第6話 初めての術士適性検査
リンとリエルが上体を起こすと、宇賀神社の境内に合格者が残っていた。
十数人いた受験生のうち、合格者はリン達を含め8人だけだったようだ。
「羽衣さん、相瀬さん、合格おめでとう……。本当に良かった……」
登山家志望と言っていた大男の武田岳が話しかけてきた。
「ありがとうとざいます……」
「ありがとうございます……。本当に助かりました」
「いえ……」
「お、この子らがタケが言ってた子? 2人とも可愛いじゃん。だから優しくしたのか〜」
と砕けた調子で小柄の女性が近づいてきた。リンとリエル以外で唯一の女性受験生だったが、無事に合格していた。
――そんなこと……。
とタケこと武田岳が反論しようとしたが、それを無視して、その女性が話を続けた。
「私は
「こちらこそ宜しくお願いします」
「宜しくお願い致します……」
「タケも、喋り方こんなだし、デカいし、人相悪いしで良いところあんまり無いけど、まぁなんだかんだ良い奴だから仲良くしてやってね〜」と星名。
「もちろんです! 武田さんがいなかったら、私たち、合格できてませんでした」
「それは良かった。やるじゃんタケ!」
と星名が肘でタケの脇腹をつつく。
「……やめろ……」
そんなことを話していると、ふわふわのパーマがかかった女性がやってきた。目尻が下がっており髪型と合わさり柔和で優しい印象を受ける。
「みなさん、まずは試験合格おめでとうございます。私は探検家で術士の寺本です。ここから試験に合格した皆さんには、術士適性検査をしてもらいますが、その検査を受けてもらう前に、大洞窟を特徴づける『術』について簡単に説明しておきたいと思います。既に知っている情報も多いかとは思いますが、みなさんの認識を共通にするためにも、しっかりと聞いてくださいね」
として寺本は術の説明をし始めた。
まず『大洞窟』の中にはエーテルと呼ばれる物質が充満している。
このエーテルは大洞窟内にしか存在せず、なぜ大洞窟に存在するのか、なぜ洞窟の外には存在しないのかは不明である。
そしてこのエーテルを使って、通常では考えられない現象を起こすのが『術』である。
「まぁ一般的に言われる『魔法』と似たようなものですが、エーテルを操る必要があるので、魔法みたいに何でも出来る訳ではなく、その点で、この探検家界隈では『術』と通常は呼ばれてます」
そして、術は大まかに2種類に分類され、エーテルを大規模に大雑把に動かす攻撃術と、エーテルを繊細にコントロールする補助術で、術士はどちらが得意かによって攻撃術士と補助術士に分類される。もちろんどちらも得意な術士もおり、総合術士と呼ぶ場合もある。ちなみにこの説明をしている寺本は補助術士とのこと。
「術士になれるか否かは『大洞窟』内のエーテルを動かせるかどうかなのですが、エーテルを操るにはある種の素質が必要で、誰もが簡単に出来る訳ではありません。一方で、エーテルを操る感覚は普段の生活では使いません。そこでその人がエーテルを動かせないのは、エーテルを操る素質がないのか、それとも、素質はあるけどこれまでエーテルを操った経験がないから素質が無いように見えるのか、見分けるのが難しいということになります。そこで、これから皆さんには、エーテルを動かす素質があるかを測定する、術士適性検査を行ってもらいます。
もちろん、この検査で悪い成績だと術士になれないという訳では無いですし、努力によって立派に術士を務めている先輩探検家もいます。ただ、術士として活躍をするには人並み以上に苦労しますよ、ということです。この適性検査の結果を知った上で、剣士を目指すか、術士を目指すか、今後の皆さんの探検家人生の指針として活用していただければと思っています」
「え〜、魔法使いになれないかもしれないの〜」と星名は小声でタケに話しかける。
「……、黙って話を聞いてろ……」
「は〜い」
「それでは、今から探検家が使用する訓練場に移動します。この訓練場は洞窟から漏れ出てくるエーテルを内部に溜め込んでおり、洞窟内部の環境を再現しています。そちらで検査をしますので、合格者はついてきて下さい」
「いよいよ探検家になるって感じだね!」とリンは明るくリエルに話しかけた。
「そうですねぇ……」
――エーテルねぇ……、もしかして……。
とリエルは1人考えつつ、寺本について行くと、訓練場の前に到着した。
「この中はエーテルで満たされているので、エーテルに対する感覚が鋭敏だと入った時に不思議な感覚を受けるかもしれません」
という寺本の言葉を受けて、リエルは他の合格者と共に訓練場に入った。
すると、リエルは非常に懐かしい感覚に襲われた。
まだこの世界に来て1週間も経っていないはずなのに『故郷』を思い出す感覚であった。
それは元の世界で毎日のように感じていた、というより、当たり前にリエルの周囲にあったため、全く意識すらしていなかったマギトロン=エーテルの感覚だった。
思わずリエルは目を閉じて深呼吸をした。
閉じた目に、涙が溢れてきた。
なかなか瞼を開くことが出来なかった。
――これなら魔法、というかこっちの世界で言うところの『術』を使えるかな……。
とリエルは1人考えていた。
寺本は訓練場に入ると、白っぽい結晶が表面に大きく露出した岩を出してきた。
「これはエーテル結晶が高純度で固まった岩ですね。この結晶サイズで綺麗な白色をしているエーテル鉱石は結構珍しいんですよ。術士適性検査はこれを両手に持って、自分の周囲にあるエーテルの流れを感じつつ、動けと念じつつコントロールしてエーテルをこの岩に流し込む、というものです。基本的には思うだけでエーテルは移動します。素質があって術士の適性が高い人ほど、岩石の光が強まります。それじゃ、えーっと、まぁ何でも良いんですが、5周を早く回った人の順番でやっていきましょう」
合格者が順番に白い岩石を手に持つと、色々な光り方をした。
大男の武田は淡く光る程度だったが、一方の星名は、その岩をかなり力強く光らせることに成功していた。術士の素質があるようだった。
星名本人は「お、これって、魔法使いになれるってこと〜?」と誰に尋ねるでもなく、独り言を言った。
武田は微妙な表情をしていた。
最後から2番目であるリエルの番が回ってきた。もちろん最後はリエルを背後から支えていたリンであった。
リエルはその岩石を手に持つと、岩の内部を体内のエーテルを使用して一瞬にして走査した。
――綺麗な岩石ですねぇ、エーテル鉱石と言ってましたっけ。ふむふむ……なるほど……。ここに流せば良いんですね。
そう考えて、リエルは体内と空気中を流れるエーテルを感じつつ、体内にあるエーテルも活用して一気に躊躇なく岩石へとエーテルを送り込んだ。
リエルは久しぶりにエーテルを扱ったからか、思わず一度に多量のエーテルを流し込みすぎたようだった。
すると、そのエーテル鉱石は、全く直視出来ないほどに一瞬にして白く光り輝いて、訓練場の室内を隅々まで明るく白く照らし出し、そうして……
――
ぽんっ、というポップコーンのような可愛らしい音を立てて、エーテル鉱石が光り輝きながら爆発を起こし、そのキラキラした星屑が七色の光を撒き散らしつつリエルとその周辺に舞い落ちていた。
ガラスのようにキラキラと光っていたが、不思議なことに鉱石の実体は無く、ただ光だけが七色に散乱していた。
まるでエーテルそのものが光り輝いているようだった。
寺本はこの現象に驚き、目を見開いたまま固まってしまった。
「そんなことが……、凄い術士適性だわ……」
リエルは少しだけ七色の光に目を奪われていたが、すぐに我に帰り「あ! 壊してしまって、本当にすみません……! すみません……!」と平謝りをするのであった。
リンも「うわー! とても綺麗! 凄いよリエル!」とはしゃいでいたが、ふと思う。
――あれー、これ、私の術士適性検査はどうなるの……?
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