訓練場の様子を眺めてると、珍しい人物がいるのに気付いた。
「おー、カコじゃん。久しぶりだね」
「やほー、ロリ子。最近色んな発見があったって聞いてね、たまには来てみた」
「うるせーぞデカ子」
デカ子と呼ばれたこの女性は、筑紫の大学の同期で地理学科の
そのあだ名のとおり、身長175cm近いモデル体型をしており、ロリ顔ロリ体型の筑紫と並ぶと、より『大人の女性』っぽさが際立っている。
宗谷は『大洞窟』内部の地質と地形に興味があって探検家になった変わり種で、地形調査の一貫として、『大洞窟』内の地形記録カメラを筑紫と開発した張本人であった。
「それはそうと、あんた今日暇? たまには一緒に行かない?」
「いいけど、珍しいね、マリコ様から誘われるなんて。どっか行きたいところでもあるの?
「そ。あんたもさっき言ってたけど、新しく見つかった魔法陣の転移先が見つからないんだってさ。それで私がその調査を組合から依頼されちゃって。剣士やりつつ、術で一緒に調査して欲しいのよ。もちろん報酬は探検家組合直接の依頼だから結構出るよ」
宗谷は探検家の中でも珍しく、術もそれなりに使える剣士である。
通常、エーテル適性のある探検家は剣を修得せずに術士を目指すために、どちらも実戦レベルで使用出来るというのは非常に珍しく、探検家組合理事長の神林と宗谷、その他に数人の探検家しか居ない。
宗谷は高校時代に薙刀でインターハイに出場をしていたこともあり、たまに調査の一貫として『大洞窟』に来ては術士適性のある剣士として重宝がられている。
「それは面白そうね、いいわよ、一緒に行きましょう。2人だけで行くつもり?」
「んーどうしようかな……」
悩み始めた筑紫だったが、ふと先程宇賀神社の境内でみた光景を思い出し「あ、ちょっと待ってて」と宗谷に言って、訓練場を出て行った。
暫く待っていると、筑紫が巫女服を着た女性を連れて戻ってきた。
宇賀神社で巫女バイトをしていたリエルだった。リエルにしては珍しく、怒って膨れ面をしていた。
「全く、話が急ですよ、筑紫さん」
「ごめんごめん、ってあれ、今日はリンちゃんは?」
「剣道の大会で今日の探検は休みって言ってました。だから私はそこでのんびり巫女バイトしてたんですよ。全く、それを急に呼び出して、リンのおじいちゃんが困った顔をしてましたよ」
リンの祖父は『大洞窟』横の宇賀神社の神主である。
「悪かったって。その分、探検報酬はたっぷり出るから。で、こっちが宗谷佳子。私の大学の同期で薙刀を使う剣士兼術士。私と同じく『大洞窟』の研究者。
「宜しくねーリエルちゃん。お噂はかねがね……」
と宗谷は言いつつ、リエルの身体を舐め回すように上から下まで眺めた。
「何ですか……宗谷さん……?」
「いやぁ、私、別に女の子に興味は無かったんだけど、さすがにあれだけ綺麗な身体を見ると、ねぇ……」と意味深な笑顔をリエルに向ける。
リエルはキョトンとしたが、筑紫の同期、綺麗な身体、というワードから、洞窟地形記録カメラの制作者と思い至り、この前の温泉で全裸ではしゃぎ回った映像を見られたと気付き、急に赤面した。
「……もー!!!」
リエルは恥ずかしさの余り、訓練場の床に蹲るしかなかった。
「ごーめんごめん、冗談だってリエルちゃん!」
「うー……」と情けない声を上げるしかないリエルを見て、可愛いなぁと思う宗谷であった。
***
リエルは巫女服から探検服に着替えて、筑紫、宗谷、リエルで洞窟にに入って行った。目的地は地下2層にある、もう1箇所の転移先である。
地下1層をのんびり歩きつつ、リエルが気になっていたことを尋ねた。
「宗谷さん、地形記録用のデータって、全部宗谷さんが見てるんですか?」
「いや、データは膨大だし、わざわざそんな面倒なことはしないよ。普通は勝手にAIが映像記録から3Dマップまで作ってくれるんだけど、筑紫が『面白いデータがあるぞ!』って言うから、そこの映像データだけ取り出して見たのよ」
「筑紫さんのせいじゃないですか!」
「いやー、だって面白かったでしょ?」と筑紫。
「そういう問題じゃないです!」
「んー、さっきはああ言ったけど、実の所私は女の子の裸体には全く興味無いし、『面白いデータ』って地形とか地質とかと思ったのに、ただの全裸でちょっとガッカリしたかな」
「『ただの全裸』とは!? そこまではっきり言われると、それはそれで乙女のハートは傷つきます!」
リエルのツッコミに宗谷と筑紫は軽く笑った。
「まぁまぁ、ごめんって。あのデータは私が見た後、すぐに元データから削除しておいたから安心しな」
「それなら良いですけど……」
リエルは少しだけ不服そうに言った。
「そういえば宗谷さんて薙刀使うんですね。長いと洞窟内では不便だったりしないですか?」
リエルはふと気になったことを雑談として尋ねてみた。
「これでも本物の薙刀よりは短くしてるんだよ。それでも剣よりはリーチがあって私は好きかな。普通の剣道有段者とならリーチを活かして勝てる自信はあるよ」
「そんな異種格闘技みたいなこと、やったことあるんですか?」
「んー……まぁ無いけど」
「無いんですか!」
リエルはついツッコミを入れてしまった。なぜかこの3人だとリエルがツッコミ役に回っている。
「さらに言えば、普通の剣道有段者とこの『大洞窟』で戦えば、エーテルを使える私が楽勝で勝つな!」
「そんな機会、絶対回ってこないじゃないですか!」
思わずリエルはさらにツッコミを入れた。
宗谷と筑紫はリエルの意外なツッコミスキルを気に入ってくれたようで、声を出して笑っていた。
そんなことを話しつつ、リエルと筑紫で
重ねがけをすることで、より強固な錯覚をモンスターに発生させ、気付かれることもなく筑紫たちの移動方向から排除をしていった。
そうして一切のモンスターと出会うことなく『紺碧の祭壇』に到着した。
「そういや『リエルの小部屋』をまだ見てないんだけど、見ても良い?」
という宗谷のリクエストがあり、軽く『小部屋』を覗くことにした。
宗谷は魔法陣を見ると「おおー凄いな。本当にイメージ通りの魔法陣って感じだな。これ使ってショートカットとか出来ないの?」と筑紫に聞いた。
「これから行く転移先が安全かを確認するために今日は地下2層に行くんだし、その他の安全が確認された転移先からは遠いから無理ね。地道に行きましょう」
と筑紫は少しだけため息をついて言った。
その他に『小部屋』には特に見るべきものも無かったため、『祭壇』に触れて、地下2層へと移動していくのであった。
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