第一章 転生
第1話 マーカス、お前もか
グシュッン
渾身の斬撃により敵の頭が潰れ、血が噴出する。
もうすぐだ。もうすぐでこの戦いに勝利する。
「うぐっ、ぐっ」
声。人間の声。後ろから?なぜ後ろから??
「参謀、逃げてください!!」
騎馬兵が叫びながら戦線を離脱する。逃げるだと?
「何を言っている!!勝利は目前だ!!敵の策略に乗せられるな!!」
あらん限りの声でそう叫ぶ俺の肩に、鋭い痛みが走る。
「!!」
左肩に、ぐっすりと矢が刺さっている。背中から、そう、味方側から飛んできた矢。
振り返り、後ろを眺める。戦塵の中、無数の矢が飛んでくるのが見える。バタバタと倒れる兵たち。俺の部下たち。俺の戦友たち。回り込まれたのか?まさか。そんなことはあり得ない。魔物たちからは回り込むことのできない地形で、俺たちが包囲殲滅し撃滅する作戦なのだから。そしてその作戦は、9割方成功していたのだから。というより、9割方完了していたのだから。
「参謀、あれ見てください。国王旗ですよ!!」
俺たちに矢を放っている群れの中に、あろうことか国王旗が翻っていた。その隣には、何と親衛隊の旗も翻っている。
「裏切られたっ!?」
ざわめきは波紋のように広がり、巨大な軍団を揺さぶり、鉄の規律で編まれた戦闘集団をただの人の群れへと遷移させていく。
「逃げろーーーーーーーー」
兵たちが逃げていく、堤を超えた川の水のように。兵士はもう兵士でなく、指揮官はもう指揮官でなく、すべてもうとまどい走る動物だった。
「参謀、我々も逃げましょう。将軍もすでに退いています」
「そんなことっ」
答えようとする俺の目に、奴の目が煌めいた。遥か遠く国王旗の下、確かに見えた。マーカス。笑みを絶やさぬあの目。そうか。そうなのか。
ドンッ
翳りゆく意識の中、俺は悟った。死ぬのだ、と。
◆◆
「えと、では、説明させていただきます」
俺は目を瞬いた。ここは明るすぎる。そしてこの見たこともないような珍妙な恰好をしたこの女は、誰だ?
「あなたは今回で3度目の死を迎えました。お約束の転生は次で最後となります」
やけに緊張して話す姿から、女の経験の浅さが透けて見える。新米の役所の窓口係。そんなところか。
「あれ?そろそろ思い出してくるころなんだけどなあ。まだ思いだしません?」
言われると思い出してきた気がする。ここはたしか死者の魂の受付所。以前も来たことがある。
「そうそう、そうなんです。あなたは4回目の生涯を終えたところなんです。で、5回目はどんな条件で生まれ変わるか、すぐにでも選択していただかなければなりません」
「え?なんですぐ?」
「そりゃ、後ろ見ていただければわかるかと」
俺は振り返り、納得した。とんでもない数の棺桶の列。これみんな順番待ってるんだ。
「以前までの書類はすべてここにありますので、次回の生の条件だけ決めてください。基本的に頭や体の能力は魂の持ち物ですので変更できません。ただ能力以外の条件だけはこのゲージ内で選択・配分できます」
俺は過去の書類を急いで見た。前世は、と。武術に全振りしてるのか。そうか、それで誰にも戦闘で負けなかったのか。そのおかげで軍隊内で出世できたが、おそらくそれが原因で妬みを買い続けたのか。と分かってたら、生まれに少しステータスを振ればいいのか。じゃあ、次回はバランスを取って。いや、それはそのまた前世で試してるな。ここでも嫌がらせ受けて自殺してるのか。バランスよくして平凡目指しても基本の知力と体力で目立って妬まれるっぽいな。その前は生まれに全振り。これはまた、10歳で殺される、と。名門だと跡目争いとかえげつないしなあ。で、最初は容姿に全振りか。もてたかったのか…。もててはいたが、貴族の奥方に言い寄られて断った逆恨みで讒言されて、その旦那に殺されている、と。
「そろそろ決めていただけますでしょうか。お待ちの方もたくさんいらっしゃいますので」
窓口の女は、イライラした様子で急かしてきた。
「うーん、何かアドバイス的なものはないでしょうか?」
どう割り振ってもバッドエンドな気がして選びようがない。
「そうですね、あなたの基本スペックがこんなですから、どうやってもいい感じになるんじゃないですか」
【魂情報】
レコードNo.632201956347852
生命力:50
精神力:50
知識力:112
理解力:115
応用力:116
洞察力:108
向上力:120
体力:110
体操作力:111
動作習得力:112
「これって高いの?」
そんなに高い数値には思えず聞いてみた。
「何を言ってるんですか!!これって偏差値ですよ。50が平均で、60で上から15パーセントに入っていて、80で上位0.1パーセントなんですよ」
「じゃあ110ってのは?」
「ええと…0.0000001パーセント、10億人に1人しかいないくらいだって!!」
サマゲート王国の人口がたしか2000万人くらいだったから、俺はほぼ1位だったってことか!そりゃすごい。
「いいなあ、こんなスペックならどうやってもいい人生しか送れないじゃない」
この女、馴れ馴れしくなってないか?
「でもそんないい人生歩んでないみたいっすね。へっへっへっ」
イラッ。でもその通り。
「お客さん見てると、何かイライラしてくんだよねえ。いじめたくなるっていうか」
ハッ!そうだ!そこさえなくすことができれば。
「決めたよ。次の生の条件」
「え、ええ。急に決まりましたね。では、おっしゃってください」
「魔物に転生する」
「え!こんなスペックなのに、わざわざ魔物に!?何かやけになってないですか?さっきのいじめたくなるっていうの冗談ですよ。ただのやっかみですよ。もったいなさすぎですよ」
「いいんだ。お願いします」
こうして俺は魔物になった。
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