第14話 生命の村
ここは慈愛に満ちた村。
誰もが誰もに優しく、そしてヴァルハートに対して一番優しい村。
「マジかよ」
マハはこの村で出された食事を見て、思わずつぶやいた。
「これ、その辺の草じゃないの?」
「ええ、その辺の草ですよ」
ぎょっとして振り向くと、戸口にブレナが立っていた。
「ご存知の通り、ヴァルハートの環境にできるだけ影響を与えないということが私たちの村にとって最も重要なことなのです。ですので、狩猟はおろか、植物の栽培もこの村では認められていません。野にすむ獣たちと同じ暮らしを送ることが大切なのです」
「それでその辺の草を」
「ええ、野にすむ獣たちのように。魔物や人間が現れる以前の環境を取り戻すこと、それがすべての生きとし生けるもの、いえ、ヴァルハートにとっての幸せなのです」
「それでその辺の草を」
ヴァルハートは壊れつつある。
そう思っているのは、確かにこの村だけではない。
年々増え続ける魔物や人間。
それに伴い増え続ける食料や生活必需品を生産するために、どれほどの負荷が環境に対してかかっているのか。
まったく獲物が取れなくなったり作物が実らなくなったりして放棄された村は、数十ではきかないだろう。
「草喰ってもあれなんで、もう寝ます」
マハが寝床に移動すると、ネネも無言で続いた。
次いでに俺も移動した。
「ちょっと獲物でも取りに行きません?」
マハの言葉に賛同し、俺たちはこっそり家を出た。
この辺りはまったく狩りをしていないので、獲物も警戒心が薄く、簡単に仕留められるだろうと、俺たちの心は高まった。
肉が喰いたい。
その一心で、月明りの中、歩を進める。
「ん?」
魔物の息遣いを感じ、俺たちは立ち止った。
目を凝らして見ると、前方にかなりの数の魔物が集まっているようだ。
「行きます!!」
ブレナの声だ。
「どこに行くんだ?」
好奇心から、俺たちもついていくことにした。
彼らはおそらく、サキュバスとインキュバスが人間と混合したものだろう。
サキュバスは人間の男から精液を集め、インキュバスはそれを使って人間の女を孕ませる。
おそらくそのどこかの過程で、サキュバスとインキュバスと人間が混合し、彼らとなったのだろう。
それは彼らの容姿が、人間の男女どちらもの特徴を具えていることから推測できる。
「え、ひょっとしてすっごいエロいの見れるかもしんないんじゃないすか?」
マハが興奮しながら尋ねてきた。
「マジキモい」
ネネが吐き捨てるように答える。
しばらくついていくと、案の定、人間の村が見えてきた。
「なるほど、こうやって子孫を増やしてるのかもな」
月明りを頼りに、俺たちはブレナのあとをつけていくことにした。
ブレナの手並みはさすがの一言だった。
あっという間に男と女を同時に満足させ、次の家に向かう。
その家もあっという間に終わらせると、次といった具合で、十数軒の家を1時間もかからず満足させた。
「もう十分だろ」
俺たちが帰ろうとしたとき、ブレナたちも集合し始めた。
「もうちょっとだけ見てこうよ」
彼らのあとを追う。
「畑に何かしてる。魔法か」
「多分、不能の魔法だ。作物が徐々に実らなくなる」
「え?サキュバスって人間のエロがないと生きてけないんだよね。その人間の作物できなくしたら、自分たちも困るんじゃ」
「多分だけど、彼らは純粋なサキュバスじゃないから、人間のエロは必要ないんじゃないかな。草喰ってたし」
「じゃあ、人間を滅ぼそうとしてるってこと?」
「そうなるね」
翌朝早く、ブレナが俺たちのところにやって来た。
「何てことをしてくれたんですか!!」
「あ、ごめん。つい気になっちゃって」
「でもどうしてあんなことしてんの?」
「あの村の人間は、ヴァルハートをとにかく傷つけるんです。私たちは彼らに子供を作らせないようにし、食料も作らせないようにして、ヴァルハートを守っているんです」
「で、長期的に村を滅ぼす、と。でもまだ村は滅んでない。ということは、始めたのは最近だと思うんですけど、なぜです?」
「ああ、最近特にヴァルハートの様子がおかしいんです。1年くらい前に動物の集団が村のすぐそばを通過していきました。半年前には、人間の集団が通過していきました。何かが起こっているのです」
「そいつら、西から来てた?」
「ええ」
「だとすると、原因は人間でも魔物でもないですね」
「じゃ、何?」
「勇者ですよ」
ブレナは、ほうと溜息をつくと、首を振った。
「そうは思えないけど。ただ、勇者が出てるって噂は聞いてます」
「どの辺りか分かりますか?」
「噂だと、ここから7日くらい行ったところだけど」
「どんな噂なんですか?」
「そりゃ、魔物の悪夢だって。でも魔物にとってだけなのかしら」
「というと?」
「だって人間の集団も移動してるんですよ」
確かに。動物も人間も移動している……
こんな辺境の土地から、それも1年も前から……
勇者は臨界値を超えている……
俺の頭の中で警報音が鳴り響いた。
「よし、帰るぞ」
「え、こんな急に?勇者見つけないの?」
「見つけたところでおそらくどうしようもないだろう。それよりも早く帰って準備をしなきゃ。ブレナさん、勇者との戦いに協力してくれますか?」
「それはまあ、魔物として当然のことですし」
「ありがとう!!また来ます」
俺たちは魔王領に空間遷移した。
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